やみくろストラトキャスター54/55 - 朋あり、近所より来たる
60年前にカリフォルニアの小さな工場で作られた2本のストラトキャスターが、5500マイル離れた東京で再会。それぞれのギターをクローズアップで見ていきます。趣味の仲間と過ごす時間は楽しいですね。
目次
有朋自遠方来、不亦楽乎
いきなり「論語」ですが、近年「友が訪ねてきてくれる」週末が楽しくて仕方がないです。もともと「有朋自遠方来、不亦楽乎」は「同じことを学ぶ友人や仲間が、遠いところからやってくる」「仲間がいる。来てくれる。それが嬉しい」って話なのですが、近くからでも遠くからでも、来てくれる仲間はうれしいものです。みなさんも、趣味の仲間と過ごす時間って、そうですよね。
特に私の場合は、しんどい時にギターを触ったり、ギター友達と会うのはすごく大事な時間です。仕事の資金繰りだったり、親族の不幸、お世話になった先輩が行方不明とか、悩みが多い時ほど、苦しい時ほど、訪ねてくれた友と話しながら「ああ、論語はこういうことを言ってたのか…」と。
竹上さんもハワイから来てくれたので、ずいぶん遠方なわけです。といっても休暇でハワイに行ってたのであって、住んでるのは自転車で10分くらいのご近所さんなんですがね(笑)
ストラトフリークでフライングV大好きの彼が、自転車で持ってきてくれたのは55年のストラトです。こんな高価なヴィンテージをギグバッグに入れてチャリで走っている人、他に知りません。
全面に綺麗な経年クラックが出ているオリジナル度の高い個体なので、パーツを含めて順番にクローズアップして見ていきましょう。
54/55ストラトキャスターのヘッドストック
まずはヘッドストック。良い感じに日焼けしています。となりの54もそうですが、クラシカルなクラックとサンバーンは、ラッカーの香りがしてきそうなぐらいこんがりしています。リフィニッシュの無い個体をしっかりと比較しておくと、シェイプの違いやエッジ処理が異なる点を視認できますね。
6弦横に、クラプトンおきまりのタバコ焼が。いまの若者世代はiQOSなので焦げ目は付きません(笑)
こまかなホリゾンタル・クラックは、時代の生き証人であるが如く存在感を示しています。ギブソン社のエイジドを受け持ったトム・マーフィーは、カッターで傷をつける手法で一世を風靡しましたが、実際に使っていると、経年でこすれたカッター傷が消えていくという、なんとも皮肉な現象がおこります。一方フェンダー社のエイジドは、実際に綺麗なクラックがラッカー奥深くまで浸透しているので、写真のようなヴィンテージのクラックと比較しても遜色ない仕上がりです。
そうそう、Fenderのロゴデカールって、あまりクローズアップで見る機会がないので、今回はじっくりとご覧ください。ダブルレイヤーのウォータースライドデカールは、アメリカのMeyercord社製。当時はGibsonやMartinなど、多くのメーカーのデカールを受託生産していました。
ペグブッシュは随分と黒ずんでいます。もともとニッケルですから、ここまで変色している個体はめずらしいですね。
ヴィンテージのペグ本体は保管してあって、実用時には、このように近年のものに交換して使うそうです。
経年変化を感じるストラト各部のクローズアップ
全体に塗装がダークに焼けていて迫力満点。一瞬ローズ指板かと錯覚するぐらいダークだ!
フィンガーボードやネック裏のラッカーがこすれた部分に、歴代オーナーの血と涙が混ざっております。黒々と。
よく見ると、左のホーンの部分に販売したショップのデカールが貼られていたのでした。いまでは目を凝らさないとわかりませんが、当時はかなり目立ったと思います。販売してから60年以上たって、こんな高額で取引されるようになることがわかっていれば、販売店は「ここ」にシールは貼らなかったでしょう。もしかしたら、初代のオーナーが貼ったのかもしれませんね。
使い込まれた指板とリフレットされたフレット。
ネジ類がオリジナルなのは大事ですね。この角度のクローズアップ、なかなか無いでしょ?
ブリッジ全体。よく見たらネジが1本無い…なぜ?
サドルの高さ調整のイモネジ、回すのが怖いです。
4桁シリアルのネックプレート。ジョイントスクリュー用の穴加工は、よく見ると結構粗いです。
良質なレプリカ・ネックプレートが登場しはじめた90年代初期は、私はここの加工精度を判別のポイントのひとつにしていました。
年季の入ったラッカー塗装の「経年変化」を各部分で見てみましょう。このテイストは、なかなか手加工のエイジドでは出しにくいですね。使い込んだからこそ味わいのある、天然の傷み方です。
うっすらとトラ目が出ているボディ。
美しいスパイダーウェブのクラック。
2本のヴィンテージ・ストラトキャスター
「友、近所から来たる。亦た楽しからずや」ってことです。60年前にカリフォルニアの小さな工場で作られた2本のエレキギターが、5500マイル離れた東京で再会し、並んで写真におさまる。1955年は、私も竹上さんも、まだ生まれていない年です。じっと見ていると、この2本が何かお互いに語り合っているような気もしますね。
(Special thanks to Mr. Takegami)
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