スターキャスターとMusic City Jr. - 試行錯誤のGとF

フェンダーのセミアコ「スターキャスター」とギブソンの「Music City Jr.」という2本のギターに注目します。意識しあう2社のモデルからは、お互いへの憧れと尊敬を感じます。

スターキャスターは異彩を放つレアモデル

ギブソンファンにとって、フェンダーが60年代中期から発表してきたセミアコースティックギターのシリーズは、相当邪道っぽく見えるモデルだと思います。ギブソンが追及しているセミアコ、フルアコというハンドメイドにも通じるハイエンドモデルをデタッチャブルネックで実現しようとした訳ですから、コンセプトの良し悪しは別として、市場から歓迎されたかどうかはその後のセールス結果をみると明らかでした。つい最近までは、eBayで700ドルも出せばコンディションの良い1ピックアップモデルが入手できましたね。その中でも異彩を放つレアモデルが、70年代に登場したスターキャスターです。もともと生産本数が少なかったため、日本国内でも当時は山野楽器のカラーカタログで見る程度だったと記憶しています。

さて今回は、そんなレアなスターキャスターを復刻したフェンダーと、トーンベンダーを搭載してテレキャスターになりたかったギブソンの2モデルをご紹介します。

スターキャスターとMusic City Jr.のスペック比較

スターキャスターはハムバッカーを2基搭載したことでグッとギブソンっぽくなりました。今回見ていくのはサンバーストモデルですが、復刻版は他にブラックとナチュラルがあります。

レスポールはナッシュビルのショップ「Music City」にちなんだモデル名です。トーンベンダーを搭載し、ストラップ操作で音程を変化させられる優れものです。ボディカラーはこの1色で、べっ甲柄のピックガードを搭載しています。ピックガードのシェイプを見ていると、まさにテレキャスターっぽいデザインだと感じます。いっそのことピックアップにはメタルカバーのシングルコイルを搭載する手もあったと思いますがギブソンはP-90に力を入れているようです。

このアングルで2本を見くらべると、フェンダーとギブソンを見間違えてしまいそうです。位置を入れ替えてみても、やっぱりナチュラルのモデルがフェンダーっぽいです。

ヘッドストックを見ると、さすがにギブソンはレスポールっぽいし、スターキャスターはヘンテコですがなんとなくフェンダーっぽさを感じます。

スターキャスター復刻版の仕様を確認

所ジョージさんがオリジナルのスターキャスターと復刻版の違いをテレビでレポートしておられましたが、確かに随所に当時のスペックとは異なる部分があります。今回は、その復刻版を見ていきましょう。

まず、コントロールノブがまったくもってギブソンっぽいです。

もともとはフェンダーのアンプに使われていたノブと似ているので、どちらかが真似をしたという訳ではありませんが、70年代のギブソンのES-335などの雰囲気がありますね。

次はブリッジとテールピースのコンビネーションです。フェンダーの場合ストラトもテレキャスも一体型ですから、この構成はちょっとずれた感があります。

インプットジャックをサイドに持ってきたのは、シールドを踏んだりして抜けた際、ボディトップへキズがつくのを避けるためでしょうか。

ピックガードはESシリーズと酷似しています。ブラケットと本体を止めているネジを無理やり2本にして違いを出していますがデザイナーとしてのプライドでしょうか?取り外しが面倒なだけですね(笑)でも、好きです。

ピックアップカバーにはフェンダーロゴの刻印があります。

この時期のギブソンはフェンダーに真似されたハムバッカーを自己主張するために、ギブソンロゴの刻印を入れたりしていましたから、まあお互い様でしょうか。

ボディバックから見た印象もバインディングと相まって、まさにギブソンの“Wannabe”ですが、唯一かつ最大の相違点がネックジョイントです。スターキャスターは頑なにデタッチャブルを貫いています。

スターキャスターのヘンテコなヘッドストック

斬新なデザインでギブソンを追及しようとしたフェンダーの中途半端な試みは、ヘンテコなヘッドストックにもよく表れています。

フェンダーの企画会議を想像する

コント風に当時を勝手に想像して再現すると…

フェンダー社70年代初期の企画会議。プロパーデザイナーのSmith主査が、CBS天下りでギターは弾けないけど成績優秀なJason営業部長から無理難題を言われている様子。

JasonSmith君、今回のギターはギブソンのセミアコを凌駕する斬新なモデルなんだよ、わかってるね?

Smithはい、Jason営業部長。了解しています。

Jasonだからデザイナーとして、君には従来のフェンダーにはない、斬新な、なんてんだ、ヘッドストックも従来と違った印象でギブソンの市場に切り込みたいんだ。

Smithそういえば、ギブソンに60年代、当社のギターを真似されたことがあります。ファイヤーバードとかいうモデルです。

Jasonそうか、Smith君。その悔しさをバネにしよう。そのファイヤーバードのヘッドストックを、なんかこう、モダンにできないもんかね。そっくりでもいいよ。

Smithえ?Jason部長、従来のクローシャンヘッドとかではだめですか?

Jasonそんな根性じゃダメだ。レオ・フェンダーのイメージを一新するギブソンっぽいものがいいんだ。店頭でもギブソンを買いに来た客に自信をもって推奨できるだろう?やってみてくれ。

てな会議があったかどうかは別として、まあプロダクトデザインがあっちいったりこっちいったりするのは、そんな感じの場当たり的に根性が入りすぎた底抜け脱線ゲームかなと。で、完成したのが、この流線型のまさしくノンリバ・ファイヤーバードっぽいデザイン。あまりにも似ていたのでデザイナーのSmith君は端っこを黒く塗って誤魔化してみました。

ギターに付属するハードケースとギグバッグ

最後はギターケースの比較です。ギブソンのMusic City Jr.には、高級感溢れるカーヴィングのハードシェルケースが付属しています。

一方スターキャスターは「Made in Korea」の安価モデルであることからも、フェンダーのロゴ入りギグバッグが付属していました。

時代を超えて刺激しあうフェンダーとギブソン

全体として、私はこのスターキャスターというモデルが大好きです。いろいろ事情はあるでしょうが、ギブソンはフェンダーをリスペクトし、フェンダーもギブソンを尊敬し、そんなお互いの意識が2つのモデルに非常によく出ていると思います。

時代を超えて刺激しあってきたギブソン社とフェンダー社。プロダクトデザインにみる完成度は、すでに60年代までに確立されていたことがよくわかります。

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