SG解体新書 - とんでもない品質の“やっちゃったギブソン”
1970年代前半はSGをはじめとするギブソンのソリッドボディ・ギターの生産数量が増大した一方で“とんでもない品質”のギターが存在します。今回はそんな“やっちゃったギブソン”のうちの1本を紹介する「SG解体新書」です。
目次
1970年代前半はギブソンのソリッドボディ・ギターが世界中で大人気となり、生産数量も急激に増大した時代です。SGスタンダードを例にみると、1965年から1970年までの生産本数は次の表のようになっています。
SGスタンダードの生産本数
1,731 | 1,046 | 1,154 | 1,340 | 3,354 | 5,048 |
年間生産本数は69年と70年で合計8,400台ですから、68年の倍以上になっています。生産性と木材確保を目的とした3ピースネックの採用もあって大量生産ができたのだと思いますが、一方でこの時期には“とんでもない品質”のギターが存在します。今回はそんな“やっちゃったギブソン”のうちの1本を紹介する「SG解体新書」です。
まずはクロームメッキの採用により格段に耐久性が向上した金属パーツを見ていきます。
ロングヴァイブローラ・トレモロ・ユニット
Lyre Vibrolaは古代ギリシャの琴にちなんで命名され、今日まで長年に渉って存続している優秀なデザインのパーツです。
大きなネジ2本と小さなネジ4本の合計6本で、ギター本体に頑丈に取り付けられています。
ES-335などにも搭載できるようにセミアコ・テールピースと同じ取り付けデザインになっていますから、デザイナーは本当に視野が広い優秀な人だったと思います。
ヴァイブローラのカバーは1枚の板材をプレスしていますが、下側のシボリ部分は当時の加工技術の高さを物語っています。ピックアップカバーもそうですが、Zippoのように綺麗なラウンドを描いたプレスですね。
カバーを取り付けている4本のネジは、紛失すると入手しづらいコレクター泣かせの部品です。
ブリッジ側はビブラートの上下稼働テンションがかかるので大きめのスクリュー、ボディエンド側は小さめのスクリューになっています。
ネックジョイント
せっかくの「解体新書」ですので、普段見られないネックジョイントの内側を公開します。接着剤がほとんど付いていない“やっちゃった部分”がこれです。かろうじてストラップピンでネジ留めされていたためデタッチャブル的に固定されていましたが、ネジが無いとスポっと抜けてしまいました。
こうなっても、もともとがキレイに抜けているので直すのも楽ですが…(笑)
ボディのルーティング加工
ネックが3ピースですので69年後期からのスペックですが、ピックアップ・キャビティを見ると2ピックアップ仕様となっています。SGカスタムと共用の3ピックアップのルーティングになる前の仕様でこうしたスペックが混在するのも面白いですね。
ABR-1とエレベーション・ナット
ブリッジも高級メッキのクロームです。ABR-1ブリッジ特集でも記載していますが、DJマークにPatナンバーが入ったプラコマのワイヤードです。エッジを面取りした丁寧な加工で、見た目もスリムなABR-1です。エレベーション・ナットは、片面に傘のようななだらかなカーブをつけて、ヴィブラート時のブリッジの遊びを少なくする工夫がなされています。これは大変良い工夫なのでGibson Custom Shopでも、ぜひ復刻してほしいパーツです。
トラスロッドカバーは4プライのスリムな60年仕様です。
スクリューは片側が50年代で、溝が途中までで途切れているタイプでした。パーツの混在という視点では、コントロールノブも表から見ると揃っていますが、裏から見ると1個だけ60年代中期からのスペックで、他の3個とは金型が異なります。
コントロールキャビティのバックプレートも60年代中期仕様で、裏側にシルバーの塗装が施されています。
ファイヤーバードなどでみられる処理です。ピックアップは、ひとつがメタルワイヤー、もう片方がビニールワイヤーで、これは71年頃のフライングVなどでみられる組み合わせですね。
ピックガードの裏には、フロントとリアの間にミドルピックアップ用ルーティング(3PUのカスタム用)の加工ラインが見えています。
コントロールキャビティの内部は、平たい茶色のコンデンサやプラスチックケースのついたインプットジャックなど、70年代に入ってからのスペックにみえます。
ポインターは角度がまちまちですが、これは画像右下の斜めの角度のものが基本です。
部品を外したときの埃などは大切なヴィンテージの証ですから、拭き取らずにそのままにしておきます。マニアのコダワリですね。
ネックまで外れたギブソン・ヴィンテージの画像は結構レアなので楽しんでいただけたと思います。このギターがチップボードケースでなくハードケースに入っていたら、ネックジョイントの“やっちゃった”部分は隠蔽されたままだったかもしれません。
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