クルーソン・ペグを年代別に分析 - ヴィンテージ・ギブソン編

ヴィンテージのクルーソン・ペグはシュリンクと呼ばれる樹脂素材の劣化が特徴です。ツマミの経年変化に注目し、分解もしつつスペックの変遷をご紹介します。

50年代のヴィンテージ・ギブソンをコレクションしている方なら必ず何度か経験している泣きどころが、クルーソン・ペグのツマミ劣化の問題ですね。とくに59年のレスポールに搭載されていたシングルリングのクルーソン・ペグに「シュリンク」と呼ばれる樹脂素材の酸化現象が多く見られます。

59~60年前後のペグボタン素材は、丁寧に保管していてもいつかはボロボロと砕け落ちてしまう運命です。

最初はヒビが入り、そこの周りから結晶のようにパラパラと粉が噴いて、最後はうなぎパイの如くボロボロと崩壊します。こうした現況からも、マニアにとっては良質なシュリンク・ボタンのレプリカの登場が待ち遠しい限りです。

さて、ベースプレートの裏には数字とアルファベットの刻印があります。クルーソンのペグでは、50年代初期から70年代まで一貫して「PATENT NO」または「PAT. APPLIED」と、年式・モデルによって異なるナンバー(上の写真は、D-169400)が刻印されてきました。これは、工場の部品管理ナンバーですから、完成品のスペックが異なる場合は、たとえば「2356766」のような別のナンバーが刻印されています。

一般にツマミがシュリンクするのは59~60年代とされていますので、年式順に状態を見ていくことにしましょう。まず54~55年のレスポール・スタンダードに搭載されたペグです。

この時代の数字は「2356766」で、刻印も「PAT. APPLIED」となっています。シャーシのラインにクルーソンの文字が刻印されないこのタイプでは、ボタンが透き通っていてマーブル柄が綺麗に出ています。ペグを止めるスクリューは、ヴィンテージでは溝が5本で、2/3ぐらいまでしか無いので簡単に見分けられます。

ラインにクルーソンの文字が入る時期(56年頃)からはツマミの透き通った感じは無くなり、乳白色が増してきます。

ツマミ自体はしっかりしており、経年変化による損壊はみられませんが、黄ばみによって迫力が増しています。

続いて、59年レスポール・スタンダードや、ES-335に搭載された、シングル・リングのシングル・ライン、俗に言うバースト・ペグです。

ツマミはすでに結晶化していて、つまんで回すと崩壊します。根元に緑の粉体が発生していますが、これはレスポール・スペシャルに同時代搭載されていた、丸いツマミのクルーソンでシュリンクするタイプにもみられる現象です。

ツマミがシュリンクするのは、エクスプローラーなどに搭載されたゴールドのシングル・ラインでも同じです。

一方で同時期のシュリンクしないツマミは、54~55年の透き通るマーブル柄でなく、飴細工のような色です。

DMCが限定で2005年に生産したペグツマミは、このスペックを正確に踏襲しているうえに、ツマミサイドのバリやヘソもきちんと再現されていて秀逸でしたが、現在入手が困難なのは残念な限りです。写真は、デッドストックのクルーソン・シングルライン・丸ボタンのツマミをはずしてDMCに交換したセットです。

もともとクルーソンのツマミは、56年以降、複数キャビの金型で生産されており、ウエルドラインとバリが見られます。

この部分を再現するには、30t以上の成型機と相応の金額の金型が必要になりますので、コピー品でもなかなか困難なマーキングですね。

次にツマミが取り付けられているシャフト部分ですが、ここは50年代と60年代で大きく異なります。外観ではわかりませんが、ツマミを外すと50年代は先端部分にツマミがひっかかるように突起がありますが、60年代には見られません。

左(手前):60年代/右(奥):50年代

ポスト天面はフラットで、中央にマシンマーキングのヘソがあります。

では、内部の構造を見る為に、ひとつを開封してみましょう。オープンのクルーソンがネジで固定されているのと異なり、クローズタイプはギアとポストがカシメで固定されています。シャフト・ポストともにメッキされていますが、素材はブラスです。

古くなって使われない、または一部が損壊しているシングルラインのクルーソン・ペグを分解・リビルトして再生してみます。こうしたヴィンテージの復刻もマニアックかつエコですね。

メッキの劣化によって、ポストはブラスが露出しているケースも多いですが、おおむね綺麗なペグを分解すると、ブラスの素材が露出しているパーツはギアだけになります。

ペグをベースプレート側から見る機会は普段あまりありませんので、ここではもう一点50年代と60年代の違いを見ておきます。マニアの方は、画像でどこが違うかお分かりになりますね。

クルーソンのペグは、ギブソン社やフェンダー社のほかにも、当時はリッケンバッカー、ケイ、モズライトなど多くのメーカーのギターに搭載されていましたので、似て非なるスペックが多種多様に存在します。Vintage Maniacsでは、さらに時代を広げて、いろいろなバージョンをご紹介していきたいと思います。最後に私が往年のギブソンのペグで一番気に入っている美しいデザインのペグを紹介しておきたいと思います。

これは、80年代のフライングVやレスポールに搭載された、ノーリンマーク入りのシャーラーのペグです。アールデコのロゴと丸みを帯びた美しいラインのシャーシ、メタルのトライアングルボタン。短命に終わったデザインですが、ヴィンテージから脱皮しようとしたギブソンの努力がうかがえます。

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