Gibsonのトレモロユニット SG編
ギブソンのSGシリーズに搭載されたトレモロユニットにはいろいろなタイプがあります。美しいデザインのマエストロ・ヴァイブローラなど、ヴィンテージを中心に見てきましょう。
目次
SGシリーズは、ギブソンの数あるソリッドボディーモデルのなかで、唯一60年代の発売から今日までディスコンされたことのないモデルです。ある意味、レスポール・モデルよりも販売台数、バリエーション、ユーティリティーにおいてポピュラリティーが高いということでしょう。
一方で、そのスペックはJr、Special、Standard、Customぐらいまでは良かったのですが、70年代になると、DeluxeやPro、Melody Maker後継機としてのSG-I、II、IIIなど迷走しはじめ、The SGやSGWalnutに代表されるキワモノをいれると、収集しきれない数となり、コレクター泣かせです。
しかし、コンターの施されたシャープでエッジの効いたボディーラインは、アマチュアからプロまで幅広く支持されており、ソリッドボディー・ギターの代表格として、あらゆる種類のトレモロ・ユニットが搭載され、多様なニーズにこたえてきました。ここでは、ヒストリック・コレクションで劇的な復刻を遂げた「マエストロ・ヴァイブローラ・ユニット」をヴィンテージ中心に見ていきましょう。
ご存知のとおり、SGLPの初期に搭載された「サイドウエイアーム」は、そのメンテナンスの難しさと重さが不評で、すぐにスリムな「マエストロ・ヴァイブローラ・ユニット」に変更されます。マエストロ・ユニットは、デザインの美しさと緩やかなビブラートで、とたんに人気を博し、Firebird Medallionまでの間、ギブソンのソリッド・ギターに華を添えています。
トレモロ・ユニットを大きく分けると、その形状には3種類が存在します。
ショートヴァイブローラ
ショートヴァイブローラには、ニッケルとクロームがあります。稀にゴールドをみることもありますが、これは非常にレアです。ボディーにねじ止めされるベースの部分は、フラットなものと盛りあがったものの2種類があります。搭載されたギターは、SGジュニア、SGスペシャル、ファイアーバードIII、フライングV67、メロディーメーカーです。近年ではLimited EditionのExplorerにも搭載されました。
エボニーブロック
ヴィンテージ・コレクターの間で人気の、ショートライブローラのベースに、白蝶貝のクラウンインレイが施された豪華なユニットです。フラットなタイプのハンドルが付いている場合が多いです。
ロングヴァイブローラ
ニッケルとクロームがあります。ベース部分とカバーは、小さなスクリュー4本で止められています。SGスタンダード、SGカスタム、ファイアーバードV、ファイアーバードVII、ES-345/355に搭載されました。
SGオーナーやファイアーバード・ユーザーに人気が高いロングヴァイブローラですが、実際に搭載されていた期間は、1963~1972年までの約10年間で、それ以降は、レフトオーバーパーツが、80年代にGuitar TraderやJimmy WallesのLimited Firebirdに搭載された以外は見ることができませんでした。
ロングヴァイブローラのユニットも、音程を変える機構的には、ショートヴァイブローラと変わりません。ストリング・リテイナーを、湾曲させたプレートにスライドさせるだけなので、弦を緩めるとリテイナーごとずれてしまいます。
湾曲させたプレートの反発力を使って、バネのように音程を変えます。
ベースプレートは、ショート・ヴァイブローラがネジ3本に対してロングは2本でボディに固定されています。ロングの場合、そこから長く伸びた棒はコの字に曲げられていて、その先端にもう1枚のベースプレートが取り付けられています。こちらは、ペグに用いられているのと同じぐらいの小さめのスクリュー4本で本体にとめられています。
実はテール部分は可動式になっていて90度角度を変えることができます。この機構により、セミアコのESシリーズにも搭載することができました。すばらしいアイデアです。ES-335に搭載されたゴールドのロング・ヴァイブローラはブルースファン垂涎のルックスですね。
カバーには、ハープのデザインとGibsonのロゴが刻印されており、この絵柄がもとで、ロング・ヴァイブローラは「Lyre Vibrola」とも呼ばれています。
昔、筆者が中学生だった1973年頃には、すでにGibsonのSGはヴァイブローラ搭載モデルは無く、ストップテールピースに移行しており、GrecoやFernandes(Burny)のコピーモデルに搭載された、ロング・ヴァイブローラが羨ましくも眩しかった記憶があります。どうしてもトレモロ・ユニットが欲しかったので、当時ロッコーマン元町店におられた中村さん(故トーラスコーポレーション社長)に無理をいって、ビグスビー搭載のSG Standard-Bを輸入してもらいました。画像の一番手前左側のSGです。
さて、台形で豪華なカバー本体は、サイドにあるねじ穴4箇所で本体にとめられていますが、このねじが脱落して、カバーが浮いているケースもめずらしくありません。ねじ単体での販売がなかなか無いので、コレクター泣かせのパーツです。また、アーム部分のねじにはプラスとマイナスの2種類がありますが、これも脱落しているものが結構あり、交換パーツを探すと苦労します。
Gibsonは、ヒストリックコレクションのファイアーバードでロング・ヴァイブローラ(ニッケル)を復刻し、その後、通常モデルにも一時クロームバージョンを搭載していました。以降もSGに継続して搭載しているので(ヒスコレのSGスタンダードにはヴァイブローラを搭載したモデルとストップテールピースのモデルがあります)、往年のファンにはうれしい復活ですね。また、ショート・ヴァイブローラもヒストリックコレクションのフライングV67やファイアーバードで復刻されています。
ハンドルひとつ取ってみても、非常に凝ったラインで構成されています。これらの美しいアールデコ調デザインは、60年代のオートモービルに多様されたアナログ曲線のインダストリアル・デザインにも通じており、ギブソンのギターに欠かせないノーブルなエッセンスだといえるでしょう。
最後に、SGシリーズ・ファンとしては、忘れられないトレモロ・ユニットとして、ビグスビーを写真でご紹介しておきましょう。ワイドピックガードのビグスビーはめずらしいですね。ヒストリックコレクションや限定モデルでも復刻されているので、店頭で見つけたら、ぜひ試奏して、そのおおらかでブルージーなビブラート・サウンドを体験してみてください。
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