やみクロ - LP(SG) JrとSG Jr
レスポールという名称に翻弄された60年代初期のダブルカッタウェイ・モデル。ギブソン史上もっとも長期に亘り君臨するモデルになるとは、当時の誰も想像しなかったでしょう。「妥協ではなく、協調」という単語がしっくりくるSGモデルの「やみクロ(やみくもクローズアップ)」です。
目次
SG時代の幕開け
ギブソンが、レス・ポール氏とのエンドースメントを解約し、独自のボディシェイプに移行した1960年は、同社ラインナップ上の最長寿モデルとなるソリッドボディ・デザインである、SG時代の幕開けです。出荷実績をみると、レスポール名を冠していた1960年には、LP Jrが2,513台生産されました。1964年には、SG Jrの名称で3,346台出荷されたので、ちょうどLPとSGの狭間が63年の年末という解釈が妥当でしょう。
シングルカッタウェイのLPボディシェイプとは縁もゆかりもないダブルカッタウェイのコウモリみたいなデザインには、もちろん当時賛否両論ありましたが、それでも店頭セールスは好調で、順調に台数をのばしています。
LP(SG) Jr | SG Jr | |
1960年 | 2,513 | |
1961年 | 2,151 | |
1962年 | 2,395 | |
1963年 | 2,318 | |
1964年 | 3,346 |
下の写真奥が、LP(SG) Jrで、手前がSG Jrです。
違いはというと…本体に行く前に、まず別売のチップボードケースです。前者(下段)がブラウンのアリゲーター柄、後者(上段)がブラック。
両方とも、ハンドルが壊れずに残っている、コンディションの良いケースが付属していました。
カタログに記載されている「116 Durabilt case」が、これですね。「音の本棚 第六回 『Little Guitars』 後編」で紹介しているので、興味ある方は是非見てみてください。
音の本棚 第6回 『Little Guitars』 後編
2021.5.7
ちょっと余談なのですが、ヴィンテージのLP JrやSG Jr、MMのオーナーの方々から、時々「オリジナルケースが傷んでいるので代わりを探しているが、カッコいいケースが無い」というご相談を受けます。フチのテーパーがフロントとバックまで回り込んでいて、アリゲーター柄で、丈夫で…
…というデザインは、確かに2023年現在、ギブソン製でもラインナップされていません。G&GやTKLあたりが出してくれると嬉しいですね。と書きつつ、なかなか登場する気配がないので、Vintage Maniacsで限定生産してみました。お役に立てれば幸いです。
ヴィンテージは、このバッジが素敵です。
LP SG JrとSG Jrの違い
では、LP SG JrとSG Jrの違いを見ていきましょう。
まずは、シングルカッタウェイのジュニアとは大きく異なるボディシェイプですが、ヘッドストックには、しっかりと「Les Paul JUNIOR」とシルクプリントされています。
64年モデルは、ヘッドには何もプリントされていません。これは区別するときにわかりやすいですね。しかし、それ以外のディテールはどうでしょうか。
シリアルナンバーはインクスタンプではなく、すでに刻印に移行していますので、2つとも似たり寄ったり。もちろん番号は年代が進むと大きくなりますから、LP SG Jrは「117440」、SG Jrは「210056」となっており、かなり離れています。
ネックジョイントや…
バックプレートを…
比較してみましたが、こちらも瓜二つで違いは見出せません。
注目のピックガードは、ファイヤーバード同様のスリーピースなので、縮みやすく、ネジ穴の横はこんな風に割れやすいです。
ファイヤーバードが「W/B/W」の3PLYなのに対して、SGは「B/W/B」で、デザイナーの美的センスというか、コダワリが伺えます。当時NAMMショーに展示された、「テレビ映えするSG Jr」には、ホワイト1PLYのピックガードが搭載されましたが、これはこれで随分とキュートだと思います。ただ、チェリーにホワイトPGだとEpiphoneっぽいかもしれませんね。
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LP SG Jrのクローズアップ
ここからは、LP SG Jrのクローズアップをご覧いただきます。フィンガーボードの木目、無茶苦茶かっこいいですね。
ハカランダっぽい匂いがプンプン(笑)します。ノブはメタルキャップ付きで、近年は良いリプレイスメントが見つかりません。割ったり失くしたりしないように注意したいものです。
ローレットのシャフトが長いのが特徴で、不用意にポットのシャフトに力をいれて押し込むと、突き抜けてしまいます。
ロッドカバーはブラックの1PLYで、これは50年代のLP Jrと共通ですね。
ピックガードの下にはロングテノンが付き出していて、丁寧な作りから繰り出される倍音豊かなホンジュラスマホガニー・サウンドの一端を担っています。なかなか見ないアングルですが、カッコいいと思います。
この個体は、ほとんど弾かれた形跡がないうえに、保管状態がすこぶる良く、ウェザーチェックもほとんど発生していません。
テールピースはステアステップとよばれる、6~3弦までが段々になっている、3弦が巻き弦だった時代のスペックで、ライトゲージを張るとピッチが合わないので、最近のギブソン製テールピースでは、ライトニングとよばれる6~4、3~1で段々になる仕様に変更されています。
割れやすい3PLYのピックガードですが、これは保存状態が良く、クラックも最低限にとどまっています。
コントロールキャビティは、初期は1PU専用のタイトな形状ですが、60年代中期頃になると、Specialと共通の、ポットが4つとトグルスイッチが収まる大きなタイプに統一されました。
レスポールという名称に翻弄された60年代初期のダブルカッタウェイ・モデルが、その後もロングランを続け、ギブソン史上もっとも長期に亘り君臨するモデルになるとは、当時の誰も想像しなかったでしょう。それだけ、「妥協ではなく、協調」という単語がしっくりくるSGモデル。まだまだ、探究は止みません。
PAF譲りのアルニコ・マグネットが咆哮するP-90は、往年のスライドギタリストを虜にした、トレブリーでキンキーな高音域が持ち味。
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