音の本棚 第6回 『Little Guitars』 後編
音の本棚『Little Guitars』の後編は“番外編”として、「そのうち絶対壊れるケース」ことチープなチップボードケースを特集。ケースを作ったGeib社のことや、テキサスにある楽器店との時を超えたエピソードなどもご紹介します。
目次
この雑誌で伝えたかった意図
VMいやあ、『Little Guitars』、深いですね。
FV編集者の熱意を感じるよ。なぜか、ベレノとかが番外に掲載されていて、ついでというにはニッチ過ぎるぐらい。
VMベレノって、なんですか? イタリアのスクーターかな?
FV…それってベスパだろ? ベレノっていうのはさあ…
VMいいですよ、蘊蓄は。GibsonでもFenderでもGuildでもDeanでもないんでしょ?
FVまあ、そうなんだけど、我々還暦世代には、なんとも印象深いメーカーなんだよ。
VMそれはそれとして、FVさんが『Little Guitars』で、一番気に入っているページって、どれですか?
FV裏表紙の内側にある、この写真。この茶目っ気が、超気に入っている。
VMあ、ほんとだ。これって、なんか「偏執の人が、この雑誌で伝えたかった意図」が、すごくストレートに伝わりますね。
FV「編集」だろ?
VMわざとですよ、わざと(笑)
FVやっぱりギターの写真だから、小物に凝るとか、レイアウトに意図を込めるとか、なんかそんなのが好きだな。中身は、こういう昆虫図鑑っぽい感じでいいんだけどね。
「チープで、そのうち絶対壊れるケース」特集
VMで、まあせっかくの『Little Guitar』なので、なにかニッチな解説をお願いしますよ。
FVそうだなあ、ニッチねえ。そういえば、ハードケースやチップボードケースの特集って、まだやってないよね。
VM個別にギターと一緒の紹介はやってますけど。最近はヴィンテージギターを買ってもオリジナルのケースがついてないことが多いので、一度さらっと紹介してほしい気がするようなしないような。
FV回りくどいなあ。じゃあ今回は「Little Guitarsの番外編」ってことで、改訂版が出たときに追加してほしい、「チープで、そのうち絶対壊れるケース」特集をしよう。
VMあまり善意を感じないです。
FVだって、親にねだって夏休みに一生懸命に家のお手伝いをして、洗車して、宿題やって、やっと買ってもらったギターなのに、ショップが「必ず壊れて、ギターがとんでもないことになるケース」を、お金取って売ったんだったら犯罪並みだよ。
VMカラマズー工場の人からすると、なんとなく合点いかなかったでしょうね。
FV当時のカタログで、メロディーメーカーの本体が149.5ドル。Durabiltケースが15ドルとなっている。ギターが20万円としたら、あのチップボードケースが2万円か?って話だな。
FVこの「Durabilt」っていう単語の印象は「Durable」に似てるから、「丈夫」だと思うだろ?
VMそうですね、Durableって耐久性っていう意味ですからね。あの、時々思うんですけど、Vintage Maniacsって英語の勉強にもなりますよね。実用的なギター英語。
FVサンキュー(笑)
VMで、Durabiltっていうケースなんですが、調べてみましたよ。
FVお、偉いねえ。
VMこれって、イメージでGibsonの製品呼称かと思っていたら、Geibという楽器ケースの製造メーカーが出してる商標なんですよね。もともとGeibは1964年にEconomoケースという、段ボール(Chipboard)の廉価楽器ケースをラインナップしています。当時の業界紙には「A Truly Handsome Case」や「Made of Laminated Chipboard」、「Plastic Finger Handle」とか能書きがあって、写真入りの広告が載っています。それをGeib社はGibsonのエレクトリックギターやアコギ用に、「Durabilt Case」として供給していたそうです。
FVとなると、当時「ハンドルが壊れてギター落としたり」…
FV「縫い目のフチがちぎれてギターがこぼれたり」…
FVという事故の責任は、このチップボードケースをつくったGeibの仕業ってわけか。
VMまあ、悪気はないと思いますけど。
FVじゃあ、その悪気のない「壊れるチップボードケース」を、今回はアリゲーター柄を選んでクローズアップしておこうか。
アリゲーター柄にクローズアップ
VMえーっと、まずは集合写真から。
VM真ん中のヘンテコなのは、LG-0とかが入ってた気配がします。後ろのは全部Melody Maker用ですよね?
