音の本棚「Beyond my memory - Vの記憶」その1

ちょうど40年前の記憶になる。ヴィンテージギターショップの雄「Guitar Trader」が売りに出したカスタムオーダーの幻の71フライングV。白黒ページにしまい込まれたそのギターと、40年ぶりにカラーページで再会した。

Guitar Trader’s Vintage Guitar Bulletin

今年が2021年だから、ちょうど40年前の記憶になる。当時、レッドバンクスに実在したヴィンテージギターショップの雄「Guitar Trader」が、1,250ドルで売りに出したカスタムオーダーのフライングV。そのユニークな仕様から、当時は「改造品だろう」「いや、NAMMショーで見た」「エンプロイ・モデルと聞いた」などと囁かれながら、今日まで行方をくらませていた幻の71V。その全容が、いま明らかになった。

半世紀に近い時代をまたぐ私の記憶を呼び起こしたのは、この2冊の雑誌だ。一冊は、Guitar Traderの顧客向け在庫リスト兼ニュースレターを編集発行した「Guitar Trader's Vintage Guitar Bulletin Vol.1」。

音棚」の記事を書くために、この古い雑誌を読み返していた私には、何本かの記憶に残るギターがあった。まず、表紙をかざった「バリトラ(当時はこういう呼び方をしていた)」のバースト。実際に販売された在庫だから、今から振り返ると垂涎である。このBulletinが発行されたのは、1982年5月と記載されているから、当時はフライングVのシャモジヘッドは「新品の商品」だった。

「5月末までに在庫分を購入した方には、60ドルの値引き(リベート)、さらに読者は15ドルの値引きを上乗せ。590ドルで手に入ります。31日の消印まで有効」夢のような話だ。当時のレート($=235円)で換算すると、 138,650円だから、日本国内の正規ルートで販売された輸入品の店頭価格よりも随分安い。余談だが、なぜ支払いに「消印有効」となっているのか、不思議に思った人もいるだろう。 これは当時アメリカの通販では、クレジットカードよりもパーソナルチェック(個人振出小切手)での支払いが主流だったため、その郵送を指している。私も受け取った少額のパーソナルチェックで、いまだに換金し忘れて所持し続けているものがある(笑)

上から2枚は「International Postal Money Order」と呼ばれる郵便為替。一番下が「Personal Check」で、いわゆる個人振出小切手。昔はギターショーとかの現場では、クレジットカードが使えないことが多く、こうした銀行が個人に貸与した小切手に金額を書いて売買に使われたりした。受取人の名前を記載するのが特徴で、多額の現金を持ち歩く習慣のないアメリカではポピュラーだった。

本数限定で復刻した「幻のロングヴァイブローラ搭載1982年ファイアーバード」もしっかりと告知されていて、「入荷しました。1,250ドル!!」って、大々的に掲載されていた。

当時は、メダリオンのファイアーバード以降、ギブソンがロングヴァイブローラを復刻していなかったので、この「レフトオーバーパーツを搭載したFBⅤ」 は、まことにもってジョニー・ウインター・ファンの「憧れの限定復刻」だったのである(と、私は思っている)。並行して、ヴィンテージ・レスポール復刻の分岐点にもなった、 「ギタートレーダーズ・59フレイムトップ」の先行予約も「1,500ドル」で受け付けていた。「カラマズー工場で作られます。オリジナルのPAFピックアップです」というコピーがマニア心をくすぐる。「50%のデポジットが必要」とも書かれている。

幻のカスタムオーダー71フライングV

そして、「記憶の彼方のフライングV」登場である。

「1971年製、カスタムオーダーで、ボディ・ネックにバインディング。ゴールドパーツ。そしてブロックインレイ。工場の書類一式付き」なる解説である。

冒頭で述べたように、当時はVマニアの間で、国際電話とFAXとエアメールで真贋の論争が起こった。今のようなインターネットの情報シェアは無いから、自分の意見をのべたら、相手の返事を一週間待つという按配だ。それでも、みんな真剣に熱く語り合っていた。そして結局、このギターが誰に買われてどうなったのか…、その後誰も議論しなくなり、いつの間にか「Guitar Trader's Bulletin」の白黒ページにしまい込まれたまま40年が経ったのである。

「そういえば、手元にナチュラルVがあったな。懐かしいな」と思い出し、ちょっと引っ張り出してみた。

カッコいいよね、ナチュラルのセンター2ピースボディ。ハードケースのステッカーは元のオーナーが貼り付けたまま手つかずだ。

地元のFM局やギターショップのステッカーが、ヴィンテージ感満載! メダリオン・ リチューニングの記事でも紹介した、センターブロックが健在の過渡期仕様だ。

そんなこんなで撮影していたら、毎月定期購読している「Vintage Guitar Magazine」の2月号が国際郵便で届いた。

ペラペラとめくっていると、Vのページが目に留まった。偶然というか、突然というか、想い出というものは時として奇跡のようなタイミングで現実になって訪れる。土曜日の朝に、本棚から古い雑誌を出して、小さな白黒写真を眺めて、ギターを倉庫から引っ張り出してきたら、そこに発売されたばかりのマガジンがUSAから届いて、カラーページに、40年間自分の記憶の奥にしまっていた「白黒写真71V」が載っていたんだから。

「音の本棚」なのに、いつのまにか現実世界でこんな再会があるなんてね、シックスセンスだよ、まったく。

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