音の本棚『Guitars』という写真集 - 「Groverに愛をこめて」後編

前編で見てきた写真集『Guitars』には、ペグが交換されたギターがたくさん登場しています。今回はグローバーに注目し、仕様のチェックや分解などを多数の画像でご紹介します。ミュージックショップに無くてはならないメーカーのGrover社は、「アメリカ製造業の良心そのもの」です。

高級パーツ「Grover」

一つの写真集に掲載されているヴィンテージギターで、こんなに多くの個体が「ペグ交換」されている事実を鑑みると、当時はよほど「Kluson」に対する実用的な信頼感が低かったのでしょう。

壊れたペグを交換する際の選択肢としては、改造が必要なGroverやSchallerに比して、同タイプのKlusonに取り換えるほうが随分と簡単であり、かつ安価でした。例えば、Grover 102で見てみると、ニッケルが39.5ドル、クロームが42.0ドル。ゴールドに至っては、69.5ドルもしています。70年代のプライスリストを見てみましょう。

SG Jrが169.5ドルですから、Grover 102Gを3個でギターが買えてしまうわけです。

それでも、多くのギタリストが愛器の木部に手を加えてまで、GroverやSchallerを志向しているのは、これら「ヴィンテージギター」が、当時の彼らにとって「スタジオでもツアーでも演奏する実用機」であったからです。

そんな「高級パーツ」であるGroverのペグですが、今回は「Pat Pend」の刻印タイプの違いや、インペリアルのブッシュ、102の内部ギアなど、細部もご覧いただけるようにしました。

ポスト径が太くて専用ブッシュの「Imperial 150」

まずは、カタログの表紙も飾っているGroverのフラッグシップモデル、Imperial 150 Goldのデッドストックです。

箱のラベルは、150のゴールドを手書きで151に書き直されていますが、シカゴのギターショーで手に入れたとき、中に収納されていたのは150でした。カタログによれば「151」は丸ボタンのインペリアルですが、これはあまり見たことがありません。というのも、ほとんどの人が、Grover Imperialと聞けば、豪華なステアステップ・ボタン(カタログでは3-Step Button)を想像するので、仮にギターに「151」が搭載されていても、表からでは判別がつきにくいからです。

画像左端には専用のブッシュも写っています。専用というのは、ポスト径が太いため、通常のKlusonなどのブッシュは流用できません。

インペリアルオーナーにとっては泣き所で、ファイヤーバードのバンジョーペグ同様に、ブッシュが欠品すると単品で入手するのが、すこぶる困難でした。

カタログに「24Kメッキ」と謳われている通り、見た目のゴールドも美しく重厚、他の金色メッキと一線を画しています。

U.S.A.の刻印が誇らしげでクール。B.C.Richが登場した初期は、ヘッドストックに鎮座する「150インペリアル・ペグ」が、いかにも重厚で高級っぽく、まぶしかったです。

先ほど触れた「ブッシュ」を観ておきましょう。

左から「Kluson(ヴィンテージ)」「Grover」「Groverベース用」です。右の2つは似ているようで、ルックスが異なりますね。径は同じです。

グリグリバックの「108・109」

B.C.Richのペグといえば、インペリアル150の後継として「通称グリグリバック」(小生はそう呼んでいます)の108・109もお馴染みでしょう。

こちらの151 GoldはB.C.Richコレクターにとっては、絶対に「予備」として確保しておきたいスペックです。私もその一人です(笑)

「壊れたGrover」も大切に

ヴィンテージを手に入れようとすると、最近はeBayでもなかなか出品されません。「予備として確保」という観点では、ロトマチックタイプのペグは、Klusonと比べると「具合が悪くなっても、いろいろパーツを変えてメンテナンスすると、なんとか使えたりする」ので、それこそツアー中に「ありゃりゃ」ってことになっても、つぶしが利きます。

とりあえず「壊れたGrover」でも捨てずに持っておいて、部品にバラして整理しておくと(写真は整理できていない悪い例です…)なにかと役に立ちますので、捨てるところがないです。

Groverなど、型番だけでは仕様の区別がつきにくいパーツは、このように箱の外にイラストが載っているとわかりやすいです。

たとえば、80年代近くになると統一された箱になりますので、中身が不明です。

なので、箱ごと中身が見えるよう、つまりショップのショーケースでディスプレイできるように、蓋の真ん中で折れ曲がるように工夫されていて、Groverのロゴも見やすくポップアップするんですね。

