OFFSETって、知ってるかい?

ケースハンドルについて長年見落としていた「オフセット・ブラケット」に注目。大切なギターを保護するためのハードケースについて、丁寧にケアしてくださるメーカーの方々には頭が下がります。

ハードケースに使われている金具の呼称

VM (Vintage Maniacs)久しぶりに、ケースハンドルですね。

FV (Fukazawa Vintage Club)長年ギターと共に過ごしていても、なにかと「見落としていること」があるなあと思ってさ。

VMやけに神妙ですが、どーしたんですか。

FVこの写真みると、違和感ないだろ?

VMそうですね、普通のヒスコレの復刻版ブラウンスリムケース。

FVブラケットの脚が左右対称だよね。

VMえっと、ブラケットって…止め具のことですか?

FVあっ、そうか。「ハードケースの金具の呼称」って、そんなに頻繁に使われないし、英語も日本語も統一されていないから、わかりにくいよね。

VMとりあえず、Vintage Maniacsでの名称くらい統一してくださいよ。

FVオーケー、オーケー。じゃあ、とりまとめてみよう。まず、この絵を見てほしい。

VMへたくそですね。

FV(怒) 味があるって言ってほしいなあ。えっと、順番に見ていくと…

VMハンドルをケース本体に取り付ける金具を「Bracket」って呼ぶんですね。日本語だと「腕金」って翻訳していますが、「金属製の腕木」って言われるよりも、「ブラケット」のほうが何となくイメージしやすいです。

FVそうだね、横文字のほうが通じる工具類って多いからね。で、その「ブラケット」をパーツごとにバラしてみると、まず、ハンドルをひっかける横長のピン「Axle Pin=アクセルピン」だ。最初からハンドルがセットされているユニットでは、バラさない限り、あまり気にしないパーツだけど、ハンドルが壊れたときにリプレイスメントを取り付けるとなると、このパーツが必要になってくる。ヴィンテージ・ブラウンケースのリペアでも紹介しているので、使い方を参照してほしい。以前はアメリカのケースメーカーに分けてもらうのに、何と呼んで発注すればいいか難しかった。

VMブラケットをケースに取り付ける「クギ」みたいなのは、いつもFVさんが「リベット」って呼んでるやつですね? ここに持ってきたのは、長さが色々あります。

インチとミリ、リベットの長さについて

FV上から順番に見ていくと、一番短いのは、チップボードケースのように厚みのないケースに使われているよ。3/8インチだ。今回、初めて紹介する長さだと思う。

VM近々、チップボードケースのハンドルリペアもご紹介いただけるとか(笑)

FVそうだね、需要は多そうだ。次に1/2インチ。これはちょっと前のギブソンで、ハンドルがビニールチューブみたいなのあったろ? あの平たい金具用だ。「Vintage Maniacs Shop」のコラム「ギターケースのハンドルを取り付ける金具も自分で修理できちゃいます」で、掲載しているので参照してほしい。

VMその次の5/8インチが、オーソドックスなヴィンテージのFenderやGibsonに使われているリベットですね。

FVお、よく予習しているね。その通り。ただ、現行のG&Gの四角いケースは厚みがあるので、3/4インチを使うほうがおすすめ。

VMFender系とGibson系でくらべると、Gibson系のほうが長めのリベットだと思ってました。

FVジャズギターやアコギのケースは一番長い3/4インチが丈夫なので、私は長いのを使っている。しかし、このリベットって、日本では東急ハンズとかでもあまり見かけない。写真で分かるとおり、脚の先が二股(Split)になっていて、内側で広げると、おいそれと抜けないので、ネジで止めるよりも圧倒的に強度があって、ブラケットの固定には必需品だと思う。

ご紹介しているリベットのインチ分数表示をミリにするとこんな感じです。きちんと1/8ずつ長さが違います。1/8インチは「25.4mm÷8」で、3.2mmですね。長さのラインナップは、1/64を基準に8ステップ毎の設定です。

インチ・ミリ換算
3/8=24/64・・・9.5mm
1/2=4/8=32/64・・・12.7mm
5/8=40/64・・・15.9mm
3/4=6/8=48/64・・・19.1mm

インチとミリのコンバージョンは、Vintage Maniacsカレンダーの最後に付いている換算表が便利です。

VMこうしてインチを分数で表現していると、なんとなく「アメリカン」な香りがしてきてかっこいいなあ。スーパーの総菜でも、量り売りで1/4ポンドとか書いてあるじゃないですか。毎回、頭の中で計算するんですけど…。

FV確かに、モノの長さや重さって育った環境で培われるから、アメリカの人に「身長は175センチです」とか「1メートル74です」って言っても、わからんわな。

VM自分の身長や体重をインチとかポンドで言えるようにしておかないと…。

FVレスポールの重さで、「4キロ超えると重いよね」って会話も、ギターショーの会場では「A typical Gibson Les Paul weights between 9 – 12 lbs」で、これは、4~5.5kgに相当する感じかな。私は、とりあえず「9ポンド切ってたら、4kg以下だから軽い」って覚えてるよ。

ケース・ハンドルに関する新しい発見「オフセット・ブラケット」

VM話はハードケースのハンドル金具に戻りますが、今回の発見は、ハンドルをひっかける「Bracketの脚」ですね。最新型のPaddedハンドルが搭載された四角いケースの画像です。

FV80年代のチェット・アトキンスのケースも、こんな感じだ。

VM冒頭の「長年ギターと付き合っていても見落としている事」って、このブラケットですか?

