Gibson L-5SとL-6S - レッドアバロンの厚化粧とすっぴん美人(後編)

厚化粧のL-5Sとくらべて「すっぴん美人」のGibson L-6S。Custom/Deluxe/Midnight Specialと入り乱れる複雑なスペックを整理しつつ、豪華仕様のL-5Sと同時期に企画されたL-6Sの細部に迫ります。

エポックメイキングなモデル

VMややこしいギターの時って、決まって僕に声がかかるんですけど。

FVまあまあ、そう言わずに。帰りに「エイト」で水餃子おごるからさ。

VMえー、「かおたん」のチャーハンがいいなあ…。

FVで、今回は「ギターがややこしい」っていうか、当時のギブソンの「商品企画がややこしかった」って話だと思うんだよね。

VM「厚化粧」とか「すっぴん美人」って、見たまんまのタイトル付けてますが。

FVその「すっぴん美人」のL-6S。L-5Sの弟分だって 前編で書いたんだけど、L-6Sは24フレットだって、知ってた?

VM知ってますよ! 指板の掃除ぐらいしてください、まったく。写真を拡大したら読者がげんなりしますよ! で、フレットですけど、L-5Sは22フレットでしたよね?

FVギブソン初の2オクターブ、そしてビル・ローレンス・プロデュースのピックアップ。込み入ったロータリースイッチ。何から何までエポックメイキングなはずが、今ひとつヴィンテージとしての人気がないんだよ。

VM当時はサンタナさんが使って、随分と売れたんですよね?

FV販売台数としては好調だったみたいだね。アル・ディメオラや、ポール・スタンレー、マイク・オールドフィールド、キース・リチャーズがエンドースメントで使ってたし。

VMどれくらい作ったんですか?

FVギブソンの出荷記録では、Customというロータリースイッチ搭載のモデルが12,000本以上となっているから大成功だな。そのあと、Midnight Specialというイカしたネーミングのボルトオン・ネック・モデルが2,000本。同時に廉価版のDeluxeはセットネックで3,500本製造されている。シリーズ合計で約18,000本らしい。

錯綜する複雑なスペック

VMあれ? ミッドナイトスペシャルがボルトオンですか。紹介しているナチュラルはDeluxeなのにボルトオンですよね。

FVミッドナイトっていっても、ボディカラーはブラックだけじゃないからさ。スペックもいろいろあるんだよ。誰か、ちゃんとまとめた資料だしてないのかな。

VMそれって、FVさんのミッションじゃないですか?

FVあ、そうか。カタログのサンバーストモデルは、ピックアップがブラックのプラスチックカバーで3点支持だろ? マローダーとかとスペックが入り乱れてるな。

VM錯綜してます。整理してください、みんなのためにも。

FVこんな感じかなあ。

VMまた適当な図でごまかす! だめですよ、ちゃんと分かるようにしてくれないと。この表だと、セットネックの1Pボディに、ボディスルーがあるじゃないですか。

FVえ、無いの?(笑)

VM話を伺っていると、こんなマトリックスでしょ? テールピースはイマイチ謎ですけど。

FVボディカラーもいろいろな組み合わせがありそうだから宿題にしておこう。ところで、ちょっとめずらしい「プロトタイプ状態」のモデルがパンフレットにあるんだけど…。

VMあ、めずらしいですね、アコギのGospel。短命でした。

FVわざとボケてるだろ? そっちじゃなくて下段のL6-Sだよ。ピックガードが変だし、ヘッドのGibsonロゴが筆記体になっている。

VMしかもブリッジの名称が「Wide range tuneomatic bridge」ってなってますね。あ、ポジションマークがブロックだ。

FVそんなわけで、追いかけてもなかなか全容が見えないんだ。今回つくってみた表も、本来はGibson社が販売店に説明できるように、セールス用のパンフとかに掲載されているべきものなんだけどね。

VMPRSとかはマメに載せてますよ、仕様のマトリックス表。

FVあ、それってPaulの性格そのものだから。ダイナミックにチマチマしてる(笑)

