ES-175 - GibsonによるGibsonのためのGibson的な決断(前編)

ギブソン・ギターの中で長寿なモデルといえるES-175。1949年の登場から長期にわたりミュージックシーンを支えてきたモデルを、前後編の2回にわけてご紹介いたします。

ジャズミュージック界を支えてきた長寿モデル

Gibsonギターのラインナップにあって、もっとも長寿といえるモデルのひとつがES-175です。1949年に登場してから、68年間の長きにわたりジャズミュージック界を支えてきた中心的なギターが2019年に幕を閉じたのは、音楽シーンにあってギターの位置づけが大きく変化してきたことの現れだと思います。

ハードケースをご覧いただいておわかりのとおり、ミントの状態を維持しているこの個体は、アトランタのミッドタウン・ミュージックの倉庫に眠ったままの状態で発見され、それ以降ずっと私の手元でともに時間を過ごしてきました。

ケースのラッチは古き良きブラウンケースの時代を連想させ、ブラス独特の鈍い輝きを放っています。

ケースの取っ手を壊したのは、グリーンビル空港(S.C.)の保安係員で、いまでもその時の事を想い出すと、沸々と怒りがこみあげてきます。その怒りを忘れないために敢えて修復せずにいたのですが、今回は新しいハンドルにリペアする決心がついたので、章の最後にご紹介しますね。

このギターの歴史や背景を知るには、Adrian Ingram著の『The Gibson ES175』が秀逸で、愛用したギタリストに至るまで細かに解説されていますので、ぜひ機会を見つけて読んでみてください。本のタイトルは「ES175」となっていますが、普段カタログなどに表記されるGibson社の正式型番はもちろん「ES-175」で、アルファベットと数字の間にハイフンが入ります。

60年代の雰囲気が残るヘッドストックとポジションマーク

さて、写真の個体を詳しく見てみましょう。

ヘッドストックのシェイプとロゴは、60年代の雰囲気を色濃く残しています。

上下にひしゃげた感じがするオープンオーのロゴは、68GTファンにはたまらないスペックですね。

ネックがワンピースであることや、2コブのクルーソン・デラックス(Gibson Deluxe)から、概ね67~69年頃の生産と推察します。

フィンガーボードのインレイは、60年代後期らしい「ガラス模様」で、復刻版のない独特のパターンです。

175ドルのES-175

ES-175は1949年に142本が製作され、175ドル(モデル名の由来だそうです)という価格で市場に登場しました。その後、1952年には1,000本まで生産数量が増える人気モデルになっています。レスポール・モデル・サンバーストが登場した59年頃には生産台数が300本まで減少しますが、その後も継続してラインアップにとどめられ、70年代にはブームが再燃。76年には1,643本を出荷するほどになりました。

価格の変遷を見てみると、登場した1949年が175ドル、1960年のカタログでは325ドル(同年のレスポール・スタンダード・サンバーストは265ドル)となり、1965年には425ドルまで上がっています。アーチのついたトップや複雑な加工のサイド・バック、豪華なインレイ、ブリッジやテールピースなど、随分と製造工程に時間がかかるスペックでしょう。

2ピックアップのES-175D

このモデルは、正式には「ES-175D」というモデルで2ピックアップになります。シングルピックアップモデルは、1970年中期にディスコンされるまではラインナップに残されていましたが、センターピックアップが中途半端な位置にあることなどからあまり人気は出なかったようで、生産本数も限られていました。

後編では、このギターの年式判定が難しいピックアップやエスカッションのスペックを見ていきます。

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