ギター用ネジのお話
ギターにはいろいろな種類のネジが使われています。ギブソンとフェンダーは金属パーツへの造詣が深かったようで、特注もあれば汎用スクリューもあり、デザインと実用性が両立しています。今回はパーツの中でもひときわ奥深いネジのお話です。
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ヴィンテージ・ギターのコンディションや真贋を判断するときに、良くチェックするポイントのひとつがネジです。皆さんも経験があると思いますが、年式・コンディションの割にネジが新しかったり、損壊していないパーツのネジだけがオリジナルでなかったりすると、「なぜ、そうする必要があったのか…」などと「いらぬ」詮索をしてしまいます。もっといえば、例えばバックプレートのネジやPUリングのスクリューが1個だけ規格外のものに交換されて一目瞭然、ネジ穴が大きくなったりしていると落胆してしまいますね。ピックガードのネジがローテーションされているだけでも嫌な時があります。(外したネジは、ちゃんと元の位置に戻さないと錆加減などがちぐはぐになりますから注意が必要です)
とくにGibson社とFender社は、当時の設計者がネジをはじめとした金属パーツひとつひとつ、ディテールへの造詣が深かったようで、随所に工夫がみられる特注ネジがある一方で、メンテナンス適正を優先した汎用ネジもあるなど、デザインと実用性がロジカルに両立しています。当然ネジも工業製品ですから、現行品と当時のものでは微妙に製造工程が違い、しっかり見れば判別できるので、大切なヴィンテージ・ギターのオリジナル度チェックポイントとしては解り良いと思います。
もともと筆者は小学生のころからネジが好きで、「なぜこんなにたくさんの形と大きさと材質が存在するのか」ネジという道具の多様性が不思議でなりませんでしたし、見たこともない舶来のイモネジを見つけると、その場で機械から取り外して持ち帰りたい衝動にかられる日々を過ごしてきました。インチのフィリップスクリュー収集などは、ある種オオクワガタを探し求めて神木のある雑木林を探検するような気分です。もともと小学生から大学卒業までの間、まとまった休暇があれば、楽器と過ごすか蒜山高原などを訪れてミドリシジミの採取に明け暮れる生活を続けていましたから、対象が昆虫かネジか楽器かの違いで、収集癖は一貫しています(笑)このコラムを読んでいただいているヴィンテージ・ギター・マニアの皆様も、スーパーカー・カードや消しゴム、ピンバッチや記念切手、一升瓶のコルク栓など何かの収集経験をお持ちだと思います。一つ一つ増えていく楽しみ。探す・見つける・お金の算段・親や妻への口上・陳列を経て、自分のものとなる冒険のような過程です。
さて、GibsonもFenderも一般的に50年代のヴィンテージ・ギターに採用されたネジは「木ネジ」とよばれる「頭」「くび」「軸」「ねじ山・溝」から成る「三角ネジ」です。特徴はタッピングネジと異なり、溝が軸の途中までしか切られていません。この溝が切られていない部分は、挟み込まれた部材と密着することで、緩み止めやがたつき防止になります。初期のFenderのネックプレートジョイントも溝は途中までしか切られていませんでしたね。昨今ではヴィンテージ・マニアのために、木ネジ仕様の復刻スクリューも登場していますので、こだわるマニアには嬉しい限りです。溝の部分はボディーに埋没して外観からは解らないですが、機能的にもバックプレートやピックガード、PUリングを止めるにはすぐれているのです。
たとえばメロディーメーカーのピックガードを止めているネジですが、PUリングを止めるような細い木ネジが採用されています。ピックガードはある程度の厚みがありますから、その部分をタイトにホールドできないと、ビビりや緩みの原因になります。次の写真は左が59年のシングルカッタウエイ・メロディーメーカーのピックガードスクリューで、右が60年代です。
59年のネジは、ネジ山を切っていない軸部分がピックガードの断面と接する面積が大きくなるのがわかります。では、手元にある50年代のデッドストックと後年のものを順に比較して見てみましょう。
Gibson ロッドカバー用
Gibson PUリング用
PUリングを止めるネジは、60年代に溝が軸全体に掘られる仕様となってから、近年まで一貫して同じスペックでした。現在では、アフターマーケットで復刻された木ネジをGibson本家が採用しています。
それぞれ、左がヴィンテージのデッドストック、右が復刻版です。サイドから見ると似た印象です。ネジ頭部分のサイズと+の形状が異なるため、PUリングに取り付けたときは、頭の大きさが妙に気になります。
比較の為、60年代のSGに搭載されていたスクリューを並べてみました。左の59年と中央の60年代は、ネジ頭の部分が共通していますね。
余談ですが、次の画像は荒井貿易がGibsonの代理店をやめたときにアフターパーツを放出したのを、まとめて買った中に入っていたSG用のネジです。
当時その在庫の中に半端な木ネジ2本をみつけ、それが50年代だとわかるまでずいぶん悩みました。
Gibson バックプレート/PG用
近年アフターマーケットで復刻版が登場したバックプレート用木ネジですが、溝・深さ・ネジ先角度などよく見ると、比較的判別が容易ですね。
左から50年代・60年代・クロームの70年代です。ネジの頭をみると+の形状が時代で変化しています。
Fender 各種
良い機会なのでFenderの50年代の木ネジも見てみましょう。それぞれデッドストックです。比較の為、Gibsonのバックプレートスクリューも置いてみました。左からGibson、Fenderピックガード、Fenderジャックプレート、Fenderネックプレートです。
Fenderの50年代の木ネジは、ネジ頭の加工がきれいですね。
機能重視をつらぬくFender社は、シンクロナイズド・トレモロのブロックをボディーに止めるスクリューには、終始一貫して木ネジを継続しています。エッジがかかる部分に溝があると、ブロックがアーミング時に安定しないという理由があったのですね。
同じ考え方で、実は50年代~60年代のペグ・スクリュー(Grover社・Kluson社のペグを取り付けるために使用されたスクリュー)も木ネジでした。溝が途中までしか切られていません。60年代後期になると溝が軸全体に切られますので、ヴィンテージとの判別も容易です。
Kluson/Grover 止めネジ
Kluson/Groverは、同じネジを70年代初期まで使っていました。
左は60年代後期まで。中央は70年代後期まで(それ以降もモデルによってまちまちです)。右端は現行の復刻版ではなく、60年代の主にGroverのクロームに使われていたものです。後年は頭の+をふくめた外観がずいぶんと洗練されていますね。
このように、50年代前後のヴィンテージ・木ネジは現在では入手困難な貴重なパーツになっていますから、オリジナルのコンディションを維持するためにも、愛器のネジはメンテナンス中に無くしたりしないよう気を付けたり、常に予備を持っておきたいです。
最後に、日本で「プラスネジ」とよばれる呼称ですが、海外のホームセンターでは通じないことが結構あります。北米では「フィリップ・スクリュー」という呼び方が一般的で、元祖オランダの製造元からきているそうです。
ミレニアム最高の発明とされる(笑)ネジですが、歴史を含めて解説されている読みやすい本がありますので紹介しておきます。
- ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語 (ハヤカワ文庫NF) [文庫] ヴィトルト・リプチンスキ(著), Witold Rybczynski(著), 春日井晶子(翻訳)
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