ギブソン的なベース (前編) - 50年代

ギブソンが長年妥協せずにプロデュースし続けてきたEBシリーズを、前後編の2回に分けてご紹介。ボディシェイプやスペックの違いを年代別に見ていきます。

EBシリーズの温かみ

80年代の花形ハイエンド・ベースといえば、B.C.Rich。沢山のツマミやスイッチに彩られ、とてつもなく多彩なサウンドクリエーションが可能…という印象をあたえる往年の面構えは、40年経過した今でも、ファンの心をとらえて離さない。筆者のベースヒーロー「後藤次利」さんは、メイプルのイーグルが愛器だった。私は「コア」という材質の美しい木目とタイトなサウンドが大のお気に入りで、所有しているベースは、写真のようなコアの個体が多い。

このモッキンバード・ベースを久しぶりに手にして、あらためて想いを馳せているのが、ギブソンが長年妥協せずにプロデュースし続けてきた「EBシリーズの温かみ」だ。B.C.Richがトムキャットのような戦闘機だとしたら、EBシリーズは何事もなかったかのような涼しい顔で、風を読みながら滑空するグライダーのような存在ではないか。

全体像としてとらえどころがないEBシリーズ

EBシリーズには異なるスケールやボディシェイプがあり、ヘッドストックがスロットだったり、ペグがバンジョーだったりで、とにかく「全体像としてとらえどころがない」のだが、出てくるサウンドは似たり寄ったりなので、拍子抜けするほど可愛い。

ハードケースをみても、中に収納されているベースが想像しにくい…というより、真ん中はギターのケースだ(笑)

皆さんは、どれがお気に入りだろうか。ギタリストからみると真ん中のLP Jrっぽいシェイプはサザンロックの泥臭さが伝わってくるし、左右のSGシェイプはジャック・ブルース的ブリティッシュなメロディサウンドが思い浮かぶのではないか。

50年代の個体は、ピックアップカバーがブラックのプラスチック製なので、後年のクロームメッキバージョンとは容易に区別できる。

クローズアップで見てみよう。

ピックアップカバーをボディに留めているスクリューは、ペグの留めネジと共有にも見えるが、実際は「脚の長いロッドカバースクリュー」と表現したほうがフィットする。

ポールピースは、同年代に登場したハムバッカー「PAF」と共通だ。

曲線が美しいブリッジ

ブリッジは至ってシンプルな一体成型のフック型に見えるが、弦が乗る部分のもっこり感は、バーストなどに搭載されたアルミテールピースにも似たアーチ状の曲線を描いていて美しい。しかし材質はアルミではないので、それなりの重量がある。

裏側をひっくり返してみると、成型マークもスジも無い、のっぺりしたフラットな作りとなっていた。

製造工程を推察すると、成型と切削のハイブリッドで、相当手の込んだ賜物ではないか。もちろん、これらは後年になると金型スジが裏側に出たままになっている純成型品に移行するので、本当に初期のスペックだ。ブリッジやピックガードの下には、退色していないチェリーが綺麗に残っていた。

オリジナリティあふれるピックアップ

もう一度、振り返ってピックアップをクローズアップで見てみよう。マグネットやポールピースなどにPAFの面影があると同時に、とてつもなく大きなコイルを2個も搭載した、オリジナリティあふれる武骨なデザインだ。ここから生み出されるサウンドは、しかし思いのほかジャジーで軽快、かつ輪郭がはっきりした中低音で、視覚的なイメージとのGAPが楽しい。

マグネットはPAFと共通だろうと思い引き抜いてみると「厚みも長さも」このピックアップにしか適応しない、ヘンテコな特注品だとわかる。

余談だが、ネックジョイントを覗いてみると、このギターに使われているマホガニーは、ボディとネックで随分と色が異なっている。

全体として印象はレスポール・ジュニアなのだが、弦やピックガード、ブリッジを外した状態でも、この美しいボディラインは健在だ。

ギターの場合は、パーツを取り外すとなかなか見てられないのだが…そもそもベースはパーツ数が少ないからだろうか。

後編では、もう少しこのベースをクローズアップしながら、60年代にSGシェイプへと移行したモデルと比較して見ていこう。

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