ペグブッシュ - 手間と時間をかけた工業デザインの美しさ
ペグをしっかりとギターのヘッドストックにホールドするパーツがブッシュです。ヴィンテージのブッシュはモノづくりの観点からみると、なぜこんなにも手間と時間をかけたのだろうと不思議に思うほど多くの工程を経て完成されています。
クルーソン・ペグをしっかりとギターのヘッドストックにホールドするパーツがブッシュです。ヴィンテージのブッシュはモノづくりの観点からみると、なぜこんなにも手間と時間をかけたのだろうと不思議に思うほど多くの工程を経て完成されています。それが60年代中期になると生産量の急増により工程も簡素化されていき、仕上げのバフ掛けなどがなくなってしまいます。こうした変化からも、もともと50年代のブッシュが“意図的に手数をかけていた”のが明確にわかります。
さて、それでは50年代の代表的なシェイプである59年のスラントブッシュを見てみましょう。ブッシュの素材は真鍮(ブラス)で、ニッケルメッキ(スタンダード用)ですからABR-1ブリッジのサドルと同じスペックです。
画像左側が「スラントブッシュ(命名はDMC)」と呼ばれる、天面の突起部分が周囲に向けてなだらかに傾斜している美しい形状の個体です。右側は同じスペックですが、65年のSGスタンダードに搭載されていた「フラットブッシュ」で、基本的な形状、スリット数は同じながら天面のバフ掛けが省略されており、上部から見た印象が大きく異なります。
サイドから見るとスリットがルーフ付近で0.5mm程を残して止まっているのがわかります。これは65年も同じですが、たまにこのスリットがルーフまで突き抜けている個体があります。ロットによって若干異なるのですが、明らかに“途中止め”の方がしっかりとヘッドストックにホールドされ、あとあとポロリと抜け落ちるようなことが無いのです。また製造機器の仕様からみると、スリット(ローレット)をルーフ下まで切る(加工)することは非常に困難です。圧力の加減により偶発的にルーフ下まで到達することもありますが、これは機械のセッティングにより異なります。
先ほどのブッシュを下から見ると59年(左)と65年(右)でボトムの処理が異なり興味深いです。59年は内側にすり鉢状に傾斜しているのに対して65年は外側に傾斜しています。
次の写真は同じギターに搭載されていたセットのブッシュを、59年のスラントと65年のフラットで比較しています。ボトムの処理が違う以外にはまったく同じ仕様になっているのがわかります。スリットの数も同一です。フラットヘッドは、過渡期に“若干バフ掛けされた”ものが混ざったりしています。右上の一個のみ、ヘッドが途中までスラントしています。
参考までに、世界で初めてスラントブッシュを復刻したヴィンテージ・レプリカ・パーツの雄「Dead Mint Club」のVintage Slant Bush(右)と59年のスラントブッシュ(左)を比較してみましょう。
2段階にバフ掛けされた天面の美しさはヴィンテージと比較しても遜色ありません。サイドビューでも2つを並べて比較しないと見分けがつきません。しかし実はDMCではヴィンテージとレプリカが混在してわからなくなるのを防ぐためにスリットの本数を1本減らしていました。後年市場に登場するコピー品がスリットの数までDead Mint Clubの仕様を踏襲しているのはほほえましいですね。またスリットの形状も若干オリジナルとは違っていて、知っていれば区別できます。
さて同じ年代の他のギターに搭載されていたブッシュはどうなっていたのでしょう。59年のレスポール・スタンダード、レスポール・ジュニア、フェンダー ストラトキャスターを比較してみます。
画像中央はレスポール・ジュニアに搭載されていたハトメタイプのブッシュで、スリットも何もなくとりあえず押しこんであるだけなので早晩外れてしまいます。ニッケルのハトメブッシュは紛失するとリプレイスメントパーツがない、または入手し難い厄介な部品です。一方同じクルーソン社にペグを外注していたフェンダーはコスト・オリエンテッドなパーツ選びで、天面のスカートは薄く、極力手間とコストを省いています。本体部分はギブソン用ブッシュよりも短く、ヘッドストックへの取り付け穴も異なっていました。
パーツひとつひとつにも工業デザインの美しさを求めるギブソンは、同時代のベースに使うブッシュにも同様に丁寧なバフ掛けを施しています。
最後に筆者が最も好きなブッシュを紹介いたします。これは68年のフライングVに搭載されていたクロームのブッシュですが、同年代のSGやESシリーズに搭載されたものとまったく異なるスペックなのがわかりますでしょうか。さまざまなパーツへのこだわりをみせるギブソンらしい加工ですね。
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