普及機だけど手は抜かない

FV初期のカタログに登場しているブラックとナチュラルを見て、ブラックをMidnight Specialと勘違いしたファンも多いだろう。

VMでもまあ、カタログの表紙がサンタナさんだけに、ナチュラルが一番売れたんでしょうね。

FV細部を見ると、普及機だからといって、このボルトオン・ネック・モデルに手抜きをしている印象は無いな。安く仕上げるなら、でかいピックガードをつけて、そこにピックアップもコントロール類もスイッチもインプットジャックも載せちゃえばいいからね。

VMそれやったら、お隣のメロディメーカーですよ。でも、Melody Maker Doubleは価格設定が安くなかったですよね。

Gibson L-6Sの細部をチェック

VMヘッドストックをくらべると、兄弟機と思えないぐらいL-6Sはシンプルですね。

L-6S
L-5S

FVこのモデルはロッドカバーが普通のベルタイプだろ? 本来は「L-6S」とか書いてあるはずなんだけど。

VMミッドナイトスペシャルは正式な広告誌面やカタログ掲載がないんですが、L-6だけで「S」が無いって聞いたことありますよ。

FVなるほど、このモデルは「L-6 Midnight Special」って事だ。いわゆるPaul Stanleyモデル。

VMこの記事のタイトルが「L-6S」ってなってますが、間違ってるじゃないですか! しかも、KISSのPaul Stanleyは厚化粧ですよ!!

FVピックガードの下、随分日焼けしてるね。

FVネックジョイント部分は結構雑な加工だ。裏から見るとネックプレートでがっつり留めてあるけど、なんか惜しいね。

VMそれでも、ちゃんとポインターとかついてて良心的ですよ。もともとはスピードノブですよね?

FVそこはカタログにもちゃんと書かれているから、写真の個体はノブが交換されてるね。

VMネックジョイントとフロントキャビティの間の薄くなったボディ、よく割れませんでしたね。

FV今回はタイトルを間違うほどややこしいL-6Sにスポットを当ててみたけど、あらためてL-5Sのバブリーなゴージャスさに感嘆しつつ、同時期に1/3の価格のL-6Sを企画したギブソンの懐の深さに脱帽だ。

VM最後になりますが、FVさんがタイトルを間違って落ち込んでるので、私から紹介させていただきます。うれしくも、L-6Sのハードケースにキーが付属していましたが、似た形なのにブラウンケースには使えませんでした(笑)

L-5SとL-6Sのハードケースを紹介

L-5SとL-6S、それぞれのハードケース。L-5S用はアーチトップでL-6Sはフラットトップ仕様。内側のライニングカラーも異なる。

マイク・オールドフィールドの「L-6S改」

(3時間後…)

VMあ、まだ事務所にいたんですか。

FV言い残したことがあってね。ギターを撮影しながら、大ファンだったマイク・オールドフィールドのL-6Sの事を想い出してさ。いろいろ写真を探してたんだよ。

VMあの人、FVさんとギターの趣味が似てますよね。SG Jrだったり、ゼマイティスだったり。関係ないけど、5月生まれで誕生日が近いっすよね。

FV彼のギターの中でも、私が大好きというか、Gibson & Zemaitisのハイブリッドで、これ以上素敵なギターはないはずだって、そんな「L-6S改」があったんだよ。

VMへえ、ゼマイティスがL-6Sモデルを作ったんですか?

FV正確には、トニー(ゼマイティス)が、マイク(オールドフィールド)の依頼で、彼のL-6Sにダニーのエングレイヴ入りゴテゴテのメタルトップを貼り付けたギター。アルバム『プラチナム』やツアーで使用された、ヘッドにもプレートが貼られたやつね。

VM1980年の来日公演を見逃したFVさんにとっては永遠の後悔ですね。

FVマイクのライブは、ドイツ留学中の1982年10月にハノーファーで観れたけど、その時は「L-6S改」は使わなかったよ。学生時代の「後悔」を思い出しちゃった…。

VM見逃したものって、観たものよりも記憶の奥深くに残ってますよね。

FV「手に入れたものよりも、手に入らなかったものへの憧憬」かあ…。

VMメソメソしないでくださいよ。そろそろ「かおたん」行きましょ!

(Courtesy of Simon Jones)

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最高級素材のレッドアバロンをふんだんに使った優美なインレイが特徴のGibson L-5S。豪華な装飾で高額なこのギターは、カラマズー工場の職人達の精緻な伝統技術とプライドが随所に表われている逸品です。

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