GibsonのスケールとES-350 (前編)

チャック・ベリーの愛器としても知られる「ES-350T」は、初代と復刻版でスケールが異なります。ES-350特集の前編では、ギブソンのカタログを見ながらスケールの変遷を見ていきます。

チャック・ベリーのES-350T

ナショナルジオグラフィックの特集「未来へ伝えるアフリカ系米国人の足跡」(2016年10月号)に、チャック・ベリーの愛器「ES-350T」が、美しいカラー写真で掲載されていました。

本体もブラウンケースもパーツも、すべてが極上のコンディションです。フロント・リアともにPAFハムバッカー・ピックアップを搭載し、ロックンロールの名曲を生み出した名器は、ご本人から博物館に寄贈され、いまでは「鑑賞」の対象として歴史の証人となっています。

手元に70年代のES-350Tがあるので、この機会に初代と比較してみましょう。

スケールが異なるES-350T

そもそも、「70年代に復刻されたES-350T」は、モデル名こそ同じですが、ギターとして根本的なスペックである「スケール」が違っているため、筆者としては「なぜギブソンは、再発売に際してスケールを変更してまで、同じモデル名を踏襲したのか」が、永遠の謎です。

当時のカタログ写真を見てください。

この段階で「あれれ? おや?」と感じた人は、観察力が鋭いです。ナットからネックの12Fの位置を見ると、ES-350Tは横のES-295と比べて、なんとなく「短い」印象を受けますね。スペックでは、ES-350Tが23-1/2インチで22F、ES-295が24-3/4インチで20Fとなっています。ギブソンで23-1/2インチを採用しているモデルといえば、Byrdlandがそうです。60年代のカタログでは両モデルが横に並んでいるので、スケールの短さに違和感がないですね。

余談なのですが、ギターのスケールを計測するときは、ナットから12Fまでを測って2倍するとわかりやすいです。ナットからブリッジサドルまでをそのまま測ると、サドルの位置は1弦から6弦まで、段々なので正確なスケールがわかりにくくなります。

一般に、ギブソンのカタログを見ると、多くのモデルの仕様に「24-3/4インチ」と表記されています。

この段階で、良く読んでくれている人は「おや…?」となるわけです。この77年のカタログに記載されているES-350T復刻版は、スケールが「25-1/2インチ」になっていますね。オリジナルの「23-1/2インチ」でも「24-3/4インチ」でもありません。「25-1/2インチ」って、もともとの初代から2インチも伸びています。これで同じモデルの復刻って謳っていて、買った人は大丈夫だったんでしょうか。「チャック・ベリーのギターと、なんか違うぞ…」って。わかりやすいのが次のカタログです。明らかにES-175よりもスケールが長いです。

具体的に何かを意図してスケールを変更したのであれば、商品説明に「50年代のES-350を復刻しましたが、訳あってネックが2インチ長くなってます。350っぽくなくて弾きやすいです」的なリマインドが欲しいですよ(笑)

ざっくばらんに「24-3/4インチ」と言われることの多いギブソンのスケールですが、要約すると、時代ごとにこんな変遷だと思います。詳しい方がおられましたら、ぜひコメントください。

~ 1954 「24-3/4インチ」
~ 1959 「24-9/16インチ」
~ 1969 「24-5/8インチ」
~ xxxx 「24-9/16インチ」(カラマズー・ナッシュビル)
1992~ 「24-5/8インチ」(モンタナ)

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