もう一度見直してみると「美しい」
「言葉や説明」は、関係ない。ただ「美しい、カッコいいもの」を理解するために、知識と概念をデリートして、もう一度「感じ直す」ための時間を持とう。
「言葉の邪魔の這入らぬ花の美しい感じを、そのまま持ち続け、花を黙って見続けていれば、花は諸君にかつて見たことも無かったような美しさを、それこそ限りなく明かすでしょう」(小林秀雄:美を求める心)
週末のゆったりと流れる時間の中で、撮りためたギターの写真を見返してみると、あらためて「ギターとは、なんと美しい恰好をしているのか」と思う。目の前にあって、手にしている時には気づかない造形美だったり機能美だったりが、くっきりと見えてくる。それは、「SGだ」「レスポール59だ」「ファイアーバードⅤだ」と、機種名や現在価値を分類しながら整理し、文章を書いているときには気づかない「感覚で感じる美しさ」だ。
「私たちの持つパターン認識の能力は、往々にして『美しいという感覚』の喚起を妨げている」
小林秀雄は、「諸君が野原を歩いていて美しい花を見たとする。見ると、それが菫の花だとわかる。“なんだ、菫の花か”と思ったとたんに、諸君は、もう花の形も色も大きさも、見るのをやめてしまうでしょう。諸君は心の中でおしゃべりをしたのです。“菫の花”という言葉が諸君の心の中に入ってくれば、諸君はもう眼を閉じているのです。それほど、黙ってモノを見るということは難しいことです」と説いている。
菫の花だと解かるということは、花の姿や色の美しい感じを言葉で置き換えてしまうことなのだと言う。同感だ。1954年に、このギターを能書きも称賛も評判も聞かず、ただただ初めて店頭で観た人は、どれだけその美しさに酔いしれることができただろうか。
ロケで撮影していると、通りがかりの婦人が声をかけてくれた。
「あらまあ、素敵な楽器ね。なんていうの?飛んでいきそうじゃない?」
まったくもって素直な、賛辞である。蘊蓄の無い世界で、美を言葉に変える作業は楽しい。
「これは、貴方の印象どおり、フライングVっていうギターなんですよ」
「あら、当たったわ(笑) すごい」
「ブイって言ってますが、こうしてみると、Aですよね」
「そうね、そうとも言えるわね。どうやって弾くの? 弾きにくくない?」
「はい、弾きにくいです。でも、かっこいいから、それでいいんですよ」
それがメダリオンだろうと、コリーナだろうと、The Vだろうと、そんな「言葉や説明」は、関係ない。ただ「美しい、カッコいいもの」を理解するために、知識と概念をデリートして、もう一度「感じ直す」ための時間を持とう。
「SGが好きさ。あのシェイプがね」と言い続けて50年経つ。あらためて言葉を消して写真を見つめ直すと、「あのシェイプって、どのシェイプだっけ?」となる。
いつの間にか、自分で作り上げたイメージに、自分が「愛着を上塗り」していないか。
ヴィンテージ・ギターの隅々までクローズアップする「やみクロ」を思いついたのも、ただただ美しいという感覚を思い出したかったからだ。
パーツのスペックに拘り、デッサンし、データベースをストックして、記憶していくのは、大切なミッションだと自覚している。が、何も知らずに「カッコいい」と思ったときの「何がかっこいいと思ったのか?」が失われないように、これからも、皆さんといっしょにギターと付き合っていければと願っています。
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