FVこのところ、ギブソンのハードケースのハンドルが随分とアップグレード(Padded Handle)して、持ちやすいのでじっと見ていたらさ…、ほらこれ。

VMこれも最新タイプのPaddedハンドルですけど、フライングV用ですね?

FVなんか変じゃない?

VM…そういえば、脚の部分が歪んじゃってますよ。不良品かなあ。

FVところが、これで合ってるんだよ。いままで気が付かなかった私も「まぬけ」だけど、以前ヴィンテージのレスポールケースのハンドルをブラケットユニットごと交換しようとして、ハンドルが窮屈で苦労した記憶があって。でも、その時には気づかなかった。

VM何がですか?

FVこれ、ハードケース側面の斜め部分に取り付けても、Axle Pinがハンドルと平行になるように角度をつけてあるんだよ。

VMうはー、なんですか、それ。なんか違和感ありますねえ。

FV並べるとこんな感じだ。

VMあ、ブラックケースのブラケットも同じですね。

FVいつもケースのパーツでお世話になっているG&Gに問い合わせたら、「そりゃあ、Offset Bracket Hardwareだよ」って教えてくれた。

VMFVさんも、めんどくさいことを面倒がらずにチマチマ調べてますよね。ほんと暇なんですね。

FVまあ、毎日が祝日みたいなもんだから、友達が遊びに来てないときは、ずっとパーツいじってるさ。

VMいじるだけじゃなくて、ギター弾いて上達してくださいよ。

FVで、そのOffset(=補正っていう意味ですね)が気になったので、パーツを送ってもらったんだ。下の画像の左が「Standard Leg」で、他2つが「Offset Leg」。全然ちがうだろ?

VMパーツナンバーも違いますね。ハードケースに取り付けるときに間違わないように、しっかりと刻印してあります。

VMStandardが「H312-10」で、Offsetが「H312-09」になっています。

VM気持ち悪い感じしますが、こういうことですね?

FVでさ、G&GのJimに「最近のは、うまく工夫してあるんだね」って言ったら、「何言ってんの? 昔からじゃん」って言われて。ほら、レスポール・アーティスト・ケース。

VMひえ~、ほんとだ。歪んでるんじゃなくて、ちゃんと左右の脚の長さが違うし、角度も斜めだ。

FV335のヴィンテージケース。

FVもう一度、わかりやすいように、フライングVのケースで見てみようか。まずはヴィンテージ。

FVそして、手前がブラックの2020年バージョン。

FV最後にブラウンの2020年バージョン。

VMでも、ヒスコレのブラウンスリムケースは、Offset Legになってないですよね?

FVそれも質問した。ブラウンケースのムーンハンドルは、Axle Pinとハンドルの接点、レザーの内側が、5mm前後のブラスのフックになっているんだ。だから樹脂ハンドルのように直線 になるような角度を、Bracket Leg側でつけなくても、比較的「高低差(角度)への対応力がある」らしい。「Padded Handleも角度対応力はあるよ」って言ってたな。

VMとにかく、大切なギターを保護するためのハードケースですから。ハンドルが「ぶちっ」ってちぎれて泣くことがないように、丁寧にケアしてくださるメーカーの方々には頭が下がります。

FVヴィンテージケースのリペアパーツも豊富に用意していてくれるから、オリジナル状態を維持することもできて嬉しいね。アメリカって、いつまでもこうしたパーツを捨てずに供給してくれる、ゆったりした時間の流れを感じて憧れるよ。

FVたとえば、このギブソンのケースハンドルは、実は通常のハンドルよりも横幅が4mm短くて、合うパーツが無くて困っていたんだけど、今回問い合わせたついでに相談したら、「あるよ」って(笑)

FV「スペックが同じ」じゃなくて、当時のパーツのデッドストック。コンディションも良くて樹脂の劣化も無い。

VMあとは、チップボードケースのハンドルがリペアできれば、オーナーの方々にはコンプリートですね(笑)

FVそうだね、この「ブラケット一体型」のハンドルは、3/8インチの短いリベットをうまく使えばチップボードケースがリペアできそうだよ。こんどトライしてみるから、乞うご期待。

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