Gibson L-5S - レッドアバロンの厚化粧とすっぴん美人(前編)

最高級素材のレッドアバロンをふんだんに使った優美なインレイが特徴のGibson L-5S。豪華な装飾で高額なこのギターは、カラマズー工場の職人達の精緻な伝統技術とプライドが随所に表われている逸品です。

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ソリッドボディ・ギターの最高峰

前編は、ギターのインレイに使われる美しいシェル素材とGibson L-5Sのお話です。みなさんも耳にしたことがあると思いますが、ギターに使われるポピュラーなシェル素材は「白蝶貝」や「アバロン」ですね。ギブソンのインレイといえば、概ね「MOP(Mother of Pearl)=白蝶貝」が使われています。ヘッドストックのGibsonロゴや、カスタムの指板にあるブロックインレイなどです。アバロンはMartin D-45のパーフリングが有名で、虹色に輝きキラキラとカラフルです。実はギブソンにも、このアバロンの最高級素材をふんだんに使ったカタログモデル(通常ラインナップモデル)がありました。1972年にソリッドボディ・ギターの最高峰として登場したL-5Sです。

ジャズギターのL-5をイメージし、これ以上無い豪華な飾りを纏ったL-5Sは、まさに「リッチかつバブリーなスペック&価格」で、他のソリッドモデルとは一線を画し、多くのギブソンファンを驚かせました。それもそのはず、定価445,000円の設定は、廉価版L-6Sの実に3倍の価格設定でしたから。

カタログでの扱いも別格ですね。

入手困難の美しいシェル素材

さて、このギターに使われている「アバロン」と呼ばれているアワビ貝ですが、実は産地や種類によって、貝の色合いや硬度、柄などが異なり、トレードされる価格に大きな差があります。ちなみにフルアコのL-5は白蝶貝のインレイです。

写真の左側が、レッドアバロンとよばれる大型の「Sea snail(Haliotis rufescens)」で、カナダからメキシコ海域に生息する最大種になります。

時には30cm以上の個体となり、カラフルで上品なピンクのリップ材が特徴ですが、「Abalone wasting disease(貝の伝染病)」により激減し、現在では入手が非常に困難です。右のグリーンアバロンは、シェルのセンター部分が緑や紫、ブルーに輝くリッチなカラーが特徴で、貝の中心部分(Heart shell)は、自然界でこれほどまでに美しい色が存在するのかと感嘆します。

※シェルの外周部分を示す単語。対して、中央のカラフルな模様が出る部分は「Heart」と呼ばれる。

比較してみると、L-5Sには「レッドアバロン」が使われているのがわかりますね。

ヘッドストックのフラワーポットインレイも、レッドアバロンが丁寧に加工されています。

遠目に見ると、白蝶貝がホワイトに輝くのに対し、レッドアバロンのリップ材は薄いピンクイエローに反射します。大きなゴールドテールピースやハムバッカーのメッキ、ペグのカラーと調和して、縦に一直線の美しいストレートラインを描いています。レスポール・カスタムの白蝶貝が強く主張しているのと対照的に、控えめで優美なインレイですね。

L-5Sのスペック変遷

アメリカンバンドの雄として、むやみに大ヒットを飛ばしていた「グランド・ファンク・レイルロード」のマーク・ファーナーが使用し、パット・マルティーノをはじめとする数々のジャズギタリストに愛されたL-5Sは、時代とともに、「ローインピーダンス・ピックアップ(First Ver.)」→「スーパーハムバッカー(Second Ver.)」→「TP-6テールピース(Third Ver.)」と仕様変更しながら、80年代までソリッドボディのトップオブザラインとして君臨することになるのです。

カタログ上は、The Les Paulが最も高額なエレクトリックギター

L-5Sには、冒頭に価格比較した弟分とも言えるギター「L-6S」があります。その紹介は後編にゆだねるとして、今回はL-5S(セカンドバージョン)の細部を見ていきたいと思います。ギブソン・カラマズー工場の職人達が見せた、精緻な伝統技術とプライドが随所に表われている逸品だと思います。

驚きのバックプレート

しょっぱなから驚くのがバックプレートです。無垢のメイプルを厚く削り出して、ボディのカーブに合わせた一体感は比類なき加工技術で、これを工場の生産ラインで一台一台、加工していたと思うと高額なプライスタグも納得がいきます。

特筆すべきは、5本のネジのうち1本(上の画像の下から2本目)だけが長い点です。バックプレートの一番肉厚の部分に、この「長いネジ」がセットされています。SGなどで、キャビティ側のネジ穴が「バカ」になってスリップするスクリューをよく見ますが、その弱点を回避する配慮がなされています。

この個体は、トップもバックも、鋭角で深みのあるタイガーストライプが綺麗に浮き出ています。それぞれ3ピースです。

L-5Sすべてが3Pトップというわけではなく、センター2Pがあったり、中には1ピースがあったりして、スペックとして固定していないようでした。

高級感のあるバインディング

ネックとボディには「W/B/W/B/W」のラミネイト・バインディングが施されていて、高級ジャズギターの雰囲気が出ています。

指板エンド部分の、手の込んだ「{」シェイプは、同じラミネイト・バインディングでもレスポール・カスタムとは大きく違った印象を与えていますね。

ピックアップとブリッジ周り

ピックアップは厚いメッキのスーパーハムバッカーで、裏から見るとエポキシ樹脂で固めてあるのがわかります。

ローインピーダンス・ピックアップからハムバッカーに仕様変更されて以降、一貫してこのピックアップです。キャビティから伸びる、ワイヤー用の丸い溝の加工は非常にタイトで無駄がありません。

幅広い「ワイドトラベル・チューンオーマチック・ブリッジ(俗称:ハーモニカブリッジ)」が、L-5ゆずりの豪快なテールピースとバランス良く鎮座していて、この部分だけ見ても、随分とスーパーリッチな雰囲気が出ていますね。

恒例のネジチェックですが、低いエスカッションには似合わない長めのネジとの混用でした。普通は、この高さであれば短いネジ×8本のほうが、メンテナンス適正があると思うのですが…。

キャビティ内部は単純なカマボコ型に加工されていていてシンプルです。

レスポールやSGは、もう少し「でっこみ引っ込み」があるので、ここは「蓋を開けたら拍子抜け」でした。

同年代のThe SGのキャビティ

スリムなデザインの薄いボディとフレイムメイプルのネック

L-5Sは手に持ってみると、写真で見たゴツさよりも身体にフィットする優しいアーチが随所に施された、スリムなデザインであることに気がつきます。ソリッドボディのL-6Sと比べてみても、いかに「L-5Sのボディが薄いか」が、わかりますね。

ネックジョイント部分のボディ厚はレスポール・カスタム並みですから、ボディエンドにかけて随分と丁寧に加工して、ぜい肉をそぎ落とした印象です。

ネックにもフレイムが出たメイプルが使われています。普通の3Pではなく、3Pの間をマホガニーでサンドイッチする5ピース構造です。

この個体はペグがゴールドのシャーラーM6に交換されていますが、もともとはフルアコ同様にクルーソンのシールシャフトでした。

しばし、美しいタイガーストライプをお楽しみください。

「レッドアバロンの厚化粧とすっぴん美人(後編)」はL-6Sの特集です。

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