おったまげのカタログは、未知との遭遇 その1

「おったまげ」なGibsonのカタログを紹介するシリーズの第1回。英文と日本文がマッチしていない説明文や、ヘンテコで無責任(笑)な解説など、80年代の日米のカタログを見ていきます。

ハイアウトプットでクリーンなディストーションサウンドをつくります。ロックンロールに最適のハムバッキングピックアップです

VM(Vintage Maniacs)いやあ、久しぶりにやらかしてますね、Gibson USA。

FV(Fukazawa Vintage Club)といっても、これは1980年のカタログだから、今「やらかしている」わけではないけどね。

VM「ハイアウトプットで、クリーンなディストーションサウンド」って、どんな音なんですかね。聞いてみたいですよ。

FVしかも「ダーティーフィンガーズ」の抄訳説明文だろ?これ見て「欲しい」って思わないよな。

VMでも、USAで印刷された当時のカタログというかパンフに、ドイツ語や日本語が併記されているって、それだけでも随分頑張ったんですね。

FVいや、変な説明を載せるなら、むしろせっかく日本に代理店があるんだから任せればいいのに、と思うよ。

VMこのカタログの本文には、ちゃんとピックアップもパーツも、それらしい説明が書かれていますが、なんで最後の抄訳部分だけ適当なんですか?

Gibsonの懐古とイノベーション

VMこっちを見てくださいよ。

FVうーん、たしかに。「音の大きなピックアップを作るだけなら、コイルのワイヤーを沢山巻けば良いんですが、それでは輪郭の良さやレスポンスを犠牲にすることになります。ダーティーフィンガーズは、慎重にマグネットとコイルのマッチングを考え、高音域を残しながら中低音域を強調した、ファットサウンドを実現しました」って書いてあるから、本当は「クリーンなディストーションサウンド」っていう抄訳部分が、英文からして違和感あるんだよ。

VM「Beefed up the mids and lows」って、むちゃくちゃかっこいい表現ですよ。

FV同感。「ビーフィーな中低音がロックしているダーティーフィンガーズ」ってキャッチコピーなら、イカすよね。

VMなるほど、Private Fingersのサウンドキャラクターそのものですね。カッコいい(笑)

FVまあ、1980年のパンフに難癖つけるわけじゃないけど、英文と日本文がマッチしていないのは、いただけないな。

FV英文には「枯れたサウンド」なんて、一言も書いてない。

VMそうそう、そういう「おったまげ通訳」の人、昔はいましたよね。シェフが、「当時のレシピを忠実に再現しました」とだけ言ってるのに、通訳が勝手に自分の想いを込めすぎて「1900年のまろやかでとろける様な甘味を再現しました」って。気持ちはわかるけど…(笑)

FVここでは、Pat. Applied For™ピックアップの登場に、まだ北米市場の理解が追い付いていなかったのかもしれないね。英文を読むと「20年待たなくてもオリジナルのサウンドが得られるよう、ギブソンの技術が実現したサウンド」って書いているから。文字通りとれば、「昔のピックアップは20年経って良い音になりました」って解釈だろ? そんなことがワインみたいに起こるなら、今、1960年から60年もたったPAFは、どんな音になってるんだって考えてしまうよね。

VMマーケティング側も、ギタリストのコメントや雑誌記事に翻弄されているのがうかがえますね、当時。

FVそれでも、ギブソンの開発陣がPat. Applied For™を上市させたのは、すごいことだ。

VMそうですよ。懐古とイノベーションを同時にやっている。PAFの復刻とダーティーフィンガーズの開発ですから、例えていえば、今のポルシェが916を復刻する傍ら、電気自動車を発表しているようなものですよね。

FV914と言わないところが、さすがだ。

VMえ~、そこですか?(笑)

日本語版に受け継がれる「おったまげ翻訳」のスピリッツ

FVこの「おったまげ翻訳」のスピリッツは、日本語版のパーツカタログにも、しっかりと継承されている。

VMうーん、悪意というか皮肉っぽく感じるなあ…。

VMこれは1981年(昭和56年)の日本ギブソン版カラーカタログに付属していたパーツリストですね。

VMちょっと横道に逸れますけれど、この「弦のパッケージ」って、太さの数字以外同じなのに、こんなにたくさん掲出する必要ありますかね?

VM写真が羅列されている割には弦ごとの太さが掲載されてなくて、どんなゲージの種類がラインナップされているのか、てんでわからない。

FVきりがないので、これ以上つっこむのやめない?

VMそうですね。でも、無料配布カタログならあまり文句いわないですけど、これって、たしか当時はギブソンの本にカタログとプライスリストをセットにして「お金をとっていた」記憶があります。

FVまあ、今日のところは有料の書籍の付録ぐらいに考えておこうよ(笑)

VM日本語解説がヘンテコですよ。

FV「とどめを刺すピックアップ」って、どんなピックアップか、つかみどころが難しいね。雰囲気はわかるけど。で、そのトーンは「ソリッドでシャープで、線が太くて“実に”まろやかでパワフル」らしい。

FVおいおい、何をニヤニヤしてるんだ?

VMここ見てくださいよ。

FV最近、老眼がひどくってさ…見えないよ、どこ?

VM「無印」って書いてある。それと、「カスタム用は、何プライかに重ねた…」って無責任な(爆笑)

FVうわ、これは凄い。何プライか数えればいいじゃないか。手元にパーツあるんだから。

VMなんにせよ、当時のプライスリストを見てると、やっぱりエレキギターって弦とかケースとかも含めて高額なアイテムでしたよね。

FVほんと、憧れと呼ぶに相応しい存在感だね。

FVスタンダードだけ左用がラインナップされていないのが不思議だ。

 次に読むなら

2004年のGibsonカタログ(前編) - モノによる記憶の解凍
2004年のギブソンのカタログには、往年の名器の復刻からアーティストモデルまで、豪華なギターが多数掲載されています。読み甲斐のあるこの一冊を、前後編に分けてじっくりとご紹介いたします。

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