ギブソンのスタッドボルト - 長さだけじゃないスペックの違い

弦の振動をボディに伝える大切な役割を担うのは「スタッドボルト + アンカー」のコンビと「ABR-1ポスト + ソーサー」のコンビです。今回はその中でも長い間スペックや形状についてあまり気にされずに取り扱われてきた、スタッドボルトを年代別に見ていきたいと思います。

弦の振動をボディに伝える大切な役割を担うのは「スタッドボルト + アンカー」のコンビと「ABR-1ポスト + ソーサー」のコンビです。今回はその中でも長い間スペックや形状についてあまり気にされずに取り扱われてきた、スタッドボルトを年代別に見ていきたいと思います。

ロングとショート、スタッドボルトの長さの違い

次の画像はすべてギブソン社の純正スタッドボルトですが、サイドビューでも、テールピースのフックが引っかかる部分の厚みやネジ切りエンドの処理などで十分に年代ごとの識別が可能です。

もともとヴィンテージファン以外の間で「59年のスタッドボルトは長いらしい」といわれ始めたのは、Dead Mint Club(DMC)が1999年に発売したスタッドボルト「Iron Claw」にヴィンテージサイズとヒスコレサイズがラインナップされた時期からでしょう。岩撫安彦氏は80年代初期の雑誌連載記事で「60年代にスタッドボルトは長さの短いものに…」と記載していましたし、George Gruhnも北米のギターショー(1990年のアーリントン・ギターショー)で「60年初期のメロディーメーカーのスタッドボルトはSGシェイプのメロディーメーカーにはつかない」とスピーチしていましたから、一般的にはヒストリックコレクションのスタッドが短かったことによって認知が進んだという印象です。

一方で「59年のスタッドボルトは長いが55年のスタッドボルトは短い」ということはあまり知られていないようですので、まずはその3種類を比較してみました。

左:55年のショート/中:59年のロング/右:65年頃のショート

一番左は55年のゴールドトップ(コンビネーション)に搭載されていたショート・スタッドボルトです。溝の数は16本あります。真ん中は59年のロングで溝の数は21本。右側は65年頃から採用されるショートで溝が18本ですから、この中では55年のタイプが最も短いことになります。ただし55年のボディにロング・スタッドボルトは装着可能ですが65年のSGスペシャルにロングは入らず、首の部分が少しボディからせり出してしまいます。つまりアンカーの深さに違いがあるのです。浅いアンカーが搭載されているギターの場合、そのままではロングスタッドは入りませんので、サスティーンを求める方は改造するときにアンカーを一度抜いて加工してから再度ロングスタッドを搭載することになります。ボディの内部までスタッドが入り込む効果は、サスティーンのみでなく音色にもヴィンテージライクな影響を及ぼす大切なポイントですね。

「ぐりぐりマーク」と「へそ」

次にボトムのツールマークを見てみます。この「ぐりぐりマーク」はヴィンテージと復刻品を区別するのにも役立ちます。現在の切削機械ではネジ切りのボルト底面にこうしたマーキングを残すためには、加工工程で作業を増やさなければいけませんので、量産品では難しいようです。

さらに底面を比較すると右側の個体には「へそ」が見えます。実はニッケルのショートにも2タイプあって「へそ」が出ているものと引っこんでいるものでは年代が異なります。

サイドから見ると、この2本のショートボルトが異なった加工工程であることがわかります。ネジ切りの余りが一周残っているのが70年代に登場するクロームで、80年代に復刻するレスポールに搭載されたニッケルパーツのニューバージョンも同じです。

スタッドボルトのネジ頭の溝

スタッドボルトは鉄でできていますので磁石がくっつきます。ヴィンテージギターは不用意な取り扱いでネジ頭がつぶれたスタッドボルトを交換している場合があります。80年代に流行したリプレイスメントパーツメーカーの製品にはブラスを使ったスタッドもあります。気になるようであれば「材質」「頭とボトムの形状」「溝の数」などをチェックしてみましょう。

ギターに搭載した状態でギタリストに見えるのはスタッドボルトのネジ頭です。

溝の切り方・深さには年代ごとの大きな変化はありません。溝の深さは中心部から周囲にいくにつれて浅くなっています。

コピー製品や他社品では、スライドさせる切削工程によりマイナス溝の深さが一定になっているものが多くあります。マニアの方はスタッドボルトを上下させるのに工具がなくてコインを使った経験があるかと思いますが、ヴィンテージの場合はコインがうまくフィットしてかみ合います。

コピー製品だと深くフィットせず、ネジ頭を壊してしまいます。

予断ですが小さいコインだとかみ合わせが浅く使い勝手が悪いです。


スタッドボルトを受けるアンカーはボディから抜いた状態で見ることが少ないので、あまり馴染みがないパーツです。

横から見たアンカーです。

最後になりましたが、年代別のバージョンを並べてみました。

ショートのニッケルメッキ以降はメッキ自体がクロームに変わるので、基本的にクロームはショートとなります。しかし例外好きのギブソンらしく、70年代には一部にクロームメッキのロングが搭載されているLimited Versionのモデルがあります。余っていたパーツの有効活用だったのでしょうか。レスポールがメロディーメーカーなどに移行し「ボディが薄くなったからスタッドボルトも短くなった」と考えるのは短絡的でしょう。

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