音の本棚 第2回 - 胸ときめく『ヴィンテージギター・写真集』

音の本棚「音棚(オンダナ)」の第2回は、MAC YASUDA氏の『ヴィンテージ・ギター写真集』。発刊された昭和57年は「ザ・ベストテン」が一世を風靡し、GibsonやFenderのサウンドを堪能することができた、幸せな時代の幕開けでした。

「音を奏でる楽器」から「ピクトリカルな物体」へ

MAC YASUDA氏が撮影した美しいヴィンテージ・ギターの写真集、その名も『ヴィンテージ・ギター写真集』がシンコーミュージックから発刊されたのは、昭和57年(1982年)の初夏だった。音楽番組「ザ・ベストテン」が一世を風靡し、ロック歌謡曲が軒並みヒット。お茶の間でも「ギブソン」や「フェンダー」を惜しげもなくかき鳴らすギタリストを家族で見ることが出来た、ギターファンにとって幸せな時代の幕開けである。

ここに2冊の『ヴィンテージ・ギター写真集』がある。一冊は昭和57年刊。そしてもう一冊は昭和63年12月25日刊の改訂版。この年号をリアルタイムに生きた「ヴィンテージマニア」の方々にとっては、改訂版が「昭和最後のクリスマス」に登場したことは、偶然と呼ぶには何か感慨深いものがあっただろう。

ヴィンテージ・ギターを屋外に持ち出し、美しい風景と共に写真に収めることで、YASUDA氏は「音を奏でる楽器」を「観ているだけで、フレーズが聞こえそう」な、「ピクトリカルな物体」に昇華させた。そして自身の北米体験を等身大で語り、私のようなパスポートも持っていないギターキッズに「アメリカへの憧れ」を提示してくれたのである。「いつか、俺もアメリカのギターショーに行くんだ。英語をしゃべってSGを買うんだ」ってね、寝る前に必ず願ったものだ。昭和57年には、そんな甘酸っぱい「憧憬」がいっぱい詰まっている。ソニーがCDを発売しても、中森明菜さんがデビューしても、私のナップサックには、この1,500円の写真集がいつも一緒だった。枕の下に置いて寝たこともあったっけ。

風景にギターを溶け込ませるセンス

写真集の中でも、私が特に好きな写真が、これである。

右のエキスプローラーは、夕暮れ時の撮影で絞りを開放しているため、被写界深度が浅く「ピントズレ」にも見えるが、敢えて掲載しているのには、被写体となっているギターのレアさを著者が認識しているからだ。巻末のコメントに「アリゾナの山奥までギターを運んで…」と書かれているが、なんとなく西宮の甲山(かぶとやま)でも撮影できそうなショットがYASUDAさんらしい。

複数のギター撮影では、機材の運搬にたいそう労力をとられるから、目的地につくころには「日が暮れちゃった」という思いを、私も何度も経験している。シンパシーを感じる一枚である。あと、左下のエキスプローラーの背景を飾るのは「ポンティアック・フィエロ」という、アメリカ製コンパクトミッドシップ・スポーツカーでウルトラカッコよくマニアックなのだが、たしかこの車の登場は1983~84年だったような…。写真集の刊行年より一年あとだ(笑)

YASUDAさんは、神戸の元町に「マックスギターギャラリー」という洒落たネーミングのヴィンテージ・ギター・ショップを持っていて、なんとなく「異人館の港町神戸、芦屋育ちのボンボン」的印象があった。だから、ヴィンテージ・ギターを日本の風景に溶け込ませるのも、和洋折衷が自然体でクールだなあと感じたのがこの2枚。

レスポールは、勝手に「門戸厄神の境内」だと思っていました。ファイアーバードは大阪の居酒屋だそうだ。そういえば「梅田のナカイ楽器」にもⅦが置いてあったような。

1,300ドルの59年レスポール

しかし、何といっても衝撃的なのは、このレスポール・スタンダード。

トラ目が凄い? まあ、そうなんだけど、ショッキングというか、なんか「すげー」と思ったのは、この一文だ。

1,300ドルって、新品のレスポールよりも安い、ただの中古扱いだよ。いいなあ。

その他にも、「おばちゃんヘアー」のノーマンが写っていたり、

ギターのサウンドが聴けるレコードを丁寧に紹介してくれていたり、

今となってはインターネットで検索すればポコポコと情報と画像が出てくるが、当時はこうした断片的な情報を自分で勝手に紡いで、「いつかはアメリカでギターショーに行く」って、まあ憧れてたね。

Beauty of the Burstの付属ポスター(折り目無し)

レスポールが登場したので、ちょっと寄り道を。Beauty of the Burstに付属していたポスターは、秀逸なだけに折り目が残念だったのだが、「そういえば、折り目の無いポスターバージョンを、お茶の水の楽器店で買って、持ってたよな」と思いだし、倉庫を探すこと2日間。やっと出てきた(笑)

レスポールと真っ赤なポルシェのワンカットは、他の雑誌でも当時良く見かけたような…記憶をたどりながら、もうちょっと本棚を探してみよう。

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音の本棚 第1回 『The Beauty of the Burst』
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