音の本棚『Guitars』という写真集 - 「Groverに愛をこめて」前編

今回の「音の本棚」では、写真集『Guitars』から印象に残っているギターをご紹介します。ジェフ・ベックのレスポール・カスタムやゲイリー・ロッシントンのバーストなどを、ペグに注目しながら見ていきましょう。

ずいぶん昔に音楽部の先輩から買った中古の写真集『Guitars』は、その時すでに何頁かが綴じ目から脱落する状態だったが、今日改めて本棚から引っ張り出してきて驚いた。崩壊が進んでいるのである。背表紙部分の接着剤が経年劣化したんだと思う。前回この写真集を開いたのは、たしか東日本大震災の片づけをしているときだ。作業の手を止めてロン・ウッドのZemaitisをボーっと眺めていた。その時は、まだ最初の5~6ページが外れているだけだったような気がする。

Guitarsというタイトルのわりには、何本かベースも掲載されていて、ちょっと嬉しい内容だ。この星形ベースなどは、いまでこそオリアンティのPRSみたいな、全面スワロフスキーの装飾も珍しくない時代だが、当時は「ファンクの王様」を盛り上げるのにふさわしい「唯一無二」の輝きだった。

「目次」はあるが、ギターの写真集だから、「誰のギターが何頁にのっていますよ」的で、あっても無くても良いような気がする。とりあえずこれだけの有名なギターのほとんどを、美しいスタジオ写真で残した著者には敬意を表したい。写真の右端にちらりと見えているのは、だれのギターかわかるだろうか。32ページ掲載のレスポール・カスタム…そう、「Ace Frehley’s Gibson Les Paul Custom」である。

Jeff Beck’s Fender Esquire

写真集で印象に残っているギターを紹介していこう。まず、ジェフ・ベックのギター。「あれ?ハムバッカーじゃないのか?」と思った人はマニア。

ジェフ・ベックが手に入れる前に、前オーナーは、肘の当たる部分を「ストラトっぽく削った」そうだ。それをジェフは60ドルで手に入れたと説明されている。ヤードバーズ時代、このEsquireは、ジェフ・ベックだけでなくジミー・ペイジにも演奏された。有名な話だが、セイモア・ダンカンはこれをジェフからプレゼントされ、現在でも大切に保有している。

Jeff Beck’s Blow Blow By Blow Gibson Les Paul

筆者が学生時代に熱狂したギターアルバム「Blow by Blow」のレコーディングは、この「ネックが交換され、ペグはシャーラー、ボディはリフィニッシュ」の、異様なルックスを持つレスポールで行われた。当時「5人目のビートルズ」とまで言われたジョージ・マーティンのプロデュース手腕によって、メロディアスかつスリリングなジャズロックアルバムとして異例のセールスを記録した「Blow by Blow」であるが、多くのギター少年にとっては、「黒くてハムバッカーが2基搭載された、ストップテールピースのシャーラー・レスポール」という肩書こそが、リチューニングの金字塔であったに違いない。

このギターについては「シャーラーのペグとギター殺人者の呪縛 」で詳しくご紹介しています

Eric Clapton’s Gibson Les Paul

黒いレスポールがジェフ・ベックならば、赤いチェリーのスタンダードはエリック・クラプトンだろう。誰をも虜にする泣きのフレーズ、「While My Guitar Gently Weeps」での名演奏後に、このギターはジョージ・ハリスンにプレゼントされ、没後もそのまま管理・保管されている。そのストーリーは、まるで「パティ・ボイド」のように、純情な友情と魔力に満ちている。

70年代後期は、だれもが「Kluson」の貧弱さをこき下ろし、「Groverって、すげえ。スムーズにチューニングできるんだぜ」「ガタツキとは無縁さ」と、雑誌のインタビューで語っていた。そして多くのヴィンテージギターが、ロトマチックとよばれる、重量のあるシャフト径の太いメタルペグにリプレイスされたのが写真集からもわかる。

