フライングVのルックス (前編) - ピックガードの異質性
同年代・同一モデルのギターの中に、1本だけパーツが交換された個体が混ざっていると、その微妙な差に気づく感覚、ありますよね。今回は面積の大きなフライングVのピックガードに潜む小さな違和感に注目します。
目次
ピックガードの異質性
デザインやアートを鑑賞するときに、気にしていなくても「直観的に“何か”を感じる」というのがあります。その“何か”という感覚は、あるときは「同一性」だったり、またある時には「わずかな異質性」だったりするのですが、今回は「ピックガードの異質性」のお話です。展示会やギターショーで、同年代の同一モデルのヴィンテージ・ギブソンの中に、一台だけピックガードが交換された個体が混ざっていると、「あれ?」と、その微妙な差に気づく感覚、ありますよね。
自分自身の反省を含めて、手元にある70年代から80年代にかけてのフライングVを6本見てみましょう。ピックガードに注目してください。
74年 メダリオン・チューンナップ
74年をメダリオンにチューンナップしている個体です。パーツもすべて70年代のはずでしたが、よく見るとピックガードが違っています。80年代に流行った「ピックアップリング搭載」の後遺症として、ネジ穴を埋めたり、こうしてピックガード本体を交換している場合があります。
3PLYの3mmですね。正面から見てエッジが太く見えないように、角度を少し立ててカットされている拘りなので、あまり違和感がありません。ただ、3PLYは一番下が「白」ですから、やはりどことなく厚みを感じます。
ロッドカバーは4PLYでスリムに見えますね。
シャモジヘッドの80年代
シャモジヘッドの80年代で、ピックガードのシェイプは、すでに「ブリッジ右のアールが緩やか」なアーチに移行しています。
このピックガードは、WDでカスタムオーダーで作成してもらったので形状はバッチリですが、“直観的に”ピックガードが大きく見えませんか? とくにこの個体はボディカラーがブラックなので、「3PLYの3層目=ホワイト」がボディと接しており、その分「膨張感」が否めません。
さらに「ネジが大きい」のも気になります。入手した当時は、ピックガードに「エスカッションの留めネジの跡」と「ミニスイッチの穴」が空いていたので、気合を入れて交換した覚えがありますが、今となっては「元のピックガードとネジはどうした?」と当時の自分自身を叱責したい気分になります。
ロッドカバーはクローズドオーの4PLYで、これもスリムです。ネジに注目しましょう。これがシャモジヘッドVのオリジナルスペックです。
75年(ピックガード交換)
さて、この75年は、さすがにフルオリジナルだと思っていたのですが…ピックガードを交換していました。「元のピックガードはどうした?」と、再度自問自答する姿が、まさにデジャヴです(泣)
ブリッジポスト用の穴は、ABR-1搭載モデルでも大き目の加工がされている個体がありますが、この75年モデルの場合は、本来はポスト径とほぼ同じ、「小さな穴」がオリジナルのはずです。
遠目に見ても「あれ?」と直感的に感じる異質感は、この「とんがり」に注目すると一目瞭然で、気になりだすと居てもたってもおれません。
シャモジヘッドの80年代(フルオリジナル)
こちらは、おなじナチュラルセンター2ピースですが、シャモジヘッドの80年代です。買ってからずっと持っているので、フルオリジナル。
スリムなピックガード、カッコいいですね。ネジ頭も、コンパクトでおさまりが良い。
では、どれぐらい印象が違うか、前述の個体と比較してみましょう。
3PLYは約3mm厚でした。4PLYは2mmです。一番下が黒ですから、初見では「W/B/W」の3PLY=1.5mmに見えなくもない。これが「スリム」に見えるポイントです。とくにボディがブラックの場合は、1.5mmの3PLYに見えますね。
クローズドオーの4PLYロッドカバーと「デベソのスクリュー」が醸し出す80年代特有のヘッドストックデザインは、以降も復刻されていません。
レストアという探求
ギブソン社は、2mm(実際は0.09インチ)厚のフライングV用ピックガードを、90年代も搭載していますので、ネジ穴さえ合えば流用できるのですが、残念なことに、それぞれのネジ位置が若干異なり、そのままではヴィンテージに搭載できません。アフターマーケットでは「B/W/B/W」の4PLY 2mmのブランクシートを入手することが困難(2021年現在)で、なかなか作成することもままならないので、フライングVコレクターの泣き所なのです。
という愚痴をこぼしていたら、ドイツの友人が「虎の子の2mm在庫」を譲ってくれました。
この画像の6本のVのうち、オリジナルのピックガードを搭載している個体は2本です。それから型をとって作ってもらったのが、これ。エイジド具合も完璧です。
裏から見たときのブラック層が、むちゃくちゃ嬉しい。一番左がオリジナル。エスカッションとミニスイッチの穴を綺麗に埋めてくださいました。
面積の大きなフライングVの、小さな違和感ですが、「直観的に気になる」事を、すこしずつ排除してオリジナルなヴィンテージテイストを求めていく工程は、なにか「レストアという言葉」が含蓄する探求の道程にも思え、細かなテクスチャーまで再現してくださるレストーラーの熱意に感謝する日々です。
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