チッチキチーな土曜日 - SG Custom 3つの再発見 その3

3回にわたってお届けする「SG Custom 3つの再発見」の最終回は、「元オーナー」に関するお話。40年以上前にバックプレートに刻まれたメッセージと改造の痕跡から、このギターにまつわるストーリーを紐解いていきます。

モノによる記憶の解凍

結局、吉原君の手元に長年預けっぱなしだったSG Customが再発見(再発掘)され、入手経路を思い出せないままに、2021年2月に手許に戻ってきたわけだ。「その1」「その2」に続く、今回の「その3」では、ギターのオリジナルオーナー発見に至る「チッチキチーな土曜日」のお話である。

北米西海岸から日本まで地球を半周して、今みなさんの目に触れることになった「1975年製のカラマズーメイド SG Custom Walnut」は、部分部分に当時のティーンエージャーが残した爪痕を保ちながら、45年間生存し続けてきた。「モノによる記憶の解凍」は、このゴールディーな美貌を、再び「元オーナー達」の脳裏に蘇えらせるだろうか。

元オーナーとのスピリチュアルな繋がり

VM (Vintage Maniacs)「チッチキチー」って、FVさんの口癖ですけど、何なんですか?

FV (Fukazawa Vintage Club)うーん、自分でもよく覚えていないけど、先日NHKで放映された「石川佳純さん」のドキュメンタリー番組で、彼女も試合帰りのインタビューで「チッチキチー」とか「チッチキチーのチー」とかアレンジして使ってたな。シンパシーを感じたよ。

VMFVさんて、よく「柔道」とか「卓球」とか「バレーボール」とか観てますよね。

FVカーリングもそうだけど、一人の選手を中学時代から応援していたり、まあ、長く成長を見るっていうか。

FVギターもそうだよ。何十年も前からのギターが辿った変遷を紐解き見守る…みたいなのは、ある意味、成長過程を応援している気分だね。

VMこれなんか、ピックガードの裏に「Social Security Number(社会保障ナンバー)」が入ってます。

「米国民の背番号」とも呼ばれる納税者管理番号

FVアメリカでは、大切な持ち物に「所有権を表示する」という意味で、刻む人がいたね。ヴィンテージギターも、キャビティの中に、いろいろ書かれていることが多くて、開けるのがワクワクするよ。

VMFVさんは、買ったヴィンテージの弦を張り替えないままで保管してるの多いですよね。最初は、「この人、ケチだな。ギター買っても弾かないから、ほったらかしだし」って、穿ってみてましたが。

FVおいおい、ひどいなあ。まあ、元のオーナーの存在は、必要ない限り温存したいタチでね。ヴィンテージギターのハードケースに「前のオーナーは、何を入れてたのか」って、ワクワクする。手書きのコード表だったり、カポやライブのチラシ、ストラップとか、交換済の弦を大事にしまってあるパッケージ。スピリチュアルな繋がりさ。

1977年4月23日のメッセージ

VMしかし、このSG Customは、大事にされてきたのか、手荒く扱われてきたのか、想像しがたい痕跡が満載ですよ。

FV順番に見ていこうか。まずは、これ。

VMうちゃーっ。みっちりと書いてありますね。丁寧にアルミ箔貼って。

NOTICE
THIS GUITARS (SG CUSTOM) FINE ORIGINALITY HAS BEEN DESTROYED BY BILL SKINNER.
I HAVE TRIED TO REPAIR THIS INSTRUMENT TO ITS FULLEST CAPIBILITY.
DOUG PIERCY 4-23-77

FVDoug Piercyさんが、1977年4月23日に刻んだメッセージだ。「このSGカスタムは、ビル・スキナーがオリジナルを台無しにしてしまいました。私は、 全機能回復に努めリペアしました。1977年4月23日 ダグ・ピアシイ」

VM「全機能回復」って、もうちょっとちゃんと訳してくださいよ(笑) 全体的に、書かれた文体・言葉がきついから、よほど腹が立ったんでしょうね、当時。そういえば、Doug Piercyって、ANVIL CHORUS(80年代のプログレメタル・バンド)のギタリストが同じ名前ですよ。だいぶ前ですが、日本でもヒットした曲があります。同一人物かなあ。

