ギブソンのヴィンテージ・ピックアップカバー
ギターの見た目に大きく影響するピックアップカバー。トールエスカッションとほぼフラットにセッティングされたリアピックアップのPAFカバーには一体感があり、丸すぎず角張りすぎないエッジのシェイプがヴィンテージファンを惹きつけます。
59年のレスポールに搭載されているピックアップ「Pattent Applied For」のカバーは、ニッケルメッキが輝いているときと、錆がのった状態の印象は大きく異なります。もともと、さほどフラットではないトップ面なので鏡面状態では緩やかにゆがみが反射し、なんともアナログ的印象を与えます。
いったん曇りが出て錆がのってくると表情が変化しトップ面がフラットに見えるので、この状態を「PAFカバー」として記憶していると、ミントコンディションの個体をオリジナルと認識できなかったりします。
お弁当箱シェイプは、Zippoなどにみられるシボリプレスで、エッジ部分の板材がやせない理想的な強度をもっています。
内側には2箇所、取り付け時にハンダ付きが良くなるようにスクラッチ処理された跡があり、生産効率を考慮した工夫がみられます。またメッキの前工程で丁寧に手が加えられているバフ処理やポールピース穴のパンチ、ボトムのエッジ加工は個体差の少ない精度で、マシンマーキングも概ね同じ位置に出ますから、オリジナルを判別する際に参考となるポイントです。
ボトムのコーナーそれぞれにユニークな加工跡がみられます。これはクロームメッキになる60年代にはダブルのカット加工跡になりますので、オリジナル判別のチェックポイントでもあります。
それぞれのコーナーで加工跡が異なるのがわかります。
ポールピースの穴はエッジの加工が丁寧で、流れるようにスラントしています。
PAFカバー特有の外観ですが、ピックアップに取り付けられてポールピースがある状態と無い状態では印象が異なります。光沢のある時と錆が乗った状態との反射による表面形状の違いがみられますが、あくまでこれは光の反射によるもので、オリジナルはさほどフラットではないと覚えておくと参考になるでしょう。
近年のような銅のメッキ下処理がありませんから、温度差による伸縮などを繰り返すと、テールピースのようにメッキがパリパリと剥がれていることがあります。またPAFカバーと後年のクロームPUカバーに共通する現象ですが、弦に平行して歪みがたまった「シワ」がみられます。これはコンディションの良いピックアップカバーでもそうでないものでも不規則に出ます。
同じような現象はP-90用のメタルカバーにも散見される、ギブソン製カバーの特徴でもあります。
70年代後半、ディマジオのスーパーディストーションなどのハイパワーピックアップが流行ると、ロックギタリストはこぞってヴィンテージギターを改造し、PUカバーをオープンにしました。外された部品は、丁寧なコレクターから購入したギターだとギターケースのポケットに収納されていることもありましたが、概ね紛失されていることが多く、あらためて探すとなかなか入手しづらいパーツです。トールエスカッションとほぼフラットにセッティングされたリアピックアップのPAFカバーにはきちんとした一体感があり、エッジの「丸すぎず角張りすぎない」シェイプがヴィンテージファンを惹きつけるのでしょう。
もうひとつ、PAFカバーとペアで外観に重要な役割を果たしているのが、エレベーションスクリューのヘッド形状です。次の画像は一番奥がPAFのスクリュー、一番手前は70年代のプラススクリューです。真ん中はヒスコレですが、ヘッドのトップにマシンマーキングがあり平たくつぶれています。知ってしまうと、とことん気になる部分ですね。
ヴィンテージに欠かせない「酸化と錆」ですが、スプリングも50~60年代は粉を噴く酸化がみられます。材質と精度が格段に向上した現代のスプリングには発生しない、ヴィンテージの重要なポイントですね。中央がヴィンテージ、奥が黒く錆びる70年代、一番手前が輝きを失わない現行のヒスコレです。
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