「ラッキーしまくら千代子」なゾロ目のSG Special

都内で発掘した「レアかつグッドコンディション」のSGスペシャル。寸足らずのショートヴァイブローラなど気になるスペックをチェックしつつ、このギターの「2(セカンド)」の秘密を解き明かします。

完全無欠のコレクターズコンディション

VM (Vintage Maniacs)今日は、ずいぶんと縁起がいいですねえ。

FV (Fukazawa Vintage Club)ヴィンテージギターといえど、シリアルナンバーにゾロ目とかラッキーナンバーが含まれていると、コレクターはそれなりに気分が高揚するだろ?

VM僕は、ヒスコレの「98888」って持ってましたけど、やっぱり「特別なサウンド」があるような気がしましたよ。

FV「特別なサウンド」が空耳だとしても、気持ちはわかるよ。キリが良い番号とかは覚えやすいしね。携帯の電話番号でも、「090-xxxx-8888」とかって、高額で取引されてるらしい。

VMそもそも、自分の所有機のシリアルって、FVさんは覚えているんですか?

FV普段は保険会社がデータベースで記録しているだけで、自分では暗記してないよ。メダリオンVで「#321」っていうのを見つけたときは欲しかったなあ。

VMしかし「608888」なんて、偶然にしても良く手に入りましたね。入手したエピソードも「ラッキーしまくら千代子」でしたけど、シリアルナンバーまで「幸運スエ広がり」なんて羨ましいです。

FVたださあ、「2」の刻印が、塗装の上からドーンと打ってあって、デリカシーがないんだよ。

FVそこだけ目をつぶれば、近年稀にみる「ニアミント」コンディションで、チェリーの褪色も、金属パーツのサビも、樹脂パーツの割れもない、完全無欠のコレクターズコンディションさ。

VM北米のギターショーでも、お目にかかれない「レアかつグッドコンディション」のSGが、都内の中古楽器店で「298,000円」で発掘できるなんて、2021年にあって、まるで「お伽話」ですよ。

SGの生産本数

VMところで、SG Specialって、Standardとどっちが生産本数多いんですか?

FV比べてみようか。

(出荷本数) Special Standard
1967 1,664 1,154
1968 1,461 1,340
1969 2,378 3,354
1970 2,120 6,677
合計 7,623 12,525

VMへえ、廉価なSpecialの方が圧倒的に多いかとおもったら、スタンダードは1万本以上かあ。

FVギブソンも発売当初はSpecialの方が売れると思ったんだろうね。でも、実際に店頭販売を開始したら、やっぱりハムバッカー搭載のStandardの方が、よく売れた。

「寸足らず」のショートヴァイブローラ

VMしかし、なんど触ってもコンディション良いですよね。

FVだろ? パーツもミントだ。

VMP-90の裏側って、白い粉が吹き出している個体が多いですけど、これはピカピカです。ポットデイトとボディの仕様から判断すると、68~69年でしょうか。

FVなぞの「丸穴」が、ここにも2個あいてるぞ。

FVそれと、ジョイント部分のザグリのいい加減さが気に入った。

VM無茶苦茶な隙間が空いてますねえ。これが「セカンド」の理由でしょうか。

FVいやいや、これをギブソンが「構造的欠陥」と認識していたら工場出荷しないよ。「セカンド」の理由は他にあるんだよ。よく見てごらん。

VM…………あ、わかった。ショートヴァイブローラがメロディメーカーの「寸足らず」バージョンが付いてます。ほら、これですよ。

FVうん、確かにスタンダードのヴァイブローラと比較すると、弦を掛ける部分が短いね。ならべると、わかりやすい。

FVこの「左右が短くて上下が広くて、弦を掛ける部分が平べったい」アームユニットは、当時カラマズーモデルとかメロディメーカーに搭載されていたので、私も初見では、これが「セカンド」の理由だと思ったぐらいだ。

VMえ? じゃあ違うんですか?

FVこのカタログ見てごらんよ。アームユニット、短いだろ?

VMほんとだ。気が付かなかった。いつの間に…。60年代中期までは長かったですよね?

FVだから、ここはちゃんとした仕様変更だ。ところで実は、このアームユニット、横幅がコンパクトでコントロールノブを操作するときに邪魔にならなくて、結構使いやすいんだよ。

「セカンド」の理由

VMここにネジの傷がついてますが…。

VMそれと、ピックアップのエレベーションスクリューが1本だけニッケルですよ。

FVまあ、そういう部分を細かく見ていくと、たとえば「トラスロッドのナットが削られている」とか、帳尻合わせっぽい部分がなくもないが…。

FVときどきあるんだよ。「ロッドカバーをつけようとしたら、ナットが出っ張っている」って。

VMそれで削っちゃうってのも凄い。だって、180度回したら、ロッドカバーが付かないですよ。

FVその通り。

VMで、肝心の「セカンドの理由」を教えてくださいよ。

FVえっ? まだ気づいてなかったの? ここ。ほら。ペグ。

FVカタログの写真と同じ、メタルボタンのクルーソンっぽいのが付いてるけど、説明では「Enclosed Individual(密閉型独立)」って明記されている。

VMそっか、3連が搭載されているのは、おかしいんですね。

FVしかも、外してみるとネジ穴が4個しかないから、「Individual」を取り付けた形跡はない。

VMこんなにわかりやすいのに気が付きにくいポイントって、普段「どのギターのどこを見ているか」がよくわかりますよね。FVさんみたいに、ネジとノブばっかり見ていると、見落としちゃう。

FVそれって褒めてないよね?(笑)

VMというわけで、今回はすこぶるコンディションのよいSG Specialを都内の楽器店で手に入れたFVさんの「ラッキーしまくら千代子伝」でした。ゾロ目…いいなあ。

ちなみに、ハードケースとカールコード、弦、タグ類は、今回入手した「SG Special」とは別で、FVさんのコレクションからお借りしました。バックプレートの裏側にファイヤーバードのような銀の塗料が塗布されています。あまりSGでは見ない仕様ですね。

SG Specialのワイドピックガードは1966年あたりから登場しますが、当時の標準小売価格(Suggested retail price)は、なぜか毎年ちょっとずつ変更されていました。

1967年 $225 -
1968年 $245 +$20
1969年 $265 +$20
1970年 $295 +$30
1971年 $325 +$30

1968年のアメリカ消費物価指標をみると、食パン1斤の価格は22セント($0.22)です。このGibson SG Specialは、食パン1,114斤相当、毎朝1斤食べると3年分に換算できます。 私の大好きな「Pasco超熟パン」が170円ぐらいですので、これを千倍すると17万円。近年のGibson価格と当時とで、モノの価値としてはそんなに変わりない印象でしょう。そう考えると、1968年に食パン1,114斤相当だったヴィンテージギブソンが、50年の時を経て超熟パン1,753個分の298,000円で手に入ったのは、随分とラッキーだったと感じています。

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SG Standard解体新書 Part Ⅱ - 前編
「解体新書」の続編となる今回は、Gibson SGのピックアップキャビティに注目。3本のSGスタンダードのパーツを外して、それぞれのキャビティ加工の違いに迫ります。また汎用性が高くてすばらしいスペックのピックガードにも注目。3回シリーズの前編です。

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