モノによる記憶の解凍 - HeritageとVintage
60年代生まれにとってギターは憧れの対象だった。カタログを眺めながら「いつか手に入れる」と夢見ていたものである。今回は80年代初期の日本ギブソンのカタログを見ながら、ギターコレクターとして「モノによる記憶の解凍」について考えてみようと思う。
目次
80年代初期の日本ギブソンのカタログ
ここに80年代初期の日本ギブソンが発行したポスターカタログがある。当時はこのように「広げるとポスター」になる折り畳み式のカタログが流行した。これも三つ折りではあるけれど随分とカッコよく貴重で、いまでも時々引っ張り出しては眺めている。
コリーナのトリオを見ると、手に入れたお店やその日の帰り道、3本そろったときのうれしさ、テニスコートで撮影した日曜日、アメリカの雑誌に紹介されたことなど、モノを通してその時々の鮮明な記憶がよみがえってくる。つくづく「男ってのはモノによって自分の過去を反芻する、ノスタルジックなイキモノ」だと思う。
モノが記憶を解凍するトリガーになる
脳科学研究家の黒川伊保子さんは、著書で「男性というイキモノ、つまり男性脳の特性は、好奇心・探求心、空間認識力と複雑な図面、死ぬまで頑張れる、ブレが無い、客観性ある指示系統、マニアックな機能性、うんちくに反応するもの」と説明している。ならば、ヴィンテージギターのコレクターに女性がほとんどいないのは、彼女達にとって「モノがそれほど自分の過去の記憶を解凍するトリガーになっていない」ということかもしれない。
余談だが、女性脳は「察しの良さ、臨機応変、イモヅル式の知恵、経緯をながながと話す」という特徴をもっているそうで、たしかに会話していても「ながながと経緯ばかり話して結論が見えない」事が多い。つい「で、何が言いたいの?」と口を挟みがちだ。とたんに「まだ話終わってないのよ、最後まで聞いてよ!き~~~っ」と致命的な口喧嘩に発展する。取扱説明書が欲しいくらい危険な生き物だ。そんな経験をお持ちではないか?
彼女たちはモノにお金を浪費することは好きでも、機能や材質、本質的価値には興味がないから、男性陣が趣味のギターについて、いくら長々と必要性や希少性、価値や蘊蓄を語ろうとも、「一度に何本もギター弾けるわけじゃないのに、なんでこんなに沢山買うの?」とケンモホロロだ。自分のブランドバッグや靴はさておき、である。
憧れのGibsonギター
サンダーバード2号の模型がおいそれと買ってもらえなかった60年代生まれにとってはギターこそ高嶺の花で、カタログを眺めながら「手に入れる、いつの日か」を夢見て憧れたものである。80年代の「59 Vintage」は、メイプルネックを搭載した重量感ある70年代のレスポールに違和感をとなえていた日本ギブソンの数名のスタッフにより復刻された、今日のヒストリックコレクションにもつながるターニングポイントである。故にカタログやポスター、販促品にも力が入っていた。私自身この時代のギブソンロゴは大好きで、70年代から80年代に飛翔する同社のアイコンでもある。
このカタログは当時日本ギブソン名古屋本社営業部門に勤務していた社員の黒田さんからいただいたもので、同社の住所まで印刷してあるのがうれしい。
久しぶりのトラ目復刻なので、ジャズギターのバックに採用されるような細いピンストライプが「AAA」として掲出されている。
このカタログの「アフリカンコリーナのオリジナル、3本そろい踏み」というジャスコのチラシみたいなキャッチコピーに胸踊らされ、がんばってがんばって、まずはモダーンを手に入れた。続き番号で3本買えたのは、MGMの大西さんのおかげである。この「トリオ」が当時「3機種とも49万円であった」と間違って記憶していた私は、あらためて本カタログによって「記憶がいかに都合よく誤解されているか」を再認識したのであった。
49万円だったのはモダーンだけで、フライングVとエクスプローラーは468,000円。このわずか22,000円の違いは何を意味するのだろうか。
よく見るとカタログスペックには、エクスプローラーも2ピースと記載がある。しかし実物は明らかに3ピースであったから、現在ならネットでやり玉にあがりそうな失態ではないか。
赤いフライングVと白いエクスプローラー
「モノによる記憶の解凍」という意味では、こうしたカタログを見ながら憧れたギターを倉庫から引っ張り出してくるたびに、随分前になってしまった青春の群像が脳裏に浮かんでは消えるのである。ヴィンテージシリーズ復刻に気をよくしたギブソンUSAは店頭プロモーションに力を入れるべく、北米地図を切り抜いたようなデモ展示用ギター「Map Model」を製作し、主要ディーラーやショップに陳列させた。それがカタログにもよく反映されていて、ヘリテージシリーズを告知しながらも表紙はなんら縁もゆかりもないマップギターという、ちぐはぐな力の入れようではないか。
エクスプローラーがアルペンホワイト、フライングVがメタリックレッドという、おおよそ「リンバウッドの美しい木目と色」をアピールしていない写真もいかがなものか…と思いつつ、カタログモデルが欲しくて北米のギターショーを駆け回った日々。
結局は、みなさんの頭蓋骨に内蔵された男性脳は、マニアックな好奇心を蘊蓄や客観的数字で満たしながら、ヴィンテージギターを家人から隠す術を日々模索しているのではないだろうか。
30th Anniversary Gold Topの謎
最後に、長年の疑問なのだが「Les Paul Gold Top 30th Anniversary」のヘッドロゴは、アッパーリンクオーなのだろうか、クローズドのスクエアロゴなのだろうか。2つのカタログが示す疑問が長年解決できずにいるのだ。
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