レスポール・デラックス - ヴィンテージの息吹を残す70年代ギター

ヒストリックコレクションの登場以降、あまりヴィンテージ価値を論じられなくなってしまった雰囲気のある70年代のレスポールですが、このようなキュートかつ随所にヴィンテージの息吹を残したモデルがリーズナブルな価格で入手できるとしたら、ぜひコレクションに加えてみたいですね。

70年代のレスポール・デラックス

59年のバーストは60年代に入ると早々にディスコンとなり、SGに取って代わられます。途中、クラウンインレイのゴールドトップや68年GTなど、ところどころでスタンダードと呼ばれるモデルが復刻されるのですが、59年モデルのようなトラ目のブックマッチ・フレイムメイプルが登場するのは、20年後の80年代、Les Paul Standard 80シリーズ(Heritage/Elite)まで待たねばなりませんでした。

しかし実際には79年のKMモデルなどのように、楽器量販店や個人のカスタムオーダーでトラ目トップを限定生産する機会は何度かあったようです。今回紹介するのは、その中でも比較的レアな70年代に生産されたトラ目のレスポール・デラックスです。

レスポール・デラックスのパンケーキボディ

トラ目のレスポール・デラックス

このギターはマホガニーネックにパンケーキボディという仕様で、70年代初期~中期の生産と思われます。

マホガニーネックにパンケーキボディ

70年代のレスポールは比較的重量があり、中には5kgを超える個体も散見されますが、今回ご紹介するデラックスは4.4kgと扱いやすい重量でした。ボディバックに使われているマホガニーはパンケーキとはいえ非常に木目のまとまった良質の材です。

良いマホガニーを使ったボディ

ボディをサイドから見ると、マホガニーでメイプルを挟んだラミネート(サンドイッチ)構造になっていて、俗に「パンケーキボディ」と呼ばれています。アメリカの人たちはネーミングが上手ですね。

ギターのパンケーキボディ

画像に写っているジャックプレートはすでに成形品に移行しています。削り出しの時代から一貫して割れやすいパーツですね。廉価モデルのレスポール・ジュニアやスペシャルがBWBの3プライで頑丈なのに不思議です。ピックガードも削り出しの50年代仕様から成形品になっています。裏側の金型のマーキングとエッジの丸みで成形品だとわかります。

ピックガード裏側の金型のマーキング

成形品ピックガード特有のエッジの丸み

トラ目は角度が変わるとギラギラする深いパターンで、大変美しいメイプルです。

美しいパターンのメイプル

見る角度で印象が変わるトラ目のボディ

レスポール・デラックスのパーツをチェック

では、このギターのパーツを順番に見ていきましょう。ヘッドストックはこの時代にめずらしくウッドの突き板で、大変薄い仕上げになっていました。

レスポール・デラックスの薄い突き板

通常は、下の画像の左側のようなベークライト素材に白蝶貝を埋め込んだものを使っており、まれに色落ちしているものがあります。

白蝶貝が埋め込まれたベークライトの突き板

色落ちしたベークライトの突き板

重ねて比較すると、写真下のヘッドストックはほとんど突き板が見えないくらい薄いです。

突き板の厚み比較

ネック裏側のボリュートは小ぶりで厚みもさほどありません。なめらかな手触りです。

なめらかな手触りの小さなボリュート

トラスロッド調整用の窪みを覗いてみると、やはりこのギターの突き板が薄いのがわかりますね。

ロッドカバーを外して突き板の薄さを確認

フィンガーボードのポジションマークは、ランダムにセルロイド模様が出ている70年代仕様です。

レスポール・デラックスのポジションマーク

50年代のものと比較すると、模様のパターンが大きく異なりますね。左から70年代、50年代、70年代、50年代です。

年代別のポジションマークの柄の違い

スイッチプレートのフォントは「R」が垂れている50年代スペックで、まだ削り出しです。

レスポール・デラックスのスイッチプレート

ワッシャーも50年代と同じくローレットの大きなものです。

50年代仕様のワッシャー

スイッチチップはこの時代だけの、成型マークがネジ切り側に見えないタイプです。割ったり無くしたりすると、なかなかリプレイスメントを探すのに苦労します。

レスポール・デラックスのレアなスイッチチップ

ピックアップは「もっとも美しいウーマントーンが出せる」といわれ続けている、Patナンバーのミニハムバッカーが2基搭載されています。フロントもリアも同じピックアップリングが使われていますが、キャビティの彫り方が違うため高さが異なるように見えます。

レスポール・デラックスのミニハムバッカー

レスポール・デラックスのピックアップリング

70年代のABR-1ブリッジはクロームのPatナンバー入りで、サドルは50年代最終スペックのスダレ・ブラスサドルのままです。

ブラスサドルのABR-1

Patナンバー入りのABR-1

レスポール・デラックスのブリッジ

ポインターの先端は50年代の垂直タイプにくらべ、だいぶ斜めになっています。

先端が斜めになったポインター

レスポール・デラックスのノブとポインター

ボディサイドにピックガードのブラケットを留めるネジ穴がありますが、これはちょうどバインディングとボディの間にくるように開けられています。

ピックガード用のネジ穴

60年代最後の方に復刻されたレスポールの特徴として、カッタウェイ部分のバインディングが厚い点が挙げられます。生産効率からすると、こちらのほうが手間がかかりますね。

厚いバインディング

キャビティのカバーもピックガードやジャックプレート同様に成形品で、エッジが丸まっていますね。

エッジの丸いキャビティカバー

金型のマーキングがあるキャビティカバー

レスポール・デラックスのスイッチキャビティ

コンデンサーは後年に交換されたようです。

交換されたコンデンサー

ペグはKluson Deluxeのダブルライン・ダブルリングですが、ブランド名はすでにGibsonに移行しています。もちろんKluson製ですが、ギブソンOEMになったということですね。

Kluson Deluxeのペグ

ギブソンOEMのペグ

ブッシュはスラントしないフラットトップでニッケルメッキです。

レスポール・デラックスのスラントしないブッシュ

トラスロッドカバーには「Deluxe」の文字が入っています。80年代にはディマジオなどのリプレイスメント・ピックアップの台頭により、ミニハムのレスポール・デラックスも改造が加えられることが多かったようです。スタンダードっぽくカスタマイズしたデラックスからはロッドカバーが外され、交換されてしまうケースが多かったのでしょう。当時のギターショーでは、よくDeluxeのロッドカバーが単体で販売されていました。

レスポール・デラックスのトラスロッドカバー

70年代のロッドカバーには年代別に3種類あって、BWBのWテーパーが集めのもの(左)、3プライだが真ん中が薄いもの(中)、成型の2プライ(右)です。80年代には文字もプリントになります。

トラスロッドカバーの比較

見落としがちなのがテールピースで、メッキこそクロームですがアルミの軽量タイプ(約30g)です。

レスポール・デラックスのテールピース

軽量なアルミテールピース

裏側のアンカーマークが50年代とは異なりますので見分けがつきます。

50年代のアルミテールピース
50年代のテールピースの重さは約33g。

新たに金型を起こしているわけですが、初期にアルミで生産していたテールピースが70年代中期から素材が変わり重量も重くなっています。当時ギターもパーツも「重い方がサステインが増す」と盲信されていたからかもしれません。

重いテールピース

ヒストリックコレクションの登場以降、あまりヴィンテージ価値を論じられなくなってしまった雰囲気のある70年代のレスポールですが、このデラックスのようなキュートかつ随所にヴィンテージの息吹を残したモデルがリーズナブルな価格で入手できるとしたら、ぜひコレクションに加えてみたいですね。

レスポール・デラックスの全身

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