音の本棚 第1回 『The Beauty of the Burst』

音の本棚「音棚(オンダナ)」の第1回は、昆虫図鑑のごとき正確無比はカラー写真と解説で度肝を抜かれた『The Beauty of the Burst』を特集。都市伝説的に語られる「消えたレスポール」と「間違えたレスポール」の謎を解き明かします。

本棚からタイムトラベル

休日の朝は誰よりも早く起きる。着替えて髪を整えたら、周囲が静かなうちに本棚にあるギター雑誌に手を伸ばす。これが私のルーチンです。背表紙しか見せていない写真集たちは、「次はいつ見てもらえるのか」を心待ちにしているでしょう。気分次第ですから、昨日レスポールだったり、今日ゼマイティスだったり。先週の土曜日はリッケンだっけ? 日曜日はノーマンの写真集。こんなランダムな閲覧に脳裏をめぐる想い出は、「中学生時代のSG」と「去年のヒスコレ」を行き来する、さながら「タイムトラベル」です。

音の本棚「音棚(オンダナ)」を始めようと思ったきっかけは、飛騨高山のギター友達から送ってもらった「バーストのシリアルナンバー整理表」でした。何事にも律儀で整理好きな彼は、時々目を見張るような「古い雑誌のページ」を送ってくれます。その彼のライフワークが、「バーストのシリアルをできる限りトレース」することなのです。今日は、そんな彼の作業に思いを馳せながら、本棚からギター雑誌を紹介する「音棚」の第一回を始めましょう。

情熱を超えた執念

ヴィンテージギター・マニアにとってのバイブルともいえる写真集の多くは、マック・ヤスダ氏やヤスヒコ・イワナデ氏の名著に始まり、それぞれのブランドの探求者によって、果てしない労力を注ぎ込まれて世に登場しています。その中でも、私が質・量ともに完璧だと感服する写真集のひとつが『The Beauty of the Burst』です。

平成8年にハードカバー(上の写真右)が発刊されると、8,000円という価格もさることながら、これまで断片的にしか見ることのなかった「レスポール・スタンダードのトラ目軍団」を「昆虫図鑑のごとき正確無比なカラー写真と解説」によって解き明かした品質の高さに、世界中のコレクターが度肝を抜かれました。

特大ポスター付のハードカバー写真集には、丁寧に手押しのシリアルナンバーが「バーストさながら」のフォントで打刻されており、次のページから展開される「トラメの展覧会」を予感させ、胸躍るのでした。

そもそもが、リットーミュージックの野口君は企画段階から常軌を逸していた。フイルム撮影の時代に、国内外で、これだけの個体数をオーナーの協力のもとスタジオ撮影し、解説を加え、色校正を仕上げるのは情熱を超えて執念以外の何物でもありません。

ハードカバー、ソフトカバー、英語版

と、いうことで敬意を表して発売時に20冊を連番で購入させていただいたのですが、5冊ずつセットになっていました。『The Beauty of the Burst』は、欧米のファンにとって「漢字」という難解なハードルを差し引いても手元で観たい雑誌でしたが、eBayが今ほどポピュラーでなく、知人を介して手に入れる幸運な海外コレクターは、一握りだったに違いありません。(在庫管理タグは書店店頭未発売の証)

しかし、「救う神あり」です。しばらくして英語版(記事冒頭の3冊並んだ写真の左)がHAL LEONARDから34.95ドルというリーズナブルな価格で発売され、ハードカバーではなかったにせよ、ヴィンテージギターブーム発祥の地「東京」から世界への大きな金字塔となったのです。

その後すこし時間を経て、普及版ともいえる「ソフトカバー」の日本語版が発売されることになると、聖域ともいえた『The Beauty of the Burst』の魅力は、多くのヴィンテージギター・ファンの手が届く存在となります。

嬉しかったのは、英語版には付属しなかった大判ポスターが織り込みで付属していたことでしょう。一方で唯一残念なのは、このポスターが初回のハードカバーと違い、本編に綴じ込みになっているので、部屋に貼ろうとすると、切り取らないといけない点です。

ところで、ものごと有名になればなるほど、何にでも都市伝説というものがつきまといます。『The Beauty of the Burst』の場合は、「消えたレスポール」とか「同じ写真が2枚」という噂でした。今ほどSNSが普及していない頃の話なので、概ねギターショーなどで仲間が集まると、「…らしいよ」的な話題が少しずつ広がるといった感じでした。

