音の本棚 - その名も『The Les Paul』という雑誌

「レスポール神話。それは私の世界だ。」今回の音の本棚は、1981年に出版された『The Les Paul』。この時代の音楽雑誌には、作り手のほとばしる情熱が込められていた気がする。それは明確なメッセージとして随所に織り込まれていて、雑誌全体がロックなのだ。

たかが雑誌、されど雑誌。

筆者にとって、そして日本のロック少年少女にとって、このタイトルほどインパクトをあたえた80年代のギター雑誌は、ほかに無い。その名も『The Les Paul』である。レス・ポールさんが創り出した「レス・ポール」というギターだけの特集雑誌だから、ギターを弾かない人には関係ないのかもしれない。そして、なぜなら、その表紙は「知らない人にとっては、ただのおやじさん」のクローズアップだからだ。

『The Beauty of the Burst』のような、フレイムトップのスタジオ写真じゃない。そこがすごい。

音の本棚 第1回 『The Beauty of the Burst』

音の本棚 第1回 『The Beauty of the Burst』

2020.5.1

この時代の音楽雑誌には、作り手のほとばしる情熱が込められていた気がする。それは明確なメッセージとして随所に織り込まれていて、雑誌全体がロックなのだ。

「レスポール神話。それは私の世界だ。」

「私」とは「レス・ポール氏」であり、編集者「河島彰氏」であり、そして「俺自身」でもあった。だから、この雑誌には私自身の人生の岐路となるだけの価値があったと思う。

映画『恋人たちの予感(When Harry Met Sally...)Wikipedia』で、主人公のHarryは「僕は小説を“あとがき”から読むんだ。時間を節約できるだろ?」と、恋人役のメグ・ライアンに話すシーンがあるよね。でも当時、私は意図したわけではなく、偶然にも『The Les Paul』をあとがきから読んでしまった。

「折り込みポスター的に工夫された裏表紙」をめくると、そこに記された河島彰氏の“言葉”には、この雑誌を作った情熱とレスポールへの憧憬が込められている。それは紛れもなく「時間の節約ではない、本編と過ごす時間が何倍も満ち足りた、かけがえのない言葉になった」のを、昨日のことのように思い起こせる。

「ゆっくりと流れるようなカーブドトップのフォルム。空を突く直線的なネックとヘッド。稀世、フレームメイプルのトップは、目も醒めんばかりの華麗なチェリーサンバーストを生み、マウンティングリングやピックガードに残されたオフホワイトのプラスチックは美妙なアクセントとなって、さらに、さらに美しさを強調する。素晴しき芸術品。レス・ポール。すべてのエレクトリックギターの中で、これほど完璧で、これほど優雅で美しいギターを、僕は知らない(河島彰)」原文のまま

表紙も折り込みになっていて、日本ギブソンの広告が目を惹く。

アッパーリンクオーのヘッドストックは、メイプルネックのレギュラーモデルだろう。ちなみに、レス・ポールさんが持っている「Heritage Series Standard 80 Elite」は。角ばったクローズドオー。

70年代以降のGibsonロゴの変遷

70年代以降のGibsonロゴの変遷

2019.1.18

ページをめるくと、そこには名だたるギタリストが、惜しげもなく愛器を公開している。

スティーヴ・ルカサーは、こんな豪華なバーストをスタジオで使ってたんだ。

そのサウンド、どのアルバムのなんていう曲で、聴けるんだろう。

ビリー・ギボンズも、ばっちり極上のレモンドロップ。

40年以上前なのに、彼の容姿が変わらないのがすごい。

バーニー(マースデン)とエディ(ヴァン・ヘイレン)も、ちゃんと持ってますね、バースト。

でも、よく考えたら、この本が出版された1981年、ヴィンテージっていっても、1959年のギターは20年しか経っていない。今でいえば2000年ごろのギターということだ。ならば、その20年の期間で「枯れる」とか「経年で」ということが正しいのか? 工場で作られた時からすでに、ギタリストを惹きつける要素・魅力・サウンドを十二分に持っていたということか?

一方で、バースト・サウンドを測定した数値で視覚化する試みも当時としては斬新だろう。

こうした『The Les Paul』を通して沸き起こるギターへの優雅なあこがれは、Mac Yasuda氏のカラー写真入りレポートとあいまって、

いまでも「1981年から見たヴィンテージ」という、蒼くも深い記憶となって本棚にしまわれているのだ。

この本をお持ちの読者の皆さん、ぜひ書棚から引っ張り出して、ゆっくりと1981年にタイムトリップしてみませんか?

後記

Heritage Series発売に合わせての発刊だっただけに、誌面にはラインナップ紹介に加えて、

80もクローズアップされている。

誰も「親の七光り」と呼んだ覚えはないが、「七光りではないぐらい素晴らしい」とわざわざ記載するあたり、「Heritage Series以前は、七光り」と思っていたのだろうか、日本ギブソンは。

細かなことだけど、ギブソン・ファンとしては気になってしまう「Gibson Logo」のシェイプ。Heritage Seriesは、角ばったクローズド・オーで、

同時期にショップ・オーダーで生産されたLeo’s Vintageなどがアッパーリンク・オーだと思っていたのだが、どうやら混在していた模様。いま一度、しっかりと所有機のスペックを見ておく必要がありそうだ。

同誌に掲載されたJeff Beckのレス・ポール。Rest with the angels, Jeff!
バーニー・マースデンは、いまでも大切に、同じレスポールを持っていますね。

 次に読むなら

モノによる記憶の解凍 - HeritageとVintage
60年代生まれにとってギターは憧れの対象だった。カタログを眺めながら「いつか手に入れる」と夢見ていたものである。今回は80年代初期の日本ギブソンのカタログを見ながら、ギターコレクターとして「モノによる記憶の解凍」について考えてみようと思う。

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