Gibson MK-81 - 斬新さをスピリッツに抱いた感覚的デザイン(MKシリーズ後編)

唯一無二なこのギターには随所に目を見張る美しさが溢れ、弾く人のみならず、見る人をも楽しませてくれる魅力がある。デザイナーがMKで目指したのは、明らかに「外観に感覚的な斬新さを付与するための美意識と感動の提供」であり、「その斬新さをスピリッツに抱いた感覚的デザイン」なのだ。

唯一無二な量産モデル最高峰のギター

MKに惹かれて恋して、40年以上が経った。ギブソン社が英知をふり絞ってMITと共同開発した不遇の名作は、いまでも色褪せずに、こうして「ときたま思い出したように」その滑らかな姿態を私の前に披露してくれる。

短期間でディスコンになったことや、生産台数が期待ほどではなかった点から、「MKシリーズがマーケティング上の失敗であった」と結論付けるギブソン・ファンは多い。

複雑な構造と独特のデザイン故、コピーモデルは登場しなかったし、ギブソン社でさえ復刻させていない。しかし、そんなことよりも、唯一無二なこのギターには随所に目を見張る美しさが溢れ、弾く人のみならず、見る人をも楽しませてくれる魅力がある。

MKがすばらしいのは、イノベーティブなデザインをスタイルとしてダイレクトに様式に落とすのではなく、「革新的構造とセオリー」をスピリットとして抱いて曲線に落とし込んでいる点だろう。

その思想は、入念に練り上げられたカタログのカラー写真やレイアウトからも読み取れる。いかに当時のギブソン社が、このギターに自信をもって惚れ込んでいたか。

そしてここにあるのが「MK-81」という量産モデル最高峰のギターである。

多層バインディングとレッドアバロン

およそギブソンらしくないヘッドストックは、一度見たら忘れがたい「三日月」のような窪みをもち、贅沢でカラフルな多層バインディングで彩られている。

スクリプトロゴやポジションマークにはレッドアバロンが使われていて、L-5SやThe Les Paulに通じる豪華な風合いである。

レッドアバロンは、いまでは入手困難なシェルなのでなじみが薄いかもしれないが、ぜひ「Gibson L-5SとL-6S レッドアバロンの厚化粧とすっぴん美人」の写真を参照してほしい。

MKのデザイン

当時の楽器業界では、「MKのデザインは工学的手法によるもので、ギターっぽくない」というコメントが大半を占めたようだが、それは本当だろうか。

ギブソンらしくない鋭利なヘッドストック、ヘンテコで扇子のようなブリッジ。

イルカのヒレのようなピックガード。

そして本体からもっこりと浮き出たロゼット。

部分部分を見ていくと、「MKがアコースティックギターが抱える問題を解決するためのデザイン思考であった」というメッセージが的を射ているようにもみえる。しかし、デザイン思考が「ゴールが問題を解決するための手法」であったなら、なぜわざわざこんなロッドカバーまでも仰々しくデザインする必要があったのか。

しかも発売当初は「Black cover edged in white」とあるのに、途中で「Black cover edged in purple」に変更している。

MKに感動した当時高校生の私は、OvationのAdamasから湧き出る様な「新しいモノの美しさ」をギブソン社に予感し、白黒のカタログ写真を、穴が開くほど眺めてきた。

あらためてクローズアップして眺めてみると、これまで気づかなかったディテールが浮かび上がる。

ネックは手の込んだ3ピースにスカーフジョイントだ。どの個体にも美しいフレイムが浮かび上がっている。そして、ジョイント部分は多層構造になっていて、「ネックはワンピース」という良識を覆している。

デザイナーがMKで目指したのは、明らかに「外観に感覚的な斬新さを付与するための美意識と感動の提供」であり、「その斬新さをスピリッツに抱いた感覚的デザイン」なのだ。

MK-99とMK-72だけ、エボニー+ローズウッド+エボニーの3Pフィンガーボードを採用しているのが、40年来の謎です。

最後になりますが、MK-81のカタログ表記に誤りがあって、ずっと気になっています。

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ちょっとチェット・アトキンス - Gibson Chet Atkins CE
チェット・アトキンスって、グレッチのテネシアンとかカントリージェントルマンを使っている印象が強いけど、実際は79年ごろにエンドースメントを解消してるんだよね。今回紹介するチェット・アトキンス・モデルは、80年代のギブソン・ギターの開発の中で、一番ミュージックシーンに貢献した楽器だと私は思っているよ。

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