ノーベル物理楽器賞的な発明「クランク・ペグ」

時代のニーズと保守的なギブソン・ユーザーのはざまで普及せずに短命で終わった希有のノーベル賞級名発明「クランク・ペグ」にスポットを当ててみましょう。

めずらしいギブソンのペグをご紹介します。パッケージも含めて当時のオリジナル・コンディションをとどめている「相当にレア」なセットで、「はじめて見るわ…」という平成生まれのギター・ファンも多いと思います。

名称は「クランク・マシンヘッド」といって、近年では初心者セットにも含まれているポピュラーな「ストリング・ワインダー」をロトマチック・ペグのボタン部分に内蔵した、機能的・構造的にすぐれたノーベル賞級のペグです。 

VM今回、貴重なパーツを提供してくださったのは、ギタリストのMr. Yさんです。「時代のニーズと保守的なギブソン・ユーザーのはざま」で普及せずに短命で終わった希有の名発明にスポットを当ててみましょう。

FV彼は、私が長年敬愛するヴィンテージギター・コレクター。『Beauty of the Burst』の巻末にも掲載されている日本人オーナーの一人だよ。1993年にプレイヤー誌の「売買コーナー」で知り合って以来、ずっと私にとって「東京の楽器の先生」のような人さ。

VMちなみに「大阪の楽器の先生」って、いるんですか?(笑)

FV保田誠さんかな。厳密には神戸っていうか、芦屋の先生っていうか…。保田さんのお母さんは私の英語塾の先生だったな。

VM保田さんって誰ですか?

FV「Mac Yasuda」さんだよ。

VMあ!(笑)

VM:で、話は戻って。調べたんですけど、正式には「クランク・マシン・ヘッド」っていうらしいですね。パーツカタログに掲載されていました。

FV:でも、こっちのパーツカタログは「クランク式シャーラー・ロートマチック」だ。

VM一貫性がないのは、当時のギブソンらしいので良いとして。

FVパッケージに記載されているのが、正式名称だとすれば「THE CRANK TM」だな。「Restring faster with built in winders. Pat.Appl.For.」ってことらしい。

VMギブソンは、ここで「Pat.Appl.For.」って謳っていますが、実際は1955年にアメリカの楽器店が特許出願(US2812682A)※1して1957年に特許登録された、便利なワインダー機構ですよね。

FVじゃあ「特許が切れたらペグにマウントして“特許出願した”」ってのは、いかがなものかな。特許ってそんなもんかねえ。人の発明になにかちょこっと工夫して「進歩性」を主張して特許をかぶせてくる。

VMさすが元光学機器の商品企画やってただけありますね。でも、誤解があるといけないので、もうちょっと調べてみました。

FV補足ありがとう(笑)

※1 MUSICAL INSTRUMENT STRING WINDER Filed Aug. 10, 1955 INVENTORS O ne fnfiwnyi Lang ose 7: eZeeZe BY ATTORNEY United States Patent i MUSICAL INSTRUMENT STRING WINDER Anthony James Longone, Bronx, and Joseph Celeste, Brooklyn, N. Y

VM基本的には「進歩性」があったとしても、既存の先行特許と「利用関係」がある場合は、実際には本家の特許権者の許諾(ライセンス)が必要になることも多いです。これが、1955年出願時の内容です。

FV「クランク・ペグ」の場合はどうなの?

VMところが、もともとの(US2812682A)の特許は、1974年に権利が切れてるんですよ。だから、ギブソンが「クランク・ペグ」を発売した1978年には、すでに特許が無効になっています。

FVそういえば、ある時期からプラスチック製ストリング・ワインダーが手頃な価格で入手できるようになりましたね。日本では「アルトベンリー」とか呼ばれていた。

VM:知りませんよ「アルトベンリー」なんて(笑)

ギブソン社のカタログに掲載されている「クランク・ペグ」をご紹介します。

ゴールドのクランクペグ on Les Paul Custom
クロームのクランクペグ on Les Paul Custom
カタログ表記は「Individually enclosed machine heads featuring the exclusive Gibson Crank TM fast string winding system」と無茶苦茶長い名称
セミアコシリーズに搭載されたゴールドのクランクペグ
ES-347の写真には、Crankペグが搭載されていない

カタログ表記は「Individual machine heads with the exclusive Gibson “Crank” TM fast string winding system。

ギブソン最高峰「L-5」にも搭載されていました。

日本のカタログでもしっかりとアピールしているが、撮影が間に合わなかったのか写真のモデルには搭載されていない。

FVやっぱり当時はかなり力を入れてカタログ掲載しているね。シャーラー社もギブソンへのOEM以外では販売していないから、ギタリストによっては「おー、ギブソンは弦交換が楽やで~」と。

VM今回はカタログの写真が多いので、もうすこしペグのディテールを紹介してくださいな。

FV通常のシャーラー製ロトマチック・ペグと並べてみよう。とくに大きさや機構が異なるわけではないので、付け替えればどうってことないな。

クランクをリトラクトした状態とエクステンドした状態の比較。

ボタンを外してみると、シャーシ本体は共通であることがわかる。左はニッケルのクランク・ペグ、右はクロームのGibson/シャーラーM6。 

VM「すごい発想で便利だったけど、もともとのストリング・ワインダーの特許が切れたタイミングだったので、単一機能の樹脂製ワインダーが普及した」ってことですね。

FVなんだか、一生懸命パーツを開発した人にはさびしいストーリーだなあ。

VMそれにしても、僕はこのパッケージのレイアウトに幾何学的美しさを感じるんですよ。

FV片付けにくいだけじゃん(笑)

なぜこういう並べ方を思いついたのか…

店頭にディスプレイするなら、こういったシンプルな並べ方がわかりやすいような気がする。

VMあ!

FVどうしたの、突然大声だして。

VMカタログに搭載されている「クランク・ペグ」なんですけど、どれを見ても「ゴールド」か「クローム」ですよね。

FV当然だよね、この時期だから。

VMでもMr. Yさんのクランク・ペグはニッケルですよね。

ニッケルのクランク・ペグのボタンをクロームのシャーシに搭載してみたが違和感あり

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