SGの憂鬱な悩み - SG ⅠとSB-450

70年代には「え、これもGibson?」と目を疑うようなモデルがあります。コストダウンをしつつ良質なギターを供給したいというギブソン社の努力の賜物といえる、SGシェイプのギターとベース2機種をご紹介します。

「生産性最優先」のモデル

このパンフレットに掲載されている5台のSGを見ると、上から3台(Custom、Standard、Special)までは良いとして、下の2台は思わず「え、これもGibson?」と、目を疑うような、同社が延々と守り続けた工業デザイン的美的感覚から大きく逸脱した、ビザールなスペックになっています。ギブソン社の70年代はレスポール・スタンダードをディスコンする傍らで、こうした「生産性最優先」のモデルが多く企画されています。

SG Ⅰ・SG Ⅱの特長は、フロントに大きく被さる「コントロールプレート」です。

本来バックプレートと呼ばれるはずのプラスチック板に、「ボリュームやトーン、スイッチをあらかじめレイアウトしておけば、工場のアッセンブリーライン工数が大幅に削減できるはず」と、思いついた担当者は小躍りしたかもしれません。

みなさんの印象はいかがでしょう。ペグやノブ、ピックアップをそれぞれ見ていると、さほど手を抜いて安価に徹しているという事ではないのですが…。

ギターは3連のクルーソンでクローズドカバーです。ベースはFender社でも採用されている大きめの独立ペグになっています。

今回は、ほぼ同年代のSGベースも併せて、スペックを見ていきたいと思います。

フルオリジナルのSG Ⅰ

ヘッドストックは廉価なメロディメーカーと異なり、両ウイングのついたフルサイズです。ブッシュは鳩目ですね。

アーリントンの質屋で1989年に見つけた個体で、ハードケースもタグも当時のままのデッドストックでした。安価なチップボードケースでなく、きちんとしたハードシェルケースが付属することを鑑みると、一口に廉価バージョンとは言い切れない印象を持ちました。

コントロールパネルは、ギターとベースに共通していて1プライの厚手が採用されています。

パンフレット自体も、ちゃんと上級モデルと同じものが付属していますね。

テールピースは一体型のコンビネーションで、ステアステップ。60年代のメロディメーカーやSpecialと同じです。このカタログでは「Special」と記されたモデルが「Standard」と同じABR-1仕様となっており、ギブソンの標準的なパーツスペックから考えると、正しくは「Deluxe」と呼ぶべきでしょう。

ピックガードは、よく見るとボディから浮いています。

本体に直接ねじ止めではなく、あいだにスペーサーが入っていて、実はこのパーツを工程で取り付けるのは、効率性を追求しているはずのSG ⅠやⅡにおいて、随分と面倒な作業です。

たぶんネックの仕込み角度から、弦とボディ本体に距離があり、それをカバーするための事後策だと考えられます。

ピックガードがボディから浮いた様子は、この角度が見やすいですね。

PUリングのスクリューは、なぜかネジ切りが途中までの50年代パーツです。

ピックアップはプラスチックカバーのチープさとは裏腹に、刻印タイプのミニハムバッカーですから、綺麗なウーマントーンが出ます。

プレートの内側に直接アッセンブルされたコントロール類とインプットジャックも、特段安価なパーツを使っているのではなく、上位機種のStandardと同じものでした。

ただ、配線はワイヤーというより針金を直接ハンダ付けするという「手抜き」。ノイズ大丈夫なのでしょうか。

ちょっと気になったのは、ネジが汎用性のない、このモデルだけのネジだという点です。普通のGibson純正PGネジでも不都合ないと思うのですが…。

ロッドカバーはJrグレードによくみられるワンプライですが、削り出しではなくて成型品のため厚みがあります。スクリューは見たことのないタイプです。

この個体はデッドストックのフルオリジナルなので、工場出荷時から通常のロッドカバースクリューとは異なるスペックが採用されていたことになります。

EBシリーズと比べて遜色がないSB-450

このSGベース(SB-450)は2PUモデルですが、ピックアップの外観やアッセンブリープレートなど、ギターと共通した部分が多くみられます。

ヘッドストックやペグまわりは、この部分だけ見ると同年代のEBと遜色ありません。

ブリッジやフェンスも上位機種と共通ですから、プラカバー・ピックアップとアッセンブリー作業だけで、どれだけコストが違って売価が異なったのか、首をかしげたくなります。当時アジア製のギターが大量に流入していた北米のマーケットで、ギブソンとしては、なんとか効率化コストダウンを捻出して、少しでも良質のギターを沢山供給したいという、企画部門の苦心と努力の賜物です。

裏側がエポキシで固められ、不意なフィードバックを防止する構造
EBと同じ三点止めのブリッジ。メタルフェンスはサンダーバードなどと似た形状。ボディカラーは日焼けしてウォルナットに見えるが、フェンスの下には、あざやかなチェリーレッドが見える
2PUをミニスイッチ2つでON/OFFコントロールするパネル
キャビティ内部に残る、オリジナルのチェリーレッド塗装。ネジはギターと同様の特殊な仕様
ロッドカバースクリューは安心の通常スペック

60年代と70年代のSGベース

話はちょっとそれますが、70年代前後のEBには多種多様なスペックが混在していて、カタログモデルだけでは網羅できません。機会をみてシリーズで紹介したいと思っていますので、お楽しみに。今回は60年代と70年代をならべてみたので、印象の違いを感じてください。

一見すると「この2本でグレードを分けるほど製造原価が画期的に異なる」というイメージは無いですね。

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