Gary Rossington’s Gibson Les Paul Standard

またもや、ロトマチックに交換されたレスポールの登場だ。ゲイリー・ロッシントンのバーストは、ちょっとめずらしい「ゴールドのシャーラー」。

彼はレコーディングの合間に、不用意にもヘッドストックを折ってしまい泣き崩れたと回顧している。

「マイアミでストリートサバイバーのレコーディング中、疲れ切った俺は、ギターをスタンドに立てかけたままスタジオに一晩置きっぱなしにしちまったんだ。翌朝、ストラップを持ち上げてギターを肩にかけようとして唖然としたよ。ヘッドストックは見事に折れて、弦でぶら下がっているだけだったんだ」

この記述をアトランタ郊外Smyrnaのカフェで一緒に読んでいたMike(Greenwood S.C.のギター友達)は、当時こう言ってた。「ギターが自分の彼女だったら、“おれは、素っ裸のまま突っ立った彼女をスタジオに残して帰っちまった。翌朝戻ってみると、そこにはレ●プされた彼女がほったらかされていた。俺は傷ついて泣いたよ”ってことなんだろうが、そりゃあ君が“バカ”ってもんだ」って。

私が学んだのは、「ギターは弾かないときはケースにしまいましょう(ラッチは必ず閉める)」ということと、「なるべく目の届くところに置きましょう」ということ。Snowy(White)はね、ギグが終わって飲んでいるときも、ギターはハードケースにしまって自分の脚の間に置いてある。いつもだよ。必ず。飲み屋で自分の彼女の肩に腕を回して、他人がちょっかい出せないように守るって感じだ。

Ace Frehley’s Gibson Les Paul Custom

冒頭でチョイ見せしたAceのLes Paul Custom。Groverのパーロイドペグが印象深い。

以前特集した「おさらい」になるが、このパーロイドペグも、ボタンの素材や色が複数バージョンあるので後編でクローズアップしておこう。

透明度の高いスクエアな樹脂ボタンは、バンジョーペグ「No.888」にも搭載されているポピュラーな仕様だ。

このボタンのパーツナンバーは「RP-4080」 となっており、リテイナーも別売されている。やはり失くす人が多かったのだろう。

もともとバンジョー用にデザインされたペグだが、ボタンをNo.104に取り付けたら、すこぶる格好良かったということかもしれない。

印象深い「ペグ交換」

さて、古い写真集から「当時のペグ交換ブーム」に話題が移ってしまったけれど、前編の締めくくりとして、それぞれ印象深い「ペグ交換」をチェックしておこう。

シャーラーのセンターリグ。言わずと知れたJeff Beckのレスポールだ。

クラプトンのミルクボトル・ニッケル102N。小ぶりで可愛いね。

スティーヴ・ハウのES-175はシャフトが長く見えるが、Pat Pend.刻印のクローム102C。ヴィンテージ・マーチン・ファン垂涎のコレクターズアイテムだ。

アマゾン通販とかネットショッピングの無い時代、楽器店はペグだけでもリペアパーツの手配が大変だったと思うが、こうして「後世に残るギター」にオーナーが遺した軌跡は、映像として脳裏に焼き付いてるよね。

 次に読むなら

シャーラーのペグとギター殺人者の呪縛
W. Germany製でもレアなセンターリグのSchaller M6ペグを追いかけ続ける筆者と、ロンドン在住のSchallerマニアが繰り広げるディープな話。

掲載されている文章および画像の無断転載・引用(ソーシャルボタンは除く)は固くお断わりいたします。

 Vintage Maniacs Shopのおすすめアイテム

Vintage Maniacs Magazine Vol. 1

Vintage Maniacsのブログに著者コメントを追記し、編集・再構成した「Vintage Maniacs Magazine」。全ページフルカラー仕様で、資料としてもオススメです。Vintage Maniacsが切り込むディープでマニアックなヴィンテージギターの世界をお楽しみください。

ショップで見る
Vintage Maniacs 公式Webショップ