あたたかな春の陽射しを頼りに、バルコニーで撮影をしながら検証してみますね。

消えたレスポール

まずは、「消えたレスポール」です。

P68~69に掲載されているレスポールが、ハードカバーとソフトカバーで異なるのに気がついたでしょうか。

ハードカバーのP68は、シリアル「9 0891」のダブルホワイト&ゼブラです。

ソフトカバーのP68は、シリアル「9 0905」に入れ替わっていますね。

シリアルの掲載順位から判断すると、P66が「9 0844」、P70が「9 0901」なので、その間にくるのは「0891」が正しいそうです。それを、ソフトカバーでわざわざ「0905」に入れ替えた理由はなんでしょうか。

こういう場合、私は撮影者のCreditを確認してみるのですが、ハードカバーは撮影者「菊池英二」に0891がクレジットされているのに対して、ソフトカバーからは0891が削除されています。さらに不思議なのは、ソフトカバーには0905の写真が掲載されているのに、撮影者がクレジットされていないのです。なんともヘンテコな改訂ですが、ミスプリントでないのは、写真0891のシリアルナンバーは、しっかりと0891と読み取れる点です。とにもかくにも、ハードカバーを持っている人は0905の写真と解説がなくて、ソフトカバー所有者は0891を拝めないという、2冊で1冊なのでした。

間違えたレスポール

次に、「間違えたレスポール」です。

これは、ハードカバーの購入者にとっては、本来見るべき写真が欠落しているという難点で、その「欠落している写真」を見たければ、英語版か日本語版のソフトカバーを追加購入するしかありません。まず、ハードカバーのP47をじっくり見てください。

この時点で「あ~」と気づいた人は相当マニアです。では続いてソフトカバーのP47です。

ハードカバーのP47のギターには、レスポール・オーナーにとって「憎っくきベロマーク」がついているのがお判りでしょうか。

このベロマークがついている個体は「9 0600」ではなく「9 0839」で、P65に掲載されているギターです。

これを教えてくれたのは、当時親交のあったバースト・ファンですが、「う~む、目の付け所が凄い…」と驚いたものです。

憎っくきベロマーク

VM(Vintage Maniacs)相変わらずニッチというかマニアックというか、写真集の見方ひとつにも偏執狂的な愛情を感じますね。

FV(Fukazawa Vintage Club)それ、褒めてるの? でも今回紹介した『The Beauty of the Burst』の誤植というか2点については、バーストファンなら皆知ってる「都市伝説」だと思うよ。

VM思わないですよ。しかも、3冊とも持ってる人の方が少ないじゃないですか。

FV確かにハードカバーは8,000円という価格に加えて限定発売だったからねえ。

VM結果的に「ハードカバーの購入者」は、英語版か日本語版のソフトカバーを追加で購入することになるんですから、野口さん(リットーミュージック)も悪代官みたいな人ですね(微笑)

FVいやあ、悪気はないんだろうけど、同じ写真と記事をベースに3冊所有してもらえるほど、この写真集が魅力に溢れているってことだろ?

VMせっかくですので、先ほどの「憎っくきベロマーク」について、もうすこし写真集で見てみましょうよ。

FV今では数千万円もする貴重なバーストのトップに、なぜ「こんな出来事」が起こるのか…。

VM一般的に理解しがたいのですが、まあこういうことです。ブラウンケースのラッチには「悪意に満ちた(笑)突起」がありますよね。

FV撮影時やメンテナンス時に横着して、ギターをハードケースからはみ出した状態で置いておくと…「バタン」という音がしたときには時すでに遅し。

FV蓋を倒したアシスタントを罵倒するのも忘れるほど茫然自失の状態に陥るわけだ。

VMヒスレコオーナーや80オーナーの方もご経験あると思いますが、心臓が止まりそうな光景ですね、ほんと。毎回きちんとケースに収めましょう。

FV初めての企画「音棚(オンダナ)」で、ちょっと緊張したけれど楽しめてもらえたかなあ。

VM最後の最後に、もう一つおまけです。HystericPAFのYouTube動画 でもおなじみの吉野さんが載ってますね。

FVおー!

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