「PAT. PEND.」刻印のバリエーション「102」「104」

Groverでもっともポピュラーなのは102シリーズですが、その中でもマニアが探しているのが「PAT PEND.」の刻印があるヴィンテージモデルです。

このモデルは、実はポストの台座の径が狭いので、ヘッドストックに開ける穴が小さくてすみます。クルーソンペグのリプレイスとしても、改造なしで搭載できるのは嬉しいです。

さて、この「PAT PEND.刻印」ですが、すでにマーチンコレクターやクラプトンファンの間では周知だと思いますが、刻印の位置とフォントに何種類かバージョンがあります。

最も良く見かける、深い刻印にPEND..(ドット2つ)。外側に位置します。ニッケル。

薄い刻印が内側に位置します。PEND.(ドット1つ)。ニッケル。

深い刻印にPEND..(ドット2つ)。外側に位置します。クローム。マーチンなど。

実は、ニッケルとクロームで刻印のタイプとU.S.A.のすき間が違っています。ならべて見ると良くわかりますね。

PAT. PEND刻印は、102以外にも見られます。

これは、104のニッケルとクロームです。

このモデルには、スターマーク有りと無しが用意されていました。

ちょっと珍しいところでは、フェンダー社のギターに搭載された、「6 in Line」とよばれる一列配置の102には、F社の刻印とPat PEND..が刻印されています。ときどき、F刻印で パーロイドボタンが取り付けられたものも見かけますね。

F刻印が無いのに、6 in Lineというデッドストックがありますが、これのゴールドは、Crestwood Deluxeなどに搭載されました。用途としてはすごく限定的ですね。フェンダー のストラトやテレキャスターには、Schaller M6 Miniを取り付けるのが流行っていましたから。

カタログのイラストを見ると、Crestwoodっぽいです。

分類が難しいパーロイドボタン

パーロイドといえば、ボタンの種類が複数あるとお話ししましたが、同じ透明感あるボタンでもテクスチャーが異なったり、なかなか分類には難儀します。

個人的には、ミルキーな乳白色のタイプが好きですね。レスポール・カスタムの豪華なヘッドストックにインレイされた白蝶貝が、ラッカーの黄ばみを通して発するミルキーカラーに似ています。

同じミルキークリームでも、透明感のないホワイトもあります。

ボタンがすこし小ぶりですね。

バンジョーペグの角ばったシースルーホワイトのボタンと印象が異なります。

グローバーペグを分解

Schallerの特集では、分解してシャフトの溝まで観察していましたので、Groverもばらしてみましょう。PAT. PEND.時代と後年では、あきらかに「作り」が違っていました。

ギアの大きさ、材質、ポストとの留め方も異なっています。

ヴィンテージの102をリペアするときに、左側のギアは使えませんでした。大きくて入らないのです。

いかがでしたでしょうか。Grover社は、多種多様な弦楽器に幅広く対応するラインナップで、ミュージックショップに無くてはならないメーカーでした。その使命感からも、丁寧なカタログ作りや、パーツ紹介、パッケージを心掛けている「アメリカ製造業の良心そのもの」だと思うわけです。

「106C」「102」「104」「103」「101」「100」

クラシックギター用に、ナイロン弦を巻く部分が工夫された「106C」

オーソドックスな102シリーズ。

意外にシャーシが壊れやすい104シリーズ。

104Cと103Cの違いはボタンだけ。

カタログと同じイラストでわかりやすい101のパッケージ。

そして、ゴールドの箱入り娘、バージン。

時々見かける、アコギ用っぽい100シリーズ。左のトライアングルは改造かも。

『Guitars』の写真集からは、当時のギタリストがGroverやSchallerに寄せた信頼感を感じることができました。Groverはミルクボトルからスペック変更したフラットなシャーシを長期にわたり継続してきましたが…

ファンからの声にこたえるように、近年ではミルクボトルも復刻しています。また、エボニーやローズウッド、樹脂製のキドニーボタンなど、ドレスアップパーツも豊富ですから、楽しみ方にもオリジナリティを出せますね。

お気に入りのヘンテコ・グローバー

最後に、私のコレクションから、ちょっとめずらしい個体をご紹介します。

PAT. PEND..刻印はセンター寄りに入っているので、通常は浅い刻印なのですが、これは深めに打たれています。そして、ワッシャがヘンテコなのです。随分昔に北米のギターショーで入手したセットで、なぜか当時から「ぎんぎんぎらぎら」のワッシャ。オリジナルかどうかも不明ですが、お気に入りです。

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シャーラーのペグとギター殺人者の呪縛
W. Germany製でもレアなセンターリグのSchaller M6ペグを追いかけ続ける筆者と、ロンドン在住のSchallerマニアが繰り広げるディープな話。

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