ギブソンのヴィンテージ・ロゴと突き板の変遷
ギブソンのヘッドストックに使われた突き板にはたくさんの種類があります。豪華なインレイが入った美しいモデルやGibsonロゴの変化についてマニアックにご紹介します。
今回はHeadstock Veneer(突き板を英語でVeneerと表現します)に搭載された状態のロゴを年代ごとに見てみましょう。最近では突き板を販売する欧州のパーツショップもありますが、実際にカラマズー工場で使用されていたものとはだいぶ異なる場合があります。次の画像で4枚並べた突き板は、左から現行タイプ、80年代中期、80年代、70年代、50年代となります。
では、ひとつずつクローズアップで見てみましょう。
この突き板はPlectrumギターやマンドリンに採用されたもののようで、通常のレスポールなどにくらべて小ぶりですが、ロゴは同じものが使われています。
手前にあるのは、57GTの損壊したネックから取り外したロゴです。丁寧に茹でて、まわりの接着剤を取り除いています。
50年代から60年代にかけては、突き板のベースは柊(Hollywood)ですから、大変センシティヴな素材かつ柔軟です。実際にギターに搭載される前にベース材に取り付けられており、ロゴ字体も非常に薄いのがわかります。
表から見ると、まだロゴは見えていません。
60年代前半から後半にかけて、基本的には同じ製造工程ですが、ロゴのアウトラインが変化します。
まだまだ丁寧な仕事をしていますね。一つ一つこうしてネックに搭載する前に突き板を工場内で作っていたわけです。生産数量が飛躍的に増える60年代後半には、悪名高き「マスキングロゴ」が登場しますが、これはその前の60年前半と基本的な製作工程は同じで、ロゴが大ざっぱになったものです。こうなると「手抜き」にしか見えません(苦笑)
ヘッドに突き板を搭載してから塗装とマスキングだけでロゴを形成しているので、経年でマスキングのラッカーが剥がれてGibsonとは読めなくなる個体も多い年代です。
50年代は、突き板をギターに搭載するときには、ロッド調整の部分もそのまま加工されていないのがわかります。
これは61年のSGLPスペシャルのネックです。カラマズー工場のデッドストックになります。マホガニーも黒々していてキュートですね。
同年代にギブソンの工場で生産されていたEpiphoneブランドも基本的には同じ作り方ですが、Epiphoneのロゴの方が、高額だったGibsonよりも複雑なのは皮肉です。
高級ジャズギターなどに採用されたスクリプトGibsonロゴも、基本的には同じ作りでした。
70年代になってさらに生産数量が増えてくると、ギブソンは突き板を内製するのをやめて外注加工に出します。ベース素材はベークライトになりますので、木製にくらべて大変加工も楽だったことでしょう。
ただ、一部の高級ギターのヘッドストックは、ロゴが70年代となっても、まだまだ工場内でハンドメイドされていたようです。
ハワードロバーツの突き板は、ロゴもインレイもレッドアバロンで高級感があふれています。
もう一枚は、スクリプトロゴで豪華なインレイの入ったオーダーモデルです。
70年代の途中から、ロゴは角ばって少し大き目になります。海外からのコピーモデルと区別しやすい大型のロゴになりました。この時期は、見込んだよりもセールスで苦戦したのか、レフトオーバーパーツの中にこのロゴが大量に入っていました。80年代初期のLes Paul Standard 80シリーズなどでおなじみですね。
その後は、アッパーリンク・オーとよばれる小ぶりのロゴに変わります。引き続き「O」は閉じています。レオズ・ヴィンテージや、Standard 82などで見かけるキュートなロゴです。
ヒストリック・コレクションの黎明期からは、オープン・オーが待望の復活を遂げます。ロゴ単体や突き板など、モデルごとに多くのヴァリエーションを外注するようになり、外注先があまった突き板をeBayで放出したりして混沌としています(笑)ヘッド加工前のものは、ナッシュビル工場のチャリティーオークションで出品されたものです。
いかがでしたでしょうか。良質のレプリカロゴや外注先放出品が比較的手に入りやすい昨今ですが、こうして時代ごとに変遷を見ていくと、なるほどにギブソンがヘッドストックに費やした労力に頭が下がります。次の画像は、突き板コレクションの中でも筆者がレアと感じている、ロゴ搭載前のアッパーリンク・オーの突き板です。
次に読むなら
掲載されている文章および画像の無断転載・引用(ソーシャルボタンは除く)は固くお断わりいたします。