ファイヤーバードへの注力 - 1963年のギブソン・カタログ
このカタログではファイヤーバードは見開きで4モデル掲載されています。西海岸ではフェンダー社が効率を重視した楽器作りでストラトキャスターやテレキャスターを拡販していましたから、ギブソンも従来のジャズギター路線から方向転換を図ったのでしょう。
フルカラーの表紙が美しい1963年のギブソンのカタログは、16ページと全体的に薄くなりました。内側は三色刷りです。この年はケネディ大統領が暗殺され、アメリカにとって政治と経済が大きな転換期に入った時代でした。一方でポップカルチャーは、ビートルズの「I Want To Hold Your Hand」や映画「アラビアのロレンス」が大ヒットするなど賑やかでもありました。Buddy Hollyにあこがれて多くの高校生がギターを買い、習い、バンドという言葉も普及しています。沢山のハイスクールの生徒がこのカタログを握りしめて、お父さんと一緒に楽器屋を訪れたことでしょう。
さて、この年のアメリカの平均年収は5,807ドル(当時の固定ドルレート360円で計算すると日本円で約210万円)ですが、わかりやすくギターの価格をガソリンで換算して見てみましょう。手元の資料によると1963年の北米でのガソリン価格が1ガロン29セントとあります。ギブソンのSGスタンダードが、おおよそ300ドル(1963年のカタログには価格が表記されていません)ですから、ガソリンにすると3,000ガロン分ですね。近年ガソリンの価格は落ち着いてきましたが、高騰していたときの1ガロン4ドルで計算すると3,000ガロンは12,000ドル。さすがにSGスタンダードが車1台分、ヒスコレのレスポール2台分、高級一眼デジカメ4台分…と考えると、相当高価な買い物です。
それではページをめくってみましょう。ソリッドボディ・ギターのラインナップはシンプルで、SGとメロディーメーカーとファイヤーバードだけです。
ファイヤーバードは4機種あって、当時のギブソンが力を入れていたのが伺えます。SGジュニアとファイヤーバードⅠを比べるとファイヤーバードⅠの方が30ドル程高価ですが、スルーネック構造やハムバッカー搭載、バンジョーペグなどを考慮すると、この価格差以上にスペックの差がありますね。
西海岸ではフェンダー社が効率を重視した楽器作りでストラトキャスターやテレキャスターを拡販していましたから、ギブソンも従来のジャズギター路線から方向転換を図ったのでしょう。ファイヤーバードは見開きで4モデル。しかしボディシェイプが似ているとフェンダー社からクレームが出たため、短期でノンリバース・タイプへとデザインチェンジされてしまいます。当時のカタログでリバース・ファイヤーバードが掲載されているのは、このバージョンだけになりますので貴重です。カラフルな印象があるファイヤーバードですが、カタログスペックにはサンバーストだけ記されています。SGカスタムはホワイトのみでSGスタンダードはチェリーのみ。いささか大雑把ですね。
最後のページにはトラスロッドの仕組みやハムバッカーの写真があり、アクセサリーがちょこっとだけ掲載されていて、1960年の分厚いカタログと比較すると拍子抜けです。
最後に60年代に発売されたFord Cortinaの写真をご覧ください。こうしてみると現在のロックシーンにおいても現役でバリバリ活躍し続けるSGやファイヤーバードなど、ギブソン社の卓越したデザインセンスが伺えますね。
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