記念すべき500台目のレストレーション
ハードケースによくある「ステッチ切れ」の修理方法と道具をご紹介。放っておくとバインディングが浮いて悪化してしまうので、自分でステッチを縫ってレストアします。縫い方も工程写真と図で解説!
目次
ギターケース修理の工程紹介
VM (Vintage Maniacs)コンディション良さそうですね、70年代のハードケースとお見受けしました。
FV (Fukazawa Vintage Club)一生懸命レストアしたからね。見違えるようになったよ。
VMえっ? これ修理のあとなんですか?
FVちょうど、累計で500台目のリペアになったんで、記念に「工程」を撮影したんだ。紹介するよ。
VM500台って……、いつ修理してるんですか、よく時間ありますよね?
FVだって、16歳のころから30年だから、年間15台くらいさ。
VMその歳になってまで年齢詐称しないでください、もう!(怒) こないだインタビューで「還暦だ~、ちくしょお~!」って騒いでたじゃないですか。
FVまあ、要するにだな、お正月とかお盆、GWには、まとめて3~4台のケースを修理しているので、年間10台以上はいじってるね。中には、外側のビニールを全部はずして木部もリペアしたり。軽度なのは、ハンドルの取り換えだけとかね。
VMよく数えてますよね。
FV自分が修理したハードケースは、ちゃんと写真撮って、どこをどう直したか記録してるから。
VMみなさん、FVさんって、ギターの手入れをしないわりに、ケースへの執着がハンパないんですよ。
FVははははは、そうだね。じゃあ、リペアする前の状態を見ておこうか。
ステッチレストアの縫い方と道具
VMあっちゃー、これってよくある「ステッチ切れ」ですね。バインディングが浮いてる。このまま使っていると、バインディングがアチコチ折れて無くなっちゃったり、どんどん悪化しますよ。
FVだろ?
VMところで、ハードケースのステッチって特殊ですよね。
FVよく観察しているね。特殊も特殊、裏糸と表糸を使うのではなくて、1本なんだよ。ほどくと、こうなる。
VM表側に糸は1本しか出なくて、裏側はループで輪っかになっていますね。
FVこの、表に回ってくる「2本に見える糸」は、1本が裏側でループして、表に出てくるときはひとつの穴に糸2本だけど、前後に分かれているので、縫い目として見えるのは結局1本なのさ。
VMでは、レストアにつかった道具の紹介です。凧糸は「Gibson」ってスタンプがありますが…。
FVあ、これね。ギブソンのハードケースと同じ番手の「凧糸」をアメリカのホームセンターで見つけてさ。ずっと長年愛用している。ほかのハードケースの糸と間違わないようにスタンプで識別しているだけで、「ギブソン社純正凧糸(笑)」ってわけじゃない。
VMなーんだ、そうだったんですね。あと、針とか指貫とか。
FV「指貫」なんて道具、良く知ってたな。
VM『不思議の国のアリス』で、贈り物にされてましたよね。英語でThinbleって言いますよ。
FV「Thimble」だよ。ちゃんと発音で覚えないから、君は「M」と「N」を間違うんだ。
VMTOEICに出ないからなあ…(笑) クリスマスプリン(プディング)に入れて焼いて、指貫が入ったプリンを食べた人には幸運が訪れるって、聞いたことあります。
FVあと、おなじみのボンド。日本製の木工ボンドの方が、硬化に少し時間がかかるぶん作業しやすい。
VMところで、さっきの「一本糸でのループ縫い」ですけど、ちょっとわかりにくいんで……。
FV絵に描いてみようか。
古い糸を外してボンドを塗布
FVこれでも、まだ解りにくいと思うので、実際の作業をコマ送りっぽく見てよ。
VMとりあえず古い糸を全部はずして綺麗にしてから、バインディングの裏に、念のためボンドを入れています。
FVまあ、そこまでしなくても、ヴィンテージ・ハードケースをガンガン輸配送に使うって場面は、これからはあまりないだろうから…と思いつつ、まあ昔からの自分なりの手順でね。
ステッチ縫いと隠し技
VMさて、ここからがステッチです。
VMむっちゃ丁寧に縫ってますね。
FVちょっと隠し技なんだけど、蓋と本体を繋げるベロが取れやすいだろ? なので、ここも縫っておいた。オリジナルはホッチキス留めなので、使っているうちに外れてくる。
VMむちゃくちゃ嬉しいっすよ、これは。
FVまあ、ライニングを戻すと隠れてしまう部分なんだけど、せっかくのレストアだから末永く…ね。
VM使ったのは、凧糸と針とボンドだけ。シンプルなだけに、根気のいる作業を見せていただきました。
FVいつも使っている布団ばさみで、接着したライニングを1時間ほど押さえて出来上がり。
FVつづいて、ヘッドストック側も同じ作業を繰り返して縫います。
FVアーチがきついので、クランプで止めることにしました。
糸を着色して完成
VM仕上げは、他の部分の糸と色合いをそろえるために着色するんですね。
VM実作業として、トータルで何時間かけたんですか?
FVそうね、撮影しながら5.5時間だから、レストア作業だけなら4時間ぐらいかな。
VMこうしてならべて見ると、ヴィンテージの雰囲気がギターを引き立てますね。
VMお、アッパーリンクオーのGTかあ。
FVいや、そこじゃなくて、ケースの蓋のフチに注目してよ。せっかくレストアしたんだから。
VM今回のレストレーションは、とくに複雑な工具や材料は必要ないので、ぜひみなさんもステッチの切れたヴィンテージ・ハードケースのリペアにチャレンジしてみてくださいね。
FV今回はハンドルの修理は出番なしね。残念(笑)
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