FV一本は、アンコ入りのLP JrやSpecial用。
VMどっちですか?
FVちょっとハンドルが高級(?)っぽい、こっちがLP Jr用だね。
VMあ、なるほど。以前LP Jrのときにも紹介してたから覚えてますよ。
FVカメムシMMだけど、普通はボディカラーがチェリーレッドで、チップボードケースはグレイかブラックなので、このアリゲーターケースは珍しいよ。
VM左のケースはお尻の部分がとんがってますね。
VM内側はほとんど似たようなものですけど、ポケット部分の支えがとれたり、蓋がちぎれてどっかにいってしまっている個体が多いです。
VMこのケースはバッジも綺麗に残ってて、当時の販売店のシールがすごくレトロです。
FVこの「SWICEGOOD MUSIC Co.」は今でもテキサスに現存していて、ブラスバンドなどの管楽器を主に扱っている楽器店だよ。インターネットのホームページもあって、なんか懐かしいというか、楽器のビジネスをこんなに長く続けてるって、嬉しくなっちゃうよね。Eメールでケースの画像を送ったら返事をくれた。彼らにしてみれば、自分たちの親父世代が30年以上前に販売したギブソンのギターが今は遠い東洋の国にあって、当時のステッカーが現存しているって、タイムマシンだ。
VMアリゲーター柄ってすごくカッコいいのに、これを貼ったLes Paul用のハードケースとかはGeib社は作らなかったんですね。
「安かろう悪かろう」じゃない!
FV金具とかを、じっくりとクローズアップで見てみよう。
VMよく見ると、チープな材質以外は、縫い目やリベットとか、随分手間暇かけてます。
FV当時これだけ時間をかければ、ギターの10分の1の価格でも仕方ないか…。
VMところで、このアリゲーターケースも、細部をよく見ると、いろんなバージョンがランダムに組み合わさっていますよね。あ、チェキだ。
FV余談だが、こうしてギターの中身がわかるようにしておくと、倉庫から出してくるときに便利だ。
VMまずハンドルの色が「薄いブラウン」「濃いブラウン」「ブラック」の3種類あって、ラッチは角型と兜型の2種類ですね。
VM断然上段のほうがカッコいいなあ。
FV内側を見てよ。リベットの脚がギターを傷つけないように、ちゃんとフェルトのガードが付いている。安かろう悪かろうじゃなく、ちゃんと気を使ってるんだ。
VMほかの部分もクローズアップで観察しながら、今後のブラックチップボードケース特集に続く…っていう感じでいかがですか?
FVう~ん、もうちょっと紹介したいけど、そうしようか。
雑談
VMふーっ、終わりましたね。音棚『Little Guitars』前後編。
FVため息つくほど、ニッチじゃなかったろ? でも、このプライスタグとか懐かしいよ。当時は、クルマで通りかかった田舎町のPAWN SHOP(質屋)で、よくギターを見つけたなあ。たまたまケースを開けたら、ポケットにストラップが入っていた。
VMこんなストラップが30年後に100ドル以上にもなるなんて、質屋のおっちゃん、想像もつかなかったでしょ?
FVそんなの、私も思わなかったよ(笑) でも、捨てずにためておくもんだね、想い出と一緒に。
VMあとは、今後深堀りしていただきたい「ブラックチップボードケース」をチラ見せして〆としましょう。最後のはウクレレ用ケースです。
FV当時も今も、あまり変わらないケースだね、ウクレレは(笑)
VMあ、忘れてた、グレイのチップボードケースもありました!
VMしかしFVさんって、『Beauty of the Burst』もそうですけど、気に入った写真集とかムック本とか、とことんまとめ買いしますよね(笑)
FVそうだね、『Little Guitars』も発売時にイシバシ楽器で立ち読みして気に入って、まとめて12冊注文したんだよ。海外の知人にクリスマスプレゼントで送ったら随分好評だったのを覚えている。いまは手元に5冊しか残ってないから、アマゾンとかでUSEDで売りに出たら買おうと思ってさ。
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