チッチキチーな土曜日 - SG Custom 3つの再発見 その2

70年代はギブソンにとってオリジナリティあふれる大切な過渡期だ。昔ながらのスペックとニューコンセプトが一つの個体に同居する「ネオヴィンテージ」という呼び名が似合う。そんな時代のSG Customで新しい発見をした。ピックアップ、ブリッジ、テールピースに注目してバリエーションを紐解いていこう。

ハンドメイドの残り香

吉原君に預けたのを12年間忘れていたわりに、こうして手に取ると「懐かしい愛執」があるのは、60年代初期を彷彿とさせるシングルガードに加えて、ストップテールピースの安定感と、ハンドメイドの息遣いが残るコンター加工の美しさ故だろう。

70年代のカラマズー工場は、生産量が飛躍的に増え、工場で量産される工業製品としての「ギブソン」が、色濃くなった時代だった。その中にあって、SGモデルは、ボディのエッジに施されたコンター加工に「ハンドメイドの残り香」があり、温かみのあるシリーズになっている。

前回から続く「再発見 その2」は、45年間気づかなかった「おったまげのスペック変遷」を交えて、クローズアップしながら見ていこう。

「ネオヴィンテージ」仕様のパーツ

まずテールピースは、60年代後期の軽量タイプから大きな金型変更はなく、一見同じ仕様に見えるが、素材がアルミではないので重量は倍以上ある。

表から見ると、下地処理が異なるため、メッキの剥がれ方が後年と大きく違うのがわかる。60年代から70年初期までの、独特の「錆び方」だ。eBayでも、この年式のゴールドテールピースはほとんど見かけなくなったので、紛失するとオリジナルに戻すには随分と苦労する。

この時代特有といえばロッドカバーも同様で、失くすとなかなか手に入らない特殊なスペックだ。

ロッドカバー特集でも解説しているが、ホワイトのレイヤーが厚いのである。

わずかな違いなのに、ヘッドに搭載すると、この1ミリにも満たないレイヤーの厚みが、遠目からでも目立つ。トグルスイッチのワッシャーは、すでに「等間隔の溝」になっており、ポーカーチップ(プレート)のフォントも「R」が垂れていない。このあたりは、カタログに掲載されているモデル同様に70年代仕様だ。

パーツそれぞれを見ていくと、70年代というのは、ギブソンにとって60年代でもなく80年代でもない、実はオリジナリティあふれる大切な過渡期であり、昔ながらのスペックとニューコンセプトが一つの個体に同居していて、40年以上経った今から振り返ると「ネオヴィンテージ」という呼び名が合っている。

その証拠に、ピックアップリングのネジは50年代が混ざっていた。

バックプレートも、ワイドピックガード時代から変更のないシェイプで、このまま「60年代後期のSG Standard」にも搭載可能となっている。

ブリッジはモダンな「Wide Travel Tune-O-Matic Bridge」が搭載されていて、ABR-1から移行した直後だ。

この個体は、入手したときにすでに「Nashville Tune-O-Matic」に交換されていたのでこの姿でしたが、スタッドを見ると、オリジナルは「ワイドトラベル」だったことがわかります。

ピックアップとブリッジに関する再発見

ちなみに、ワイドトラベルとナッシュビルでは縦の幅が大きく違うため、リア・ピックアップとの間隔が窮屈だ。

ところで、ここで「おやっ」と思われた読者の方は、観察力が凄い。私は40年間見過ごしていた。

上の画像では、リアPUリングとワイドトラベルの間が、そこそこ広い。一方で、別のカタログ写真を見ると、リアPUリングとワイドトラベルの間隔が狭い。各PUリングが接触せずに間隔が空いているためで、説明には「78年には、73年スタイルに戻った」と書かれている。

Tom Wheelerの『Guitar Book』に紹介されている73年SG Customはこの仕様なので、PUレイアウトに関しては「もとに戻った」という表現は正しい。

で、その間の75年前後は、3つのピックアップくっついているのだ。

1973年 PUが離れたモデル
1975年 PUがくっついたモデル
1978年 PUが離れたモデル

まあ、持ってる人とか、リペアする人とか、弾いている人ぐらいしか気にならないだろうが、75年モデルは、どうみてもPU同士が窮屈だし、なんだかこれなら「2PUで良いんでないかい?」ってなりそうだ。なぜ、73年モデルから75年モデルにスペック変更する必要があったのか。

SG Customには5通りの仕様がある

話を元に戻すと、今回のSG Customは、どうやらPUがくっついているので75年モデルに近い。

ここで「近い」と表現したのは、ご覧いただけるとおり、私のCustomはフロントピックアップがネックエンドにくっついているのである。このあたりが「再発見 その2」なのだ。

カタログとは明らかに違う。そして、さらに奇怪なのは、テールピースの位置がヘンテコなのである。こんな後ろでいいのか?

というわけで、あらためて整理すると、SG Customには、5通りの仕様があったようだ。

1973年 PUが離れたモデル
1975年 PUがくっついたモデル・テールピース後ろ
PUがくっついたモデル・テールピース普通
フロントPUがネックにくっついたモデル
1978年 PUが離れたモデル

ノブ、スタッド、ペグ

ゴールドメタルキャップのヴィンテージ・ノブは60年代譲り。

ポインターは、一個だけ60年代仕様で90度立っている。

ショートスタッドはエンドにグリグリマーク付き。

そして、美しいシャーシのゴールドクルーソン VX-501は、筆者が大好きなペグの筆頭でもある。

振り返ると、この事件がなければ、自分の持っているSG Customが、どのスペックだったか、記憶にないほど見落としていた事に、反省しきりだ。

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