その場しのぎのGibsonパーツカタログ 前編

以前紹介したギター関連広告のスクラップブックの中から、1987年と1996年のGibsonのパーツカタログに注目。見たことがない純正ギグバッグや名入れTシャツ、そして左利き用の弦?など、2つの時代のカタログを見ていきます。

1987年のリーフレット

ヘンテコギブソン探訪記」でご覧いただいたギターショップの広告切り抜きバインダーですが、雑誌のページ以外にも、古いパーツカタログや北米ディーラー向けのセールス資料などが綴じてありましたので、面白そうなのをピックアップしながらご紹介したいと思います。

まずは、手描きイラストが80年代っぽい販促グッズのリーフレットです。

1987年といえば、言わずと知れた名盤「アペタイト・フォー・ディストラクション(ガンズ・アンド・ローゼズ)」がアメリカだけで1,800万枚のセールスを記録した、私の中では「レスポール・サウンド復権」の元年です。

ナッシュビルに移転して士気が上がるギブソンの営業部門は、このリーフレットでも、積極的にプロモーション・ツールを展開していますね。ポリッシュと布をセットにして、店頭でディスプレイハンガーに掛けられるよう、パッケージしています。

でも、なぜか写真ではなく、線画のイラスト。次のページも同じく線画です。なんでかな…と不思議に思っていたら、Dave Rogers(Dave’s Guitar Shop)が教えてくれました。「これを切り抜いて、そのまま新聞の白黒広告やチラシに使うんだよ」

ところで、このギグバッグ。後にも先にも、eBayでも見たことがありません。本当に存在したのでしょうか。

せっかくのギブソンですから、もっと「ロゴ」を、パーっとドカーンとでっかくプリントしてほしかったですね。しかも、天下のギブソンが「ストラトスタイル」って…単語を使っていいのかどうだか。

このリーフレットを見ながら長年疑問に思っていることは、「3個買えば1個無料」っていう表現です。標準小売価格$99.99とあります。つまり、1個仕入れると$34.99のギグバッグですが、「4個仕入れても、34.99✕3=104.97で、1個当たり$26.24」って事ですね。それを、$99.99で店頭販売すると、利益が74%! まあ、日本だと単純に25%引きで良いと思うのですが…。

アメリカのSaleって、20%引きとか40%引きっていう、店頭で暗算しにくい数字は使わず、「1個かったら2個目は半額(ABCマートで良く見かけます)」とか、わかりやすい表現が多いです。

さて、こちらも見たことがない、「Gibson Gripper™」ピックです。ネーミングに「TM」が付いているので登録商標でしょう。

「このGripperは、すべらないので、落とさない」って書かれていて、当時一世を風靡した塗料「TEXTAC」を塗っているようですが普及しませんでした。で、ポイントですが、「SOLD BY 1/2 GROSS」という表現。小学校の頃は、なぜ鉛筆だけ「ダース」なのか不思議でした。12本入りを「1ダース」って教えられましたが、魚屋さんで売っているメザシは「1ダースください」とは言わないですよね。グロスは、12のかたまりが1ダースありますよってことで、12✕12の144個です。これは記憶しておくとアメリカ生活では便利。で、このピックは半グロス単位の販売ですから、72個から仕入れられるっていう表現です。

このTシャツの柄、①せっかくのレスポールが、ワシのドヤ顔で隠れていて、カッタウェイのあたりも見えません。誰がデザインしたんでしょう。②ショップ名を入れてくれるキャンペーンですが、シャツが50セントなのか、名入れが50セントなのか、わかりにくいです。

よくみるとシャツは$5ですね。最低注文数48枚からって、中途半端に聞こえますが、「4ダースから」と考えると理解しやすい。要するに1/3グロスってことです。ピックは1/2グロスでしたからそれよりは仕入れ単位が小さいって理解しましょう。

そして、③納期は6~8週間。デジタルプリンティングの昨今では、納期が6日でも「遅いよ、他をあたるよ」ってなっちゃいますが…。ちゃんと手作業のスクリーンプリントだったのでしょう。そうそう、手作業のTシャツプリントといえば、Vintage ManiacsでもMarshのステンシル打ち抜きでTシャツにアルファベットを入れたことがありましたね。あれはハードケースにバンド名を入れるのにも、アナログでかっこいいです。

定着しなかったGibsonのコード管理システム

ほぼ同時期の「価格表」にも、不可解な表現があります。

カラーコードが沢山羅列されていますが、その隅っこに「Gibsonは実に便利な発注コード管理のルールをつくりました」って、自慢げに書いてあって、何度読んでもさっぱりわかりません。多分、FAXや電話でのディーラーからの注文間違いが多かったのでしょう。しかし、なんでもかんでも「自社のシステムに入力しやすいコードに読み替えてもらえば解決する」という訳でもなく、この仕組み自体は定着しなかったとDave(前述)は言ってました(笑)

1996年のアクセサリーカタログ

そんな1987年から10年たった1996年になると、アクセサリーカタログも随分と立派になります。

表紙を入れると12ページ構成に増えていますね。エンドースメント・アーティストの弦が登場していて、丁寧な説明とともに、弦のラインナップが数えきれないくらい増えています。

ディッキー・ベッツ先生のシグネチャー弦が出ていたのを存じ上げませんでした。

エレキギター弦だけでも、日本では見られないほど豊富な9種類が掲載されていて、そのほかフルアコ用やアコギ用、バンジョー用などを合わせると25種類にも及びます。

そして、お馴染みの「ばら売りボックス」が洒落ています。これって、ぜひ「Wood Box」だけ単品売りしてほしいですよね。

ちょっと意外だったのが、「レフティ弦」と「チープな弦(文字通り)」。「左利き用の弦」が掲出されていて「まじか?」と思ったら、ちゃんと「Special “reverse packaging” really gets laugh」って書いてあるから、ちょっとしたジョークっぽい製品なんですね(笑)

90年代が最近だと思っていたら、あっというまに「昔」になっていて、驚くことが多い昨今ですが、こうしてカタログを振り返っていると、まだまだギブソンには「マーケティングのミステリー」が詰まっていて、細かく観察するモチベーションになるのでした。

86年のリーフレットで紹介されていた「ポリッシュとクロスのセット」は、ここでも健在です。
ハートシェイプのめずらしいピックがありますね。
大好評だった初代「57 Classic」に、パワーアップした「Plus」が登場。ブリッジポジションに最適との記載。
ピックアップ・ワイヤリング機材の写真はレアかも。

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