俺スキ - Japanese guitars were eating Fender’s lunch 後編
コンペティターとの熾烈な競争にさらされた70年代のFender社で立ち上がった四人の若者が送り出した刺客「Bullet☆1」。前編に引き続きクローズアップでご紹介しつつ、70年代後期のミュージックマスター・ベースも見ていきます。
フェンダー社もギブソン社も、60年代から「学生でも手に取りやすい、手頃な価格のギターとベース」を、品質を落とさずに供給してきました。高価格帯モデルと遜色のないクオリティーを誇るメロディーメーカーやミュージックマスター、つまりエントリーモデルで育った若者達も、やがて音楽が自分の人生の一部であることに気づくと、ギターの本数は年々増えていき、上位モデルであるSGやLP、ストラトやテレキャスターを手にしたりして、生涯の友を増やして過ごしてきたのでしょう。
私は、メロディーメーカーが大好きです。作り手の、「このギターを手に取った少年少女が、ずっとギターを弾き続けてくれますように」という願いが、手に取って感じられるからです。ムスタングも同じです。店頭で試奏したレスポールが欲しかったけど、付き添ってくれた母の顔色をみながら買ってもらったサンバーストのメロディーメーカー。いつもいつまでも部屋の片隅で、自分と一緒に成長してくれたような愛着があります。
前編で、フェンダー社はジョン・ペイジのアイデアを投入し「フェンダーをコテンパにやっつけた(Eating Fender’s Lunch)日本メーカーに対抗すべく、廉価盤Bulletを企画・投入した」というVintage Guitar Magazineの記事を紹介しました。確かにそうなのですが、私は、すこし違った見方もしています。日本メーカーのギターが北米で受け入れられたのは、品質と価格が競合他社に勝っていたからです。ですから、フェンダー社は、Bulletが「廉価と同時に高品質」にする必要がありました。ヴィンテージ・シリーズで古き良き時代のスペックと品質を復刻することを目指しながらも、同じ工場で同じクオリティーで、適正価格なエントリーモデルを作る。これは、高級モデルをゴージャスに2万ドルで企画するよりも難易度が高かったでしょう。とくに、Bullet☆1は、パーツにも妥協しておらず、「Made in USAで、よくこれをこの価格で作れたな」と感嘆せざるを得ません。
そうした「アイデアに溢れ、志の高い」連中が集った80年代は、フェンダー社が息を吹き返した、まさにターニングポイントでした。楽器店の店主は、自分が仕入れたUSA製Fenderのニューラインナップに、みんなが店頭で「ワオ!!」と驚くのを眺めて、さぞかし嬉しかったでしょう。
で、私のベースです。楽器との出会いは不思議なもので「探すとなかなか出会えないが、ぶらっと歩いていると、店頭に掛かっていた」という経験、ありませんか? 最近は高級ブランドの時計を探して歩く様子を「マラソン」に例えていますが、その視点でいえば、たぶんこのサイトを愛読してくださっている皆さんも、何十年も「ギターマラソン」しっぱなしの、おそらくそれ以上の「過酷なトレイルランナー」ではないでしょうか(笑)
かくいう私も「Bullet Bassマラソン」をずっと続けていますが、いまだに手元に無いんです。ですので、今回の「俺スキ」は、ちょっと時代が前になる70年代後期のミュージックマスター・ベースです。
あまり雑誌で紹介される機会も少ないので、テレキャスター本に同機を見つけたときには「マニアックだな」と編集さんに拍手したものです。この写真集にはほかにも、ニッチなスチューデントモデルが掲載されています。
ベース本体をみていくと、ピックガードは「改造かな?」と感じる様な、ちょっと適当なラインになっていて、これがキュートというかチープというか…。
フィンガーボードは丁寧な作りで、フレットも上位機種と遜色ありません。
コントロールノブはストラトからの流用ですね。
二本ならべてみると、ベースの70年代デザインは、もっちゃり感があります。ブリッジは手抜きっぽく見えますが、テレキャスター同様に独特のドライブ感があって、これはこれで気に入っています。
コンペティターとの熾烈な競争にさらされた70年代のFender社で立ち上がった四人の若者が送り出した刺客「Bullet☆1」は、70年代の兄貴分を凌駕して旋風を起こすはずでしたが、結果的には3年間でディスコンとなり、いつの間にか店頭からも姿を消していきました。
「安い」という言葉で片づけられない、貴重な「チャレンジ精神」に敬意を表して、もうすこしクローズアップで見てみてください。なんとなく「手に取りたくなる」愛嬌がありますよね。
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