音の本棚 第5回 『The Guitar 3』とWide Travel Tune-O-Maticブリッジ

バブル時代の幕開けを予感させる1984年は、とにかく「変形ギター」の時代だった。そんな中、ふと著者の目にとまった、ハーモニカブリッジと呼ばれる「Wide Travel Tune-O-Matic」を詳しく見ていこう。今日では忘れ去られた存在であるが、Gibsonが70年代に「新時代のブリッジ」として心血注ぎ開発した渾身のパーツである。

バブル時代の幕開けを予感させる1984年

『The Guitar 3』が刊行された1984年は、ロサンゼルスオリンピックに世界中が湧き、資産価格上昇と好景気が日本バブル経済をスタートさせた、記憶の中の黄金時代だ。筆者は、この年に「関西から慣れない東京へ」と上京し、社会人一年生となった。東京出身の会社同期は、週末のたびに「テニス」だ「コンパ」だ「東京プリンスのプール」だと、忙しくも華やかな大人へ脱皮していったが、私自身は学生時代となにも変わらず、楽器店を散策する平凡な週末を繰り返し、エレキギターのデザインに没頭していた。

調べてみると、マッキントッシュが発表されたのは、この年らしい。スマホもスタバもない1984年だ。さすがに、40年経つとAppleのデザインですら面影もなく変容しているのだが、驚くべきは当時の音楽雑誌広告に掲出されたGibsonレスポールが、何事もなかったかのように、今と同じ艶姿を見せている事だ。ただ、ここに登場するレスポールは、スタンダードではなくて「カスタム」や「スーパーカスタム」、そして「スポットライト」だけどね。バブル時代の幕開けを予感させるかのように。

この頃は、日本のメーカーがオリジナルモデルに力をいれていた時代でもあった。Aria Pro Ⅱの広告には、名だたる豪華な外タレ(という呼称もすでにレトロだ)がエンドーサーとして登場している。

私が西ドイツ・ハノーファー留学時代に知り合ったマイケル・シェンカーも、自身のB&Wのモデルで広告に登場し、日本のファンにアピールしていた。(マイケルは、その後DEANのエンドーサーとしても来日)

さて、この「待ちに待ったThe Guitar第3弾」。会社の昼休みに駆け足で買いに行った南青山の書店を今でもよく覚えている。

とにかく「変形ギター」の時代だった。

新時代のブリッジ、Wide Travel Tune-O-Matic

フライングVもエキスプローラーも、普段着のようにステージやツアーで弾かれていて、見るたびに興奮した。そんな中、ふと私の目にとまったのは、ダブルネックに搭載されたハーモニカのような幅広いブリッジ、「Wide Travel Tune-O-Matic™」のギター達だ。Gibsonが70年代に「新時代のブリッジ」として心血注ぎ開発した渾身のブリッジで、それなりに一時代を築いたのだが、今日ではレギュラーモデルにもカスタムショップモデルにも搭載されることのない、忘れ去られた存在である。実は、筆者が最初に手に入れたエレキギター「Gibson SG Standard 73年」にも搭載されている。

こちらの、ミラーガードのSGは、フランク・ザッパの愛器。

メンテナンスのとき、ピックガードを外すのが面倒臭そう。ちょっと変わったところでは、STYXの愛器。12弦のダブルネックへ2個搭載されている。

このカタログは1974年バージョンで、Wide Travel Tune-O-Maticブリッジが登場して間もない時期になる。

パーツ名は記載されておらず、単に「Nickel plated with mounting studs, designed for light and extra light gauged strings」なる説明がされているだけである。時に、「Wide Travel」という呼称であるが、eBayなどでは、あまり一般的でなく、通称「Harmonica Bridge」と呼ばれることのほうが多い。もうひとつ別のカタログでチェックしてみよう。

こちらは「Shaller, Tune-O-Matic style (stud & insert)」とあるが、Gibson製でないことを明言したうえで、Schaller社の綴りをおもいっきり間違っている。(×Shaller → ○Schaller)

カラー版のセールス用カタログで「Wide Travel」という部品名が登場している。筆者が記憶しているのは、このカタログでの表現からである。

そして、このカタログでのアピールがすごい。これでもかと、Wide Travel Tune-O-Maticブリッジのアップ写真だ。(しかし、この呼び名は、長くて書きづらいね)

バラ売りパーツの不思議

1981年代のパーツカタログでは、どうだろうか。

パーツナンバーも変更されているし、名称はただの「Bridge Assembly」だ。

ちょっと細かい話をすると、このカタログで「Bridge Assembly」とだけ呼ばれているブリッジは、2種類のパーツ表記が存在していてややこしい。

1. ブリッジ全体、スタッドのみ、アンカーのみ
2. ブリッジ全体、サドルのみ、スタッドのみ、アンカーのみ

このブリッジでサドルやスクリューをなくす人は少ないとおもうのだが、「2.」はサドルのみのバラ売りがある。リペアマンが、ミゾの切り直しをするときにバラで注文できるようにしたのだろう。では、なぜ「1.」にはサドルのみの販売がないのか…不思議だ。

余談だが、さらに面白いのは「Nashville Tune-O-Matic」のパーツの売り方で、ブリッジアッセンブリーとコマとスクリューがバラ売り可能だ。

こんな区別をするほど、ちまちま個々のパーツをなくさないと思うのだが、サドルを切り直すときに、ブリッジ全体よりもパーツのみで交換できるよう、リペア代が安くなる配慮だろうか。

クロームとゴールドのブリッジ

『The Guitar 3』から脱線したついでに、クローズアップされる機会の少ない「WTTB(Wide Travel Tune-O-Maticブリッジを略して見た)」のクロームとゴールドを紹介しておこう。ちなみに、このモデルにはニッケルバージョンはラインナップされなかった。

裏側を見ると、当時は西ドイツだったにもかかわらず、Made in Germanyと刻印されている。

スタッドは、ギブソンのどのブリッジとも共通性のない特殊形状だから、なくすとリプレイスメントがなかなか手に入らないので要注意だ。

この個体は、溝の切られていないバージン。

主に上位モデルに搭載された。

クロームもメッキが異なるだけで、金型は同一のようだ。

フライングVにワイドトラベルブリッジを載せてみる

SGやLPシェイプにはしっくりくる「WTTB」だが、さすがにギブソンも「FV」や「EX」には似合わないと気づいたらしく、ファクトリースペックとして搭載されることはなかった。

となると、とりあえずやってみたくなるもので、FV83に「WTTB」を載せてみると…

やっぱり変だった(笑)

追記

Wide Travel Tune-O-Maticについて、手元のパーツを調べてみました。前出のパーツリストだと、#10521がサドルアッセンブリーなのですが、このパーツケースには表記がありません。

一方で、入っているパーツを調べてみると、サドルとスクリューと、スクリューの頭部分がちゃんと入っていました。

このスクリューは反対側にも頭があって、ねじ込みで止まる仕組みになっています。

いつもパーツを眺めていて楽しいのは、40年以上経っても都度新しい発見があることです。今回は、Wide Travel Tune-O-Maticのサドルとスクリューにブラックバージョンを発見してしまいました。ニッケルが存在しないのに、ゴールド、クローム、ブラックがあるなんて、ちょっと不思議です。しかし、ブラックのWide Travel Tune-O-Maticを見たことがない…。

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GibsonのABR-1を時期ごとに比較
ギブソンがABR-1ブリッジをノンワイヤーで復刻したのは画期的でした。ヴィンテージから現行まで、いろいろな仕様が存在するこのパーツを深くチェックしてきます。

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