おったまげのカタログは、未知との遭遇 その2

「おったまげ」なGibsonのカタログを紹介するシリーズの第2回。今回は、平成生まれのギブソンファンには馴染みの薄い「ラディカル」なモデルの中から、思い入れの深い5機種をご紹介します。

「ラディカル」なモデル

1980年代初期は、良くも悪くもギブソンが斬新なコンセプトで新たなエレクトリックギターのスタンダードを切り開こうと試行錯誤した時代の幕開けでした。表紙こそレジェンダリーなヘッドストックが登場するこのカタログですが、ひとたびページを捲ると、平成生まれのギブソンファンには馴染みの薄い「ラディカル」なモデルたちが沢山登場しています。

「ラディカル」という単語には、もちろん「愛情をもって温かく見守りたくなるニューモデル」もあれば、「やらかしちゃった、おったまげモデル」も混じっているわけですが、そんな中から、個人的に思い入れ深いモデルを上位から順に5モデル選出し、ご紹介したいと思います。

第5位 335-S DELUXE

ピックアップはダーティーフィンガーズ、ボディ・ネックともにマホガニーとあります。この335-S DELUXEは、日本では「Professional 335-S DELUXE」と明記されている個体が多いですが、アメリカ本国では「335-Sは1980年から1983年にかけて発売されたES-335のソリッドバージョンです。ProfessionalとCustomのピックアップはダーティーフィンガーズで、StandardにはSuper Humbuckerが搭載されました」と解説されているので、335-Sの前にくるのがグレードと考えられます。正式な機種名が「335-S DELUXE」なのでしょう。つまり「335-S DELUXE」には、「Professional 335-S DELUXE」と「Standard 335-S DELUXE」と「Custom 335-S DELUXE」が存在することになります。

Standardは、ボディ・ネックともにメイプル材。Customはボディ・ネックともにマホガニー。Professionalは、ボディ・ネックともにマホガニーですが、指板がエボニーでコイルタップスイッチも搭載されます。そういえば2011年に、こっそりと復刻版が発売されていました。ギター本体が比較的低価格なので、ハードケースを4個買うと、ギターと同じ価格になってしまいますね。ファイアーブランドと間違わないようにしましょう。

335-Sのほか、B.B.KINGモデルのCustom(Lucille)がブラックではなく赤だったりするところが、カラーカタログ故の暴挙にも思えます。

Standardも赤です。

ESシリーズは、この時代はバリエーションが増えていて、Artist、355、345、347、Pro、そしてTDの6種類となっています。

この時代の嬉しいポイントは、ドットの335がLimitedとして復活していることです。まだヘッドストックは大きいままですが、ネックが3ピースながらもマホガニーに戻っているのです。すばらしい。

第4位 HOWARD ROBERTS ARTIST DOUBLE PICKUP

当初はエピフォンブランドで登場したHoward Robertsモデルですが、その後1970年からはギブソンブランドで4モデルが発表されます。ArtistとArtist Double Pickup、Custom、そしてFusionです。

価格的には一番下のグレードであるFusionでさえES-175より高額ですから、当時のギブソン社がこのモデルに込めた期待値がうかがえます。その中でも、いままで現物に触れたことがないのが2PUモデルです。カタログに掲載されているのですから、ちゃんと生産したのだと思いますが…。フロントピックアップがどうやってくっついているのか、写真だけでは理解不能ですね。フローティングになっている点が、Howard RobertsモデルがES-175とは一線を画したジャジーなフィーリングを持っているポイントかもしれません。

ただしFusionモデルだけは、ピックアップリングでPUを搭載しているので、どちらかといえば、指板のドットインレイを見るとES-175の廉価版に見えてしまって残念です。しかし、Artist Double Pickupモデルの589,000円という価格は、ダブルネックのEDS-1275(563,000円)よりも高価ですから、そうそうポンポン売れたりしなかったでしょうし、オーナーの方もおいそれとは手放さないのでしょう。兎にも角にも、レアなモデルです。

第3位 SONEX-180 DELUXE

最新鋭の人工素材「Multi-phonic ™」を採用した気鋭のエレクトリックギター、ソネックス。なぜ180なのかというと、この「Multi-phonic ™」という素材が-40°Fから180°Fまでの温度耐久テストをパスしているからだ、など諸説あります。デザインこそレスポールっぽくなっているものの、アメリカで発売された当時の価格が、299ドル(Deluxe)に設定されたことからもわかる通り、生産コストにおいても、徹底的な合理化・効率化が施されています。ちなみに日本での価格は115,000円でした。

ギブソンファンが許せなかったのはデタッチャブルネックだった事のようです。ストラトだと違和感がないのに、残念ながらギブソンファンは、デタッチャブルがあまりお好きでは無い(私は好きです)。目を惹くのは3点止めのロッドカバー。誰かが勝手にカットしたんじゃないかと目を疑うような、ヘンテコなシェイプに仕上がってしまいました。3点止めといえば、ピックアップも3点止めです。これもギブソンとしては珍しいですが、角度調整の観点からは使いやすいと思いました。アッセンブリーの搭載方法も、ストラトを意識してか、ピックガードにすべてマウントしてあります。生産工程上も、メンテナンス適正からも、悪くはないコンセプトですね。ピックアップは、ピックガードからの吊り下げではなく、ちゃんとエスカッションが取り付けられています。SGやFVとは根本的にアプローチが異なるのは、なぜでしょう。

一方で嬉しいのはブリッジです。ナッシュビルチューンオーマチックではなく、ABR-1でしたね。そんなこんなのSONEXシリーズですが、第3位になった最安値モデルのDELUXE。時代のマーベリックと呼ばれても、このギターで「はじめてのGibson」を手にしたギターキッズにとっては、いつまでも愛着のある想い出です。

時代を反映するギブソンのチャレンジスピリッツが現れているモデルは、SONEXのほかにもVictoryシリーズや

RDシリーズがあり、

フェンダー社の躍進に苦心する、ギブソンの開発部門の試行錯誤が見て取れますね。Victoryシリーズ・RDシリーズともに、その開発範囲はギターにとどまらず、ベースギターにも広がっていました。

第1位と2位は次回ご紹介いたします。

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おったまげのカタログは、未知との遭遇 その1
「おったまげ」なGibsonのカタログを紹介するシリーズの第1回。英文と日本文がマッチしていない説明文や、ヘンテコで無責任(笑)な解説など、80年代の日米のカタログを見ていきます。

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