カラマズーの冶具 Part 2 - ギターが作られた曜日と品質の関係

カラマズーの治具シリーズ第2回は、ネックを中心にご紹介。手作業の個体差が大きそうな年代は、シリアルナンバーからギターが作られた曜日を割り出すと、その個体の品質が推察できるかも?

製作途中のネック

VM前回の カラマズーの冶具 Part 1では、あまったり廃棄になったボディやネックは「カットアウトされた」というお話がありましたが、このネックは完璧な状態ですよね。

FVそうだね。製作途中だから、まだロッドの穴も開いてなくて、工程を推察するのに参考になる。

VM後年は、突き板のロッド調整部分が、あらかじめ△に加工されていますから、どこかの段階で作業手順が変わるんですね。

FV例えば、Dave Johnsonのリチューニングは、突き板のロッド穴を先に加工してから取り付けるから、エッジがヴィンテージっぽくないって、本人が言ってたよ。

手間のかかるバインディング

VMネックのバインディングは、あらかじめ背の高い状態で取り付けて、あとから丁寧に指板に合わせて不要な部分を削るんですね。

FV全体から見ると、削る部分の方が圧倒的に多くて、すごい手間だし、リフレットの時にも手間暇がかかる。なんでこんな手のかかるスペックにしたんだろうね。

FVいまでもバインディングのあるモデルを見ると、フレットのエッジはバインディングの内側にある。まあ、指に当たらないとか、いろんな配慮があったんだろうね。

ギターが作られた曜日と品質の関係

VM製作途中に、たくさん鉛筆でマーキングがしてありますね。

FVこのあたりは、工場のライン生産品でも、まだまだ「人の手」が介在する作業が多かったんだろう。 60年代後半のSGで、ヴァイブローラの取り付けが「センターズレ」している個体とかを見ると納得できるね。

VMネックグリップというかシェイプも、「59が好き」とか「60はスリム」という表現がありますけど、この削り方を見ると、手作業の個体差が大きそうですよ。

FVフィーリングでやってるよね、概ね。たぶん同じ作業者でも「月曜日」と「金曜日」で仕上がりのシェイプが違うんじゃないの?

VMあ、学校の授業で昔聞いたことがあります。70年代のアメリカでは、「月曜日と金曜日に生産されたクルマには故障が多い」から買うなとか。

FVはははは。まあ、そんな話はあったね、都市伝説的に。週明けと週末前は、気もそぞろになるんだろ。金曜の夜は、デートとか飲み会とか、マリファナやるとか。

VM問題発言です、撤回してください(笑) ギブソンのシリアルナンバーは、1975年以降2005年までの8桁シリアルに関しては「YDDDYNNN(年日日日年番番番)」だから、そのギターが何曜日に作られたか、一目瞭然ですね。

FVお、渋いところを突いてくるね。たしかに、この「71509601」は、79年の150日目にナッシュビル工場でつくられた102本目のギターということになるね。

VMしつもーん! 教えてください。150日目って、暦の150ですか、工場稼働日の150ですか?

FV土日休みだったら、年間の稼働日はおおよそ220日前後(日本の場合)だけど、当時のナッシュビル工場が土曜日に半ドンだったら、年間稼働はもっと多いから200番台後半も存在するってことだね。

VMでしょ? 「その年の何日目か」と「その年の工場稼働日の何日目か」によって曜日がずれますね。そこまで考えたことなかったなあ。

FV北米の多くのサイトが「The day of the year」って表現しているから、「その年の何日目」ってことでいいんじゃないかな?

VMじゃあ、このThe SGは、ナッシュビル工場で150日目の5月30日に作られたってことですよね?

FVカレンダーを見ると、1979年の5月30日は水曜日だから「週半ばの生産で、品質は良いんだろう」みたいな…。

VMそんなこと考えながら店頭でギター選ぶ人いないですよね(笑)

FVでもまあ、例えばシリアルが「71489501」だったら、「お、月曜日(148日目)の朝イチ1本目(501)だから、なんとなく「もやもやした感じが否めない」みたいな(笑)

VMそういえば1979年って、ソニーがウォークマンを発売した年ですね。その時のギターが、いまだに何不自由無く現役でデザインも変わってないって、脅威です。

FVギブソンやフェンダー、マーチンのギター全般にいえる完成度だよね。

VMちょっと話が横道にそれてしまって、すみません。

FV鉛筆のマーキングだったよね。

レスポール・ボディを分析

VMこのレスポール・ボディは何年頃でしょう。

FVレスポール68の冶具とセットだったから、その前後かなあ。ジョイントが浅いね。

VMたしかに。カッタウェイのバインディングを見ると太いです。

FVあ、ほんとだ。よく見てるね。さすが、68GTコレクター(笑) こうした部材からも、いろんな情報を分析できて興味深いよ。ボディがパンケーキじゃないから、71年以降でもなさそうだ。

VMマホガニーも、まさに60年代ぐらいまでの綺麗な木目です。これを使って68GTを1本だけ復刻してほしいなあ。

FV夢は広がるね~。

ヒスコレのプロモーションツール

VMPart 2の最後になりますけど、せっかく68GTの冶具を紹介できたので、ヒスコレのボディも解説をお願いします。

FVこれはRoadwornといって、ギブソンがヒストリックコレクションのトラック・キャラバンを全米で展開したときの、塗装見本的なプロモーションツールだね。

VMレスポール本体から切り取ったまんまのサンプルですね。

FVなにがしかの不具合があったギターをカットしたんだろうけど、大胆だよね(笑)

VMネックつけたまま、ぶった切ったんでしょうね。

FVキャビティやルーティングの跡までしっかり残ってるけど、まあ、これは工場の工程を想定する参考にはあまりならないね。

VMでも、もったいないですよねえ、木材の浪費です。キズモノ・アウトレット品として、昔みたいに「2」「SECOND」として提供してくれればいいのに。

FVヒスコレがバンバン売れて、調子がいい時代のCustom Shop Divisionだからできたんだろう。こうしたリジェクト品も、ナッシュビル工場のチャリティでは、時々社員むけに安価で提供されていたんだね。部屋のオブジェとしては「正真正銘のギブソンだからCoolだぜ」って。

 次に読むなら

カラマズーの冶具 Part 1 - 1968年のレスポール
全4回でお届けする「カラマズーの治具」シリーズの第1回は、68年のレスポール・ゴールドトップの治具をご紹介。普段は見る機会がないレアなアイテムをじっくりとご覧ください。

掲載されている文章および画像の無断転載・引用(ソーシャルボタンは除く)は固くお断わりいたします。

 Vintage Maniacs Shopのおすすめアイテム

Vintage Maniacs Magazine Vol. 1

Vintage Maniacsのブログに著者コメントを追記し、編集・再構成した「Vintage Maniacs Magazine」。全ページフルカラー仕様で、資料としてもオススメです。Vintage Maniacsが切り込むディープでマニアックなヴィンテージギターの世界をお楽しみください。

ショップで見る
Vintage Maniacs 公式Webショップ