ギブソンのアルミテールピース - 機能美の頂点

ギブソンのアルミテールピースは、完成度の高さとラインの美しさを兼ね備えた機能美の頂点にあります。音への影響と外観におけるインパクトがこれほど重要な位置にありながら復刻に最も時間がかかったパーツでした。

56年にABR-1とのコンビで搭載されはじめたギブソンのアルミテールピースは、完成度の高さとラインの美しさを兼ね備えた機能美の頂点にあります。音への影響と外観におけるインパクトがこれほど重要な位置にありながら、金型が高額であることとグラインダーの切削に個体差が多く成型ラインの原型が想定しづらいことから、復刻に最も時間がかかったパーツでした。「レスポールのヴィンテージ・テールピースは軽いらしい」という話がギターマニアの間でポピュラーになったのは80年代前半で、それ以降「同じ金型で単に素材をアルミにした」パーツは何度かマーケットに登場します。ギブソンもヒストリック・コレクションでアルミテールピースを復刻しましたが、製造工程と外観、重量はレプリカとよべるほどヴィンテージを模倣したものではありませんでした。

さて、まずはオクターブピッチ調整用のイモネジがついたテールピースを見てみましょう。良く考えると54年のゴールドトップに搭載されたこのタイプが時代的には先行していますから、テールピースはもともとネジ付きで設計されていたという事実は興味深いですね。

50年代のピッチ調整ネジがついたテールピースは、弦のテンションがかかったままネジを回すと折れやすく、それゆえ交換されている頻度の高いパーツでもあります。

ピッチ調整ネジは白い粉を吹くのが特徴で、ピックアップのエレベーションスクリューに似ています。当時は紙袋にレンチと一緒に入っていて、楽器店にパーツとして供給されていました。

では各部分のクローズアップを見てみましょう。最近は誰もが裏返してチェックするライナーの折り痕です。ここは少しザラザラしていて、サンディングされていない折ったままの状態なのがわかります。この画像の個体はギブソンのカラマズー工場のレフトオーバーパーツに混ざっていた仕掛品で、サンディングされていない非常にめずらしいモノです。

スタッドボルトがはまる左右のアンカーは、切削とグラインダーの使い分けで微妙な曲線、厚み、アンカー部の深さが調整されていますが、もともと金型から取り出した段階では角ばっていました。カラマズー工場のレフトオーバーパーツと完成品を比較すると、一本一本かなりの時間をかけて丸みをつけているのがわかります。

弦のボールエンドがおさまる窪みはラップアラウンドとスタンダード用では前後逆になりますから、金型ではなく個別に加工されたということになります。穴あけを失敗した仕掛品が存在するのもうなずけますね。

アルミにニッケルメッキをのせるのは当時相当難しかったはずです。現在では銅のメッキ処理後にニッケルをのせる手法により比較的簡単になりましたが、ギブソンのヴィンテージでは弱い密着により、パリパリと剥がれるニッケルメッキが特徴にもなっています。

テールピースは複数本ならべて見ても個体ごとに特徴があるパーツのため「これがヴィンテージ」というマスターピースがなかなか決めにくいパーツです。テールピース同士をぶつけたときの、あの「カリンカリン」という音やアンカーに残されたエッジ、丁寧なグラインドのアールなど、「こんなに時間をかけていたのか」と感嘆せざるを得ない、当時のギブソンの「工業製品」と「クラフトマンシップ」の融合と評価しています。

最後になりますが、実は73年頃までのレスポール・デラックスや、スタンダード55リイシューにもクロームメッキのアルミテールピースが搭載されています。これはレスポールがディスコンされ、一時期ヴァイブローラ付きのSGに移行し、60年代後期になって新たに金型を起こしているためで、外観、重量、ライナーマークのすべてから設計変更されているのがうかがえます。

ヴィンテージ・アルミテールピースの特徴 - 剥がれるメッキとライナー跡

以前の記事(ギブソンのヴィンテージ・アルミテールピース - 機能美の頂点)では、年代別テールピースの…

2018.07.06

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