ギターのポジションマーク交換作業をプロが解説
ポジションマークは、ヴィンテージギターのレストレーションに欠かせない大切なパーツです。今回はMusiMagicの吉原大敬さん(ESPギタークラフトアカデミー卒/元Gibsonオフィシャルリペアマン)に、ポジションマークの交換作業を実演していただきます。
目次
ギブソンがヒストリックコレクションの大幅なバージョンアップを実施したのが1999年。その後も多岐にわたるグレードアップが随所に施されるのですが、当初から不評だったポジションマークの柄についても、2002年に素材ごと仕様変更されます。ギブソン社的には、この柄がドンズバというメッセージでしたが、実際にデッドストックのセルロイド製ポジションマークと比べると、ツヤ、柄、色やけ、硬さにおいて異なっており、辛口のヴィンテージファンからは期待ほどの評価を得ることはできませんでした。
比較のために、ヒスコレのポジションマークの上にヴィンテージのポジションマークを置いてみました。柄に大きな違いがありますね。
ポジションマークは、ヴィンテージギターのレストレーションに欠かせない大切なパーツです。90年代後期までは、カラマズー工場のレフトオーバーパーツを保有する少数のルシアーによってハンドリングされてきたパーツでしたが、2000年に入るとペリカン社の万年筆用素材を製造しているイタリアのセルロイドメーカーが当時のパターンをポジションマーク用に復刻したことから、レストレーションの分野でポジションマークの交換が普及しだします。
今回はMusiMagicの吉原大敬さん(ESPギタークラフトアカデミー卒/元Gibsonオフィシャルリペアマン)に、ポジションマークの交換作業を実演していただきます。なお交換作業は吉原さんの工房にお願いすることも可能です。詳細はこの記事の最後に記載しています。
まずは交換するポジションマークをチェック
9枚あるインレイのサイズは4種類で、3と5フレット、7と9フレット、12と15フレット、そして17、19、21フレットがそれぞれ同じサイズです。
完成のイメージとして、これから交換するポジションマークを指板の上に置いてみました。これだけでもグッとヴィンテージな印象が強くなりますね。
ポジションマークはヘッドストック・ロゴの次に重要なヴィンテージの判別ポイントでもありましたから、ヴィンテージギターを趣味にする方であれば、レスポール・スタンダードを見るときに、まず気になるポイントでしょう。良質なセルロイド素材が復刻され、カラマズー工場のレフトオーバーパーツも入手可能な現在では、ヒストリックコレクションのオーナーにとって大切なチューニングのポイントです。
では、ヒストリックコレクションを使って実際にインレイを交換していきましょう。プロの繊細な工程をじっくりご覧ください。
もとのポジションマークを取り外す
作業に使用する工具はヒートガン、電動ドリル、ピンセット、指板を熱から守る為のマスキング用ダンボール、スクレイパーです。
インレイはしっかりとローズウッドの指板に接着されていますので、電動ドリルでコーナーに小さな穴を開けて、その部分を起点にして剥がします。
剥がす際には指板を熱から保護するようにマスキングし、ヒートガンで一気に熱します。接着剤とインレイが暖かくなってくると簡単に持ち上がります。あとはピンセットで剥がせるので思ったより容易です。
剥がした状態では底面に接着剤が残っています。ポジションマークを全部取り外すのに15分ぐらいですが、指板から剥がす際ていねいに持ち上げないとローズウッドがめくれたり割れたりしますので、気をつけて作業することが大切です。
画像で黄色く見えるのは、ギブソンが工場で使用している化学系の接着剤です。これを丁寧に剥がして溝を整えるのに結構な時間がかかります。
新しいポジションマークを埋め込む
もともとの彫り込みとインレイの間に少し隙間があります。この隙間が実はヴィンテージっぽさをさらに醸し出しています。インレイはこの段階でしっかりとセンターを決めて接着材で固定します。画像でわかる通りバッチリはまりました。
ハイポジションも同様に少し隙間ができるぐらいが、ヴィンテージの雰囲気が出ています。
この状態を横から見ると、ポジションマークが指板から少しはみ出ているぐらいになります。
先端に刃をいれた特製のスクレイパーではみ出した部分を削いでいきます。この部分は約0.2~0.3mmですが、指板を傷つけないよう慎重に削ります。ひとつひとつを入念に高さ合わせしていく技術の見せどころです。
正面から見ても、きちんと高さが揃ったのがわかります。今回使用したポジションマークはUVでヴィンテージ加工した色合いにしているので、表面を削るとセルロイド本体の色が出てきます。少し白っぽくなりました。
高さの調整が終わったらフィラーで隙間を埋め、硬化するのを待ちます。このとき少し指板とフィラーの色が違うのがヴィンテージっぽいですね。ヴィンテージギターのポジションマークにはインレイと指板の間に隙間があり、ウッドフィラーで埋められています。経年劣化によりポジションマークが縮んだという説もありますが、それではフィラーが入っている理由が説明できませんので、おそらく当初からある程度の余裕を持って寸法を決めていたのだと推察します。
ポジションマーク交換前と後を見比べてみましょう
外したヒスコレのインレイと、オリジナルのインレイを比較してみるとパターンが随分と異なるのがわかります。上段がオリジナルで下段がヒスコレです。
次の写真は、ヒスコレのインレイを表と裏から見たものです。外したときの穴が端に開いているのが見えます。
ヒスコレから外したインレイの厚みは9枚で16.0mmでした。ヴィンテージが約11.0mmだったのでだいぶ厚いです。ヒスコレはその分指板が薄くなっているということですね。
同じアングルから、リプレイス前と後のイメージを比較してみましょう。
直感的に目のいく部分ですから、模様が変わることでグッと貫録が出ました。ヴィンテージらしい角度の写真を見てみましょう。
遠くから見ても、一目で「お、ヴィンテージだ」と思える仕上がりですね。
吉原大敬(ヨシハラヒロタカ)
大手電機メーカーで技術者としてソフトウエア開発に携わった後、ESPギタークラフトアカデミーを卒業。Gibson社の契約リペアマンとして多くのプロギタリストの楽器を担当した後独立し、現在は自身の工房「MusiMagic」を主宰。ギターやベースのメンテナンスから、アンプの回路改造、リペアなど幅広く手掛ける。
今回ご紹介したインレイ・リプレイスメントの作業は「MusiMagic」でも受け付けております。詳細は「MusiMagic」のWebサイトにてご確認ください。
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