マホなのにラージなレスポール・デラックス
70年代はギブソン社が試行錯誤しながらも50年代の楽器をリスペクトし、未来を目指した素晴らしい10年でした。今回はギター仲間の「Isao-san」が持ってきてくれたレアな逸品、ラージハムバッカーのLes Paul Deluxeを見ていきます。

「Isao-san」は、さりげなくレアな逸品を持ってフラリと遊びにきてくれる、徒歩10分のご近所ギター仲間です。今回は、ラージハムバッカーのLes Paul Deluxe。しかも、ピックアップカバーに刻印入りというマニア必見のスペック。彼の愛車「ルパンのフィアット500(チンクエチェント)」は、時に徒歩よりも時間がかかる移動手段ですが、そんなライフスタイルは、薔薇愛好家としての敬意も含め、マニアックな師匠格の一人であります。

いつも驚かされるのは、欲しいギターを手に入れるために、①語学を磨き ②手紙をしたため ③待つことを厭わず ④コンディションに拘り ⑤ケースを愛する かつ、⑥何も捨てない という、六冠王な点です。そして、コレクションを自慢しないところ。とにかく「コダワリが完璧」な点は、お会いして会話が弾むたびに学ぶ姿勢が多い。持っているものを見せびらかしたい私など(特にArtist Case Sorrent 笑)、足元にも及ばない。


マホガニーネックのLes Paul Deluxeは、ミニハムバッカーを搭載して70年代初期に登場、一世を風靡しました。が、一方で「昔ながらのディストーションサウンド」を求めるハードロック・ギタリスト達には上品すぎて敬遠され、ディマジオやT-Topにリプレイスされている個体が多かった。当然それらは、キャビティが大きく加工されていて、ちょっと残念な時代なのです。ところが、この「カラマズー工場の出荷履歴」を見てください。1972~1974年の間に、わずかながら「with Humbucking Pickups」というバージョンが製造されていたのです。本数はわずか216本(76年のメイプルネックを入れると221本)

筆者も何本か見たことはありますが、ここまでコンディションが良好で、かつ「Gibson刻印バッカー」が搭載された個体は初めてです。


今日は来てませんが、失礼なことを言わせると右に出る人がいない「VM君」なら、「これ、グレコっぽいですよね」とのけぞったことをぬかしそう。確かに異質な印象を受けます。SGでは見慣れているルックスですが、ボディシェイプが変わると随分異なるイメージ。

ネジ1本までフルオリジナルでハンダバージン、ケースオリジナルです。ひとつひとつ見ていきましょう。









ギブソン社は、この時代に明確な意図を持って「Gibsonロゴ」をピックアップカバーに刻印したわけですが、LP シリーズ、ESシリーズやSG、FVなど、フルサイズ・ミニサイズ問わず、あらゆるハムバッカー搭載機が刻印に移行し、そしてP-90やメロディメーカーのシングルコイルPUまでもGibsonロゴ付きになっていく様子は、ギブソン社にそうさせた原因・理由をもって、「メーカーの哲学とはなにか、モノ作りのプライドとはどこにあるのか、ホンモノとは何か」を深く考えさせられる出来事に感じています。



70年代はギブソン社が試行錯誤しながらも50年代の楽器をリスペクトし、未来を目指した素晴らしい10年でした。それを体感したコレクター達が胸躍る、そして琴線に触れる素晴らしい個体が、まだまだエクセレントなコンディションでマーケットに現れてくるでしょう。そのチャンスを迷わずに手にすることのできる幸運な人も、また「ギブソンがギブソンであるための本質」を愛していくことになります。そう願っています。
ヴィンテージギターのハードケースを開けると、そこにはオリジナルオーナーが大切に保管してきたタグやレシート、ストラップ、カポや弦が入っています。学生時代にお父さんと一緒に楽器店に行き、ギターを選び、買ってもらってケースを開いた瞬間から手放すまで、取説さえも大切な一部として、彼の音楽を支えてきたのだと思いを馳せています。









【追記】Isao-sanのマニアックさは、ハードケースのリペアにも表れています。筆者はサイドテーパーのステッチ補修に情熱を燃やしてきました(笑)が、今回はIsao-sanの並々ならぬ執着力で、損失したテーパーが復刻できました。これを作ってしまう執念がすごいっす。






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