3連ペグ概論(1) - ギブソンの効率化が生んだ愛おしい工夫の賜物

効率的なギター製造のために、ギブソンはいろいろな工夫をしてきました。今回は工場のアッセンブリー工程でペグの取り付けの手間を大きく省いた、愛おしい工夫の賜物「3連ペグ」に注目。多彩なスペックでヴィンテージギターマニアを惑わす、ディープな世界をご紹介します。

3連ペグは愛おしい工夫の賜物

ギブソン社の設計思想というか、グレードの分け方は製造コストやパーツの原価と連動していて、いたって合理的に解釈できます。フォードモータースによって確立された大量生産は製造工程を単純化し、作業者に依存しない標準化の推進でした。こうした生産技術は1950年代にはアメリカの工業界全体に普及し、軍需を経て、車にとどまらず電化製品や娯楽用品にいたるまで、熟練工を必要としない「生産性の高い工場」につながっていきます。

我々が愛し憧れ愛でているヴィンテージ・ギブソンも、一部の高級ジャズギターを除けば、一人が最初から最後まで作り上げることはまれで、工場紹介の写真でもわかるように概ね分業を極めています。ですので、市場に大量生産の異なったグレードを投入するためには、部品部材原価を下げることはもとより、製造にかかる人件費など工数を削減することも大切なミッションだったのです。下の写真はSGジュニアのクルーソンです。表から見ると6個のペグに見え、チープ感はそれほどありません。

しかし裏から見ると2つのパーツ(英語では3 in Lineと呼ばれるタイプ)です。工場のアッセンブリー工程での取り付け工数は1/3ですから考えついた人は天才!そんな訳で、ギブソンのベーシックモデルに採用されている、なんとも愛おしい工夫の賜物を見ていきましょう。

取り付けは簡単でも交換が大変

ペグ本体は3つのユニットが1枚のプレートにのっていますが、シャーシ部分はSGスタンダードの独立ペグと大きく変わりません。ネジの本数は12本が8本となっており、1~3弦(4~6弦)を工場ラインで同時に取り付けられます。ただしペグが1個壊れても3個まとめて交換しないといけない、ヴィンテージマニア泣かせのパーツでもあります。

オープンタイプの3連ペグ

メロディーメーカーの3連ペグは、その時々で結構適当なスペックです。これは50年代のスタンプシリアル・サンバースト・メロディーメーカーに搭載されたペグで、オープンになっています。見るからにチープで、すぐに固くなりそうでしょ?

このオープンタイプは結構長期間搭載されました。

写真の上が60年代のチェリーレッド・メロディーメーカーです。

ラップスティールに搭載されたブラックのツマミの謎

ちょっと変わったところで、コリーナ・ラップスティールの3連ペグはツマミがブラックです。理由がわかりません(笑)最初、ラップスティールには専用のポストが使用されていて、通常のクルーソンと取り違えないようにかな?などと思いを馳せましたが、ポストは同じでした(笑)

ノーラインの3連ペグ

54年のレスポール・ジュニアはノーラインです。

シャーシのニッケルメッキは独立タイプと同じですが、ポストはニッケルメッキが剥がれてブラス素材が露出しています。

リッチ・ロビンソンが置いていったペグ

ノーラインのペグは57年頃からはシングルラインに移行していました。

このレスポール・スペシャルは、ブラウンケース付きで89年の秋にグリーンウッドの同僚の兄から購入したのですが、購入したときにはペグのツマミが崩壊(ボタンペグにもシュリンクするものがありました)して、チューニングができない状態でした。翌週にペグを探しにアトランタへ車を3時間飛ばしていき、地図と電話帳(からチギッたページ)を片手にたどり着いたのが郊外の「Famous Bargain Music」。カーナビなんて便利なものは当時ありませんでした。

オーナーのJack Spenceから、前のバイトが「いらないから」と置いて行ったのを貰ったのを覚えています。ちなみにその「前のバイト」というのは高校時代のRich Robinsonです(笑)

ギターショップ泣かせの「やりたい放題」な仕様

エントリーモデルのメロディーメーカーが全部オープンバック・クルーソンかと思いきや、60年代初期のモデルには、シングルラインのクローズド・クルーソンも搭載されており、レスポール・ジュニアなどと厳格に区別していたわけではなさそうです。ちなみにポストが錆びるのは3連の特長ですね。

このほか、SGジュニア(下の画像はヘッドに黒の塗装がないレアなモデル)も、60年代中期なのにシングルラインの3連が搭載されていたりします。パーツがあまったのでしょう。

これはスペシャルなのに、オリジナルスペックで安価なメーカー不明の3連メタルボタンが搭載されたりと、やりたい放題です。

入荷したギターを「フルオリジナル」と記載していいのか判断が難しく、3連クルーソンペグはヴィンテージギターショップ泣かせなのでした。

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