FV調べてみてよ。

ANVIL CHORUSのDougとBill

VMあ、ありました、ネットに載ってました。ほら。Bill Skinnerは、Dougと同じバンドのベーシストですね。

Interview ANVIL CHORUS

FV記事によると、ANVIL CHORUSでレコードデビューする前から、この二人は同じバンドだな。Dougは1961年2月4日生まれだから、このギターを修理している1977年2月は、16歳で高校二年か。

PUリングは3基ともオリジナル
割れもなく、コンディションが良い

VMあの~、ちょっと横道にそれていいですか?

FV君がそういう顔するときって、かならずイチャモンつけるときだよな。なんだ、今回は?

VMアメリカに「高校二年生」って無いんですけど。

FVそりゃそうだ(笑) 日本だと6(小):3(中):3(高)制だけど、アメリカは地域によって、5:3:4だったり、6:2:4だったりするから、共通した呼称は、「Grade」だって言いたいんだろ?

VM知ってるんじゃないですか、やだなあ。

FVElementary Schoolのスタートが1st Gradeで、日本の小学一年生にあたる。「ぴかぴかの一年生」だ。

VMなんで、一年生がピカピカなんですか?

FVまあ、それは良いとして。DougはこのSGをリペアしていた頃は、11th Grade、つまりJuniorだ。そろそろ「プロとしてやっていこう」って、思い始めている頃だったんじゃないか?

VMで、音楽仲間のBillが持ってたSGを安く譲り受けた。Billは、77年にはすでにベーシストとして「リッケンバッカーを弾いていた」らしいです。

FVなんとなく、FBIのプロファイラーみたくなってきたけど、まあ当たらずとも遠からずか。

FVヘッドストック裏のシリアルナンバーを酷い削り方で消してあるのは、なにがしか「盗難」か「紛失」の経緯があるのかも。

VMそれにしても酷いですね。フロントPUキャビティも、なんだか「理解不能な削り方」だし。

FVその割に、クルーソンペグがオリジナルだったり、ブリッジスタッドを加工してなかったり。楽器としての基本機能パーツに関して、破壊的なダメージが無いのは素晴らしい。

ワイドトラベルをナッシュビル・ブリッジに交換

VM僕が感心したのはブリッジですよ。もともとは、こんな感じのはずですよね。

VMだけど、なにがしかの理由でワイドトラベルが使えなくなったか、使いづらかったか。そこで、ナッシュビルを搭載するのに、ギターを加工せず、 面倒でもブリッジを削った。チューンナップの鑑(かがみ)のようです。

FV同感だな。

ゴールドとクロームのスタッド

FVよく見てごらん、ここ。

FVゴールドとクロームのスタッド。多分、ネジ頭がつぶれたのを交換するために探したんだろ。良く見つけたと思う。これが「16歳のDougによる作業」なら、100点満点以上だ。

VM当時はインターネットやeBay、ギターパーツの通販サイトは無かった時代だから、どうやって探したんでしょうね。地元の楽器店に放課後入り浸って、ワイドトラベルのゴールドスタッドを一個だけ探す高校生…。あれ、なんで泣いてるんですか?

FVううううう…、重なるものが…。

アメリカの高校生が過ごした、40年以上前の2月23日。彼らの土曜日の休日を、一枚のバックプレートに貼り付けられたアルミ箔のメッセージが、かくも鮮明に蘇らせるのは、スピリチュアルな何かを感じざるを得ない。

レフティに改造した痕跡はないのに、逆側で使ったピックガードのネジ穴。

ほとんどオリジナルを保っているサーキット

2021年2月の土曜日は、「チッチキチー」な再発見を楽しみながらも、DougやBillにメールを送ってみたい衝動にかられるのだ。人からギターを受け継ぐとは、そんな感傷的な作業の連鎖なのだと、あらためて重責